15日似実施された全国一斉休漁。東京などでは、産地から1日?2日かけて入荷するということもあって、15日に築地市場が空っぽになる、というような事態は生まれませんでした。しかし、問題は、スーパーで売っている魚の値段が上がるかどうかといった話だけではありません。
漁船の燃料であるA重油は、5年前の2.7倍に高騰しています。この率はガソリンの1.7倍よりはるかに大きい。それだけ漁業経営への影響は深刻だということです。他方、漁師さんたちが売る産地価格は、1年前、2年前との比較では若干値上がりしているものの、1990年の1キロ当たり240円前後から2007年の178円へ、大きく下がっています。
全漁連:来月15日一斉休漁 このままでは廃業…個人へ直接補助金制度なく(毎日新聞)
社説:[燃油高騰]漁業者と危機感共有を(南日本新聞)
燃油高への直接補てん困難=若林農水相(時事通信)
なぜコストが価格に転嫁されないか。結局は、大手流通資本の価格支配力が大きいということです。
大手スーパーが安売りするというのは、それだけをとってみれば消費者にプラスのようですが、長期的にみれば、日本の漁業が成り立たなくなるという結果をもたらします。コストの上昇分は価格に転嫁する。その結果、生活が苦しくなる分は、きっちり賃上げさせる。それでこそ、“健全な資本主義”といえるのではないでしょうか。(^_^;)
あと、農林水産大臣は、直接補填をするのには障害があると言っていますが、漁業経営体に直接補填するのが無理でも、たとえば燃料をまとめて買っている漁協に補助を出すとか、方策はいろいろありそうなもの。要は、やる気があるのかどうかです。
全漁連:来月15日一斉休漁 このままでは廃業…個人へ直接補助金制度なく
[毎日新聞 2008年6月26日 東京朝刊]全国漁業協同組合連合会(全漁連)など主要な16漁業団体は25日、漁業用燃料高騰について緊急対策会議を開き、7月15日に一斉休漁することを正式に決めた。養殖魚団体も協力する見通しで、この日はほぼ全魚種の供給が止まる。全漁連の服部郁弘会長は「このままでは(多くの)漁業者が廃業に追い込まれる」と窮状を訴えた。しかし、政策の選択肢は限られ即効薬は見当たらないのが実情だ。【行友弥】
一斉休漁を決めたのは全国約1100の沿岸漁協が所属する全漁連、漁協に属さない遠洋・沖合業者らを中心とする大日本水産会のほか、カツオ・マグロなどの業界団体。所属漁船は合計約22万隻に上り、その大半が休漁に参加する見通し。
全漁連によると、漁船用A重油の小売価格は今月、1キロリットル当たり10万6500円と初の10万円台に突入。03年平均の3万9000円から約2.7倍に上がり、漁業コストに占める燃料代の比率も06年の19%から30%に上昇している。一方、魚の値段は市場の競り需給関係で決まり、コスト上昇分を転嫁しにくい。ここ数年は海外の水産物需要が増え、値上がり傾向を示しているものの、主要魚種の平均産地価格は03年の1キロ当たり136円から昨年の178円と3割程度の上昇にとどまる。
多くの漁業者は現金収入を得るため、赤字でも操業を続けざるを得ない。全漁連は、A重油が1キロリットル当たり13万円になれば約12万の漁業経営体(法人を含む)の3割が廃業し、漁業生産は4割減ると試算。廃業の増加で供給が減り始めれば魚価高騰が加速し、消費者の食卓にも大きな影響が出る可能性がある。
燃料高騰に応え、水産庁は07年度補正予算で102億円の対策費を計上した。漁場探しや洋上給油を共同で行ったり、集魚灯の光を弱めるなど省エネの取り組みを助成する内容だが、「漁業者の懐に直接カネが届くような対策を」(自民党議員)との声も強まっている。
海外では、フランスや韓国などが税制面の対策やコスト増の一部を事実上補てんする手法を打ち出した。しかし、日本では農漁業用A重油にかかる石油石炭税(1キロリットル当たり2040円)が全額還付される制度が元々あるほか、個人に直接支払う形の補助金は出せない原則もあり、仏韓のような対応は難しい。◇飲食店に不安も
今回の休漁は1日限りのため消費者への影響は最小限にとどまる見通しだが、漁業団体幹部は「再度の休漁もないとは言えない」と話す。飲食店にも不安感が広がり始めた。
