WTO交渉が決裂

WTO閣僚交渉が最後の土壇場で決裂。

直接の要因は、発展途上国に認められる農産物の緊急輸入制限措置について、アメリカが条件を厳しくして発動しにくくしようとしたのにたいして、中国やインドが反発したためだが、工業産品の輸出自由化のために農産品が関税引き下げの犠牲にされるという構図そのものに根本的な問題がある。

WTO交渉決裂、米と中・印が対立(TBS News-i)
WTO閣僚会合決裂 インド・中国と米、対立とけず(朝日新聞)

WTO交渉決裂、米と中・印が対立
[TBS News-i 最終更新:2008年7月30日(水) 4時55分]

 貿易自由化のルールを協議してきたWTO=世界貿易機関の閣僚会合は、先進国と途上国の対立が解消できず、交渉が決裂しました。
 スイスのジュネーブで21日に始まったWTOの閣僚会合は、懸案とされた農産物の関税引き下げなどについて、事務局長の調停案に沿って一時は合意に近づいていました。
 しかし、発展途上国に認められる農産物の緊急輸入制限措置、いわゆるセーフガードをめぐってアメリカと中国、インドの対立が激化し、29日に行われた主要国の閣僚会合でも妥協点が見いだせず、協議の継続を断念しました。
 日本は関税引き下げによる国内農業への打撃をひとまず回避できたことになりますが、鉱工業も含むWTOの交渉は、当面打開のめどが立たなくなりました。 (30日04:00)

WTO閣僚会合決裂 インド・中国と米、対立とけず
[asahi.com 2008年7月30日1時8分]

 【ジュネーブ=小山田研慈、尾形聡彦、村山祐介】世界貿易機関(WTO)多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の合意を目指して開かれていた閣僚会合は29日、調整が不調に終わり、決裂した。複数の交渉筋が明らかにした。農産品の輸入が急増した時、途上国に限り認める「特別緊急輸入制限(セーフガード)措置」の発動条件を巡ってインド・中国と米国が対立し、溝を埋められなかった。
 交渉に影響力を持つ米国の大統領が来年1月に交代するため、交渉は長期の凍結となる可能性が高い。ドーハ・ラウンドによる世界の貿易自由化ルールの見直しは当面、期待できなくなった。
 米国のシュワブ通商代表部(USTR)代表は29日夕、「米国の提案は机の上に残しておく」と記者団の前で語った。ニュージーランドの交渉団も「交渉は決裂した」と語った。日本政府の複数の関係者も決裂を認めた。
 農業と鉱工業品の両分野での関税削減など自由化ルールを中心に、閣僚会合は21日から続けられていた。25日にはWTOのラミー事務局長による裁定案が示され、日米欧など主要国の間でいったん合意の機運が高まった。ところが、特別セーフガードを巡る話し合いがこじれ、28日から難航し始めた。
 自国の農業を守るために、機動的にセーフガードを発動したい食料輸入国のインド・中国と、厳格な発動基準を求める食料輸出国の米国が、ともに譲らなかった。新興国・途上国の影響力が大きくなっていることが浮き彫りになった。
 今回の交渉は、農業分野と鉱工業品分野のセットでの合意が条件になっている。各国が両分野の交渉をそれぞれの駆け引きに使ったことも、交渉を難しくした。
 来年1月の米国大統領の交代前にラウンド全体を妥結させるためには、各国の手続き上、7月中に農業・鉱工業品分野での合意が必要とされていた。米国で政権交代があれば、米国の方針が変わる可能性も高い。「今回合意できなければ、ラウンドは2?3年漂流する」(甘利経済産業相)と言われていた。
 交渉が妥結すれば、世界的な規模、幅広い分野で同時に関税引き下げなどが行われ、特に途上国間の貿易にプラス効果が多いとみられていた。今後は自由貿易協定(FTA)など二国間での交渉が増えるとみられる。ただ、自国や同じ考えのグループ以外を排斥しようとする保護主義色が強くなる懸念もある。また、二国間交渉の場合、途上国が不利になることが多いとされる。
 日本は農業の重要品目や関税の引き下げで譲歩を迫られていたが、今回の閣僚会合が決裂したことで、結論は宙に浮いた形になった。

     ◇

 セーフガード 輸入急増による国内産業への悪影響を防ぐため、WTO協定で認められている緊急輸入制限措置。うち、途上国に限り、農産物について発動できるのが「特別セーフガード措置」で、04年に導入を決めた。ただ、具体的な発動条件は決まっていない。

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