日本経団連の「富士夏季フォーラム」のアピール。
資源・エネルギー問題(絶対に「地球環境問題」と言わない)の解決として、原子力の利用をくり返し強調している。食糧価格の高騰を「農業の改革」の「絶好の機会」だと言ってすませるセンス。「税・財政・社会保障の一体改革」の名のもとに、消費税増税を求めている。
日本経団連:アピール2008 ?グローバル化の中での日本企業の針路? 2008-07-25
アピール2008――グローバル化の中での日本企業の針路――
2008年7月25日
(社)日本経済団体連合会
第7回東富士夏季フォーラム資源・エネルギー・食料価格の高騰や地球環境問題への対応、国際金融不安と世界経済の減速など、グローバルな課題が山積し、景気の先行き懸念が強まり、わが国企業をとりまく環境は、厳しさを増している。
われわれは、かかる状況を悲観的に捉えるのではなく、むしろ試練を乗り越え、未来を切り拓くための好機と認識したい。そして、わが国の強みであるモノづくりを基盤として、内外の知を融合する「日本型イノベーション」を通じて、世界の発展に寄与していきたい。
原子力や再生可能エネルギーの利用拡大と革新的技術によるブレーク・スルーこそが、資源・エネルギーや地球環境問題の真の解決につながる。同時に、行き過ぎた投機に対しては、監視を強化していくべきである。
また、内外価格差が縮小している今が、農業の改革を推進し、国際競争力を強化する絶好の機会である。特にわが国の伝統的な主食であるコメの良さを再認識し、消費の拡大に努めることが、自給率の向上にもつながる。
同時に、国民の将来不安を払拭するとともに成長力を強化するため、税・財政・社会保障の一体改革が急務である。
これらの諸課題を解決するためには、政治のリーダーシップが不可欠であり、政治には、国民本位、国益優先の議論を行い、遅滞なく改革を実行することを強く求めたい。以上がこの2日間にわたる討議から得られたわれわれの共通認識である。こうした認識の下、以下に掲げる具体的な方策の実現に、国民の理解と共感を得ながら、全力で取り組む決意である。
グローバルな諸課題解決のための産業界の決意
1.資源・エネルギー・食料・水問題等への取組み
- ODA等を積極的に活用した官民連携による資源外交力の強化
- 日本の技術による食料増産・水問題の解決を含む途上国支援
- 省エネルギー・省資源ならびにリサイクル等の推進に向けた産業の総合力向上
- 原子力の活用と国民理解の増進に向けた取り組みの強化、再生可能エネルギーの拡充
- 魅力ある農業経営のための基盤強化及び食育の充実に向けた農業界等との連携・協力の推進
2.低炭素社会実現への取組み
- 日本の技術を活用した地球規模の温室効果ガス削減への貢献
- 京都議定書の目標実現に向けた自主行動計画の確実な達成
- 国民のライフスタイルの変革を促す製品・サービス・情報の提供
- 経済・社会への影響及び国民負担を考慮した中期目標のあり方の検討
- 全ての主要排出国の参加、科学的・合理的な目標設定が実現するポスト京都の枠組みづくりへの貢献
- 新たな経団連行動計画の策定
3.イノベーションを促進するための取組み
- 政府の研究開発投資の拡充への働きかけ
- 世界トップレベルの研究・教育拠点の構築
- イノベーション人材の育成、海外からの優秀な留学生・研究生受入れの推進
- 若者の理科離れ問題解決への貢献
- 異分野連携・広域連携を含めた地域発イノベーションの促進
- 産学官協働による国家的プロジェクトの推進
- 地球規模の問題解決に向けた重点研究開発課題の設定と国際共同研究の推進
- 研究開発から知財獲得、標準化まで一体的な企業戦略の強化
4.税・財政・社会保障制度の一体改革実現に向けた取組み
- 社会保障の各制度に係る綻びへの緊急対応と中長期的な持続可能性の確立
- 景気回復、成長力強化に必要な税制措置ならびに消費税率の引上げを含む、税体系全体の見直し
- 2011年度の基礎的財政収支黒字化の確実な達成
以上
「基礎的財政収支黒字化」については、今日の日経新聞「大機小機」欄におもしろい記事が載っていた。
財政収支の黒字化を急ぐな
[日本経済新聞 2008年7月30日付朝刊]政府は2006年度の「骨太の方針」に基づいて、11年度までに国と地方の基礎的財政収支の黒字化を実現する方針を続けている。その結果、様々な問題が生じている。
例えば最近の2度にわたる東北地方の地震だ。発生後の救助対策には力を入れているが、それより大事なのはあらかじめ土砂災害、洪水の危険を小さくすることである。日本では数年ごとに大地震が起こる。日本の橋梁(きょうりょう)の多くで落下事故が起きる恐れもある。財政を引き締めて災害を多くするようでは適切な政策とは言えない。
高齢化社会に直面してその負担増を後期高齢者に負わせるのも国民の不満を招く。産婦人科や小児科を中心に医師不足を招いている医療体制の改善も重要である。道路費用の削減は地方公共団体の不満を引き起こす。教育費の比率が国際的に見て低いことも問題である。エネルギー対策にも多額の予算が必要だ。さらに対外援助予算を削減してきた結果、日本の援助は国際的にも少なくなり、これを改めて、アフリカ向け援助を増やさなくてはならなくなった。
これらの支出増の要求に対し、基礎的財政収支の目標をどう実現するつもりか。消費税率を引き上げて歳入を増やすという意見もあるが、現在のようにデフレの危険がある場合、国民の反対が強くてできないし望ましくもない。結局、基礎的財政収支の黒字化を急ぐのは不可能だ。収支不足の拡大は公債の増発で埋めるほかない。国の債務が国内総生産(GDP)の1.5倍にも達し、これを一層拡大すれば国家破産の危険を招くという声もあるが、決してそんな危険が近いわけではない。
こうした意見は日本では少ないが、世界では決してそうではない。マサチューセッツ工科大学のポール・サミュエルソン名誉教授も日本は財政支出の増大と減税によって景気を刺激すべき時だと言っている(日経ビジネスマネジメント08年夏号)。政府支出の増大には無駄を伴いがちだという問題はあるが、それさえ注意すれば交響的な需要の必要額を国民から借り、国民が貸すということは不健全ではない。多くの交響的需要を抱えながら、歳入不足を理由にそれを抑制しようということこそ不健全な政策である。
借金を無理に返すよりも必要な財政を支出し、生産力を強めて税金の自然増収を増やし、長期的に収支を均衡させていくべきである。(越渓)
「日本経済新聞」といえば、財界・大企業の新聞と言われていますが、そこでも、こんな意見が出ているのです。消費税増税なんてもってのほか。減税による景気刺激策をとれ。ムダな公共事業を広げる必要はないけれど、社会保障費や医療充実のためにはちゃんと予算を使うべき。ごもっともなご意見です。