東京都世田谷区の鮮魚店「魚辰」の大武浩社長(40)は「燃料高騰分を生産者、卸、小売り、消費者のどこかで負担しなくてはいけないが、消費者の魚離れが進んでおり、価格が上がれば売りにくくなる」と心配する。
メバチマグロは海外の休漁で既に値が上がり始めている。持ち帰りずしチェーン大手の小僧寿し本部も、仕入れ値上昇で、マグロの使用量を減らしている。担当者は「消費者には『魚は安い』というイメージが根強い」と指摘。回転ずしチェーンのカッパ・クリエイトも「半年先まで原油が高いまま続くなら、値段に跳ね返らせざるを得ない」(広報担当者)と懸念する。
東京都中央区のすし店主(65)は「マグロがないすし屋はあり得ない。高くなれば高値で買うしかないが、その時はすしの値段を上げるしかない」と話した。【望月麻紀、森禎行】
社説:[燃油高騰] 漁業者と危機感共有を
[南日本新聞 2008/6/22付]とどまる気配のない原油高が食卓を脅かし始めた。この異常な状態が続くと、魚料理を口にする回数が減るかもしれない。漁業者たちの忍耐が、もう限界だからだ。
10日、いちき串木野市の遠洋マグロ船の老舗業者が事業を停止した。全国の小型イカ釣り船3000隻は、18日から2日間、一斉休漁に踏み切った。鹿児島県漁業協同組合連合会も、7月に予定されている全国行動に歩調を合わせ、県内の漁船1万1000隻に漁を休むよう要請する。燃料急騰に苦しむ全国の漁業者たちの悲鳴が聞こえるようだ。
漁船に使われるA重油の値上がりぶりには驚かされる。全国平均価格は、2003年に1リットル39円だった。ところが今月は104円と、5年間で2.7倍になった。高くなったと騒がれるガソリン価格は、同期間で1.7倍だから、影響は深刻だ。
いちき串木野市船籍の遠洋マグロ船は58隻で日本一である。インド洋や大西洋など世界の海を漁場とし、1回の航海は1年半にも及ぶ。船主の1人は「この燃料代では1隻で1日に30万円の赤字。1航海で1億円以上の足が出る」と嘆く。
事業を停止した業者は、マグロ価格下落で経営が厳しいところに、燃料急騰が追い打ちをかけ、資金繰りに行き詰まった。南インド洋で操業していた2隻の燃料確保が難しいと判断し、燃料が残っているうちに日本へ帰るよう指示したという。50年以上守り続けたのれんを下ろさざるを得なかった経営者の無念さは、察するにあまりある。
マグロに限らず、漁業者たちは長年の魚価低迷に苦しんできた。全魚種の平均産地価格は、1990年に1キロ当たり240円前後だった。以来、右肩下がりを続け、2007年は178円である。消費者の魚離れが進んだ上に、量販店主導の価格設定が主流となり、コストを転嫁しづらいからだ。
燃料代は価格に反映されず、魚料理は「調理が面倒」「ゴミが出る」などの理由で敬遠されてきた。かといって値段が上がれば、魚離れが加速する恐れがある。全国一斉の休漁は、原油高騰に対する抗議であるとともに、以前より魚を食べなくなった消費者への警鐘ともいえよう。
漁業者たちは今「日本の船がとってくる魚が食べられなくていいのか」と問いかけている。私たちはどう答えるのか。危機感を共有し、魚食を考えるきっかけにしたい。
燃油高への直接補てん困難=若林農水相
[時事通信 2008/07/15-11:57]若林正俊農水相は15日の閣議後記者会見で、漁業関係者が政府に求めている燃油費高騰への直接補てんについて、「ストレートに補てんするのは種々困難がある」と述べた。農水相は「現在の予算や仕組みの中で最大限の対策を講じる。具体的内容は現在詰めている」と答えた。
全国の漁船約20万隻が同日踏み切った一斉休漁に関し、同相は「国民生活に混乱が生じることがないよう十分配慮しながら進めていくと承知している。漁業者の心情は察するに余りある」と述べ、一定の理解を示した。
【追記】
こちらの資料によると、少々古い数値だけれども、水産物の消費地価格にたいする産地価格の割合をみると、2003年で22.9%。農産物だと、平均で40%ちょっとあるそうなので、いかに漁業従事者の置かれている立場が弱いかということが分かる。