日経新聞の話題ばかりで恐縮ですが、これも昨日の日経新聞夕刊にのっていたもの。
作家の江波戸哲夫氏が、「最近、日を置かずして会った複数の旧友が、揃ってマルクスの名を口にしたので、驚くとともに合点もした」と言って、マルクスと資本主義の限界?!について論じています。
江波戸さんは、「社会主義の自滅で葬り去られたはず」「社会主義のほうがもっと悪かった」と書かれています。もちろん、誰もソ連の方がよかったなどという人はいないでしょう。
しかし、大事なことは、「自滅」したのは、マルクスが考えたような社会主義・共産主義とはおよそ無縁の社会だった、ということです。資本主義の暴走をどうにかして止めなければならないとすれば、「もうマルクスには戻れない」ではなく、もう一度、マルクスにきっちり立ち戻って、あらためてマルクスが考えた資本主義の矛盾と、それを乗り越える社会主義・共産主義の展望とは何かを考えてみることではないでしょうか。
【さらりーまん生態学】
だれが止めるのか/江波戸哲夫
[日本経済新聞 2008年7月17日付夕刊]最近、日を置かずして会った複数の旧友が、揃ってマルクスの名を口にしたので、驚くとともに合点もした。
カール・マルクス。1990年前後の社会主義国の自滅で葬り去られたはずだが、最近の世界情勢はいっそうマルクスの描いた構図に近づいているように私にも見える。
巨大資本は――、
…温暖化で氷河が溶けるのを幸いと北極での資源開発に力を入れ、
…はたまたバイオエタノール用の植物を作ろうと、森林に放火をしてさえ開墾に血道を上げ、
…ヘッジファンドなどの巨富は環境や食糧までもマネーゲームのターゲットとしている。
マルクスの唱えた「自己増殖する資本」は今やモンスターのように凶暴化して地球を食い尽くそうとし、その裏に目を覆う貧困=「絶対的窮乏化」が蔓延している。
しかし旧友ももはやマルクスに戻れるはずもないと苦笑していった。
「かといって社会主義のほうがもっと悪かったからな」
「国や国際会議で資本の増殖を調整できればいいんだが、G8の共同宣言ではおまじないにしかならない」
「無理だよ。どの国も油断をしていたら、相手に出し抜かれ、ひどい目にあうと心配で仕方ないんだ。現にそうなっているからね」
「ああ、おれもときどき、図々しい隣国に比べて日本はなんてモタモタしているんだ、と腹が立つことがある」
「結局それが肥大化して地球を食い尽くすんだぜ」と旧友は混ぜ返し、あとの言葉を呑んだ。
誰もが不安に苛まれる人類の崩壊への行軍を止める方法が、まだ誰にも見つからない。
いつかどこかで天罰が下り、別の崩壊が止めてくれるのを待つしかないのだろうか?