東京女子美大の島村教授がブログで紹介(Prof. Shima's Life and Opinion : シンガポールでも「蟹工船」現象を報道)されていますが、シンガポールの英字紙「ストレーツ・タイムズ」に、日本のワーキングプア問題と『蟹工船』ブームにかんする記事が掲載されました。
ということで、インターネットを探してみると、その記事が見つかりました。こちら↓です。
'Working poor' issue proves a page-turner – The Straits Times
ということで、またもやヘッポコ訳です。くり返しますが、ヘッポコ訳の転載・引用はご容赦願います。引用される場合は、英文からご自分で翻訳してください。また、今回もかなり大胆に訳してますが、根本的な間違いがあった場合は、ご指摘下さい。よろしくお願いします。m(_’_)m
「ワーキングプア」問題が示したある小説の面白さ
若者へのメディアの注目を背景に80年前の古い小説の売れ行きが急上昇
[ストレーツ・タイムズ紙 2008年8月13日]
By Kwan Weng Kin(東京)評論家たちが今日の日本の「ワーキングプア」の窮状をそっくり鏡に映したようだという1つの小説が、この数カ月でベストセラーのほとんど第1位になっている。
しかし、その本―『蟹工船』は、実は約80年前にマルクス主義者の作家、小林多喜二によって書かれた。
出版元の新潮社によれば、この本を買った人のほとんどが、10代後半から40代までの、現役世代前半の人々だ。
しかし、彼らは、日本の「ワーキングプア」の大多数であると推定されている。「ワーキングプア」というのは、メディアが考え出した言葉で、十分に暮らしてゆけるほどの収入を稼げず、当然、結婚したり子どもを持つということなど考えられない人々のことである。
『蟹工船』は、実際におきた事件をもとにして、オホーツク海でカニを捕り缶詰にする船のうえで低賃金で働かされる労働者たちの非人間的な存在と、自分たちの運命をきりひらこうとする労働者たちのたたかいを描いている。
この小説のマンガ版が最初に出版されたのは2006年11月だった。1年後には、別のマンガ版が続いて出された。
しかし、どちらもインパクトは小さかった。
ブレイクしたのは、「毎日新聞」が、日本における富裕層と貧困層の格差拡大をテーマにした2人の作家の長い対談を載せた今年1月だった。
2人は、対談のはじめに、たまたまこの小説に言及した。
パンク・ロッカーで若者の問題について書くようになった右翼活動家の雨宮処凜は、こう言った。「昨日読んだ『蟹工船』という1920年代に書かれた本のようなことが、いま起きている。その小説が描いている情況は、今日のフリーターたちの情況と非常によく似ている」
「偶然の一致だが」と、作家で大学教授でもある高橋源一郎は言った。「私はいまこの小説を、担当のクラスで読んでいる」。
学生たちはこの小説に共感することができた、彼は言った。
雨宮によれば、日本の若者は、蟹工船が描いているものをリアルだと受けとっている。なぜならば、彼ら自身の労働条件がそこまでひどくなってしまっているからだ。
「毎日新聞」の対談から1カ月して、有力紙の「朝日新聞」に、小林多喜二の母校が、彼の没後75周年を記念して、『蟹工船』の感想エッセーを募集したという記事が載った。約120通のエッセーが寄せられ、そのなかには中国からのものも含まれていた。
その後、メディアの関心が、都内のいくつかの書店でのこの小説の売れ行きに拍車をかけた。
まもなく、新潮社は、注文に応じきれなくなった。
それまでは、この本が年間に売れるのは5000部ほどだった。新潮社のスポークスマン、マチイ・タカシによれば、同社は、今年だけでこれまでに48万部を増刷した。
1953年の文庫本初版からの売れ行きは、全部で160万部に達した。
最初に出版されてから何年もたって、こんなブームになった本を、マチイは思い出せなかった。
「ワーキングプア」問題は、日本にいつまでもつきまとい続ける。なぜなら、〔現役〕労働者が退職後の高齢者たちをささえることになっているこの国の年金制度にとって、ワーキングプアの問題は、将来にまで影響するからである。
福田康夫首相は、昨年10月国会で、「ワーキングプア」についての公式の定義はないが、恐らくフリーターたちやパートタイム労働者、片親家族、貧困ライン以下で生活する人たちが含まれる、と答弁した。
年間200万円(2万4500ドル)未満しか所得をえていない日本人は1000万人ほどいると言われている。
多くは、1990年代から少しずつ実行された経済自由化政策の犠牲者である。
小泉純一郎元首相は、しばしば問題を悪化させたと非難されている。それは、日本の企業が、もっと国際競争力をつけるために、常用スタッフを賃金のもっと安いパートタイム労働者に置き換えるように奨励されたのは、2000年代初めの小泉政権の間のことだからだ。
このような企業政策の結果として、多くの日本の若者が、高校や大学の卒業後、正社員としての勤め先を見つけられなかった。
数年パートタイム労働者として働いたあとで、彼らは、すぐに仕事ができるときでさえ自分たちが正規雇用の職から排除されていることに気づいた。なぜなら、大多数の雇用主は依然として新卒者を採用したがるからだ。
つけ加えれば、6月、東京の秋葉原でナイフを振り回して暴れ、死者7人負傷者10人を出した事件の容疑者はワーキングプアの典型例だ。
社会に対する深い幻滅が、この事件を起こした理由だろうと指摘されている。
『蟹工船』の新たな成功について、東京の早稲田大学の十重田弘和教授は、ロイターに次のように語った。「いまでは事態は、日本の高度経済成長時代の安定した雇用諸条件とは変わっている」。
「終身雇用は過去のものになり、人々が自分の年金を受け取れるかどうかは不確実だ。そんな不安が人々をこの小説に向かわせているのだと思う」
原文は以下のとおり。
[The Straits Times Aug 13, 2008]
'Working poor' issue proves a page-turner
Sales of 80-year-old book soar on back of media focus on young Japanese
By Kwan Weng KinTOKYO: A novel that critics say perfectly mirrors the plight of today's 'working poor' in Japan has been nearly topping bestseller charts for the past few months.
However, the book Kani Kosen (Crab Canning Ship) was actually written almost 80 years ago by Marxist writer Takiji Kobayashi.According to publisher Shinchosha, most of those who bought the book are people in the prime of their working life, from the late teens to the late 40s.
But they are presumed to be mostly members of Japan's 'working poor', a phrase coined by the media to describe people who do not even earn enough to make ends meet, let alone think of getting married or starting a family.
Based on a true story, Kani Kosen tells of the diabolical existence of underpaid workers on board a ship that catches and cans crabs in the Sea of Okhotsk and the workers' attempts to improve their lot.
A manga version of the story first appeared in November 2006, followed by another version a year later.
But both made little impact.
The big break came in January this year when the Mainichi Shimbun daily carried a lengthy dialogue between two writers on the theme of the widening gap between the rich and poor in Japan.
They kicked off the dialogue with casual references to the book.
Ms Karin Amemiya, a punk rocker and right-wing activist who turned to writing on the problems of the young, said: 'It so happens that yesterday I read this book called Kani Kosen written in the 1920s. The situation it describes is exactly like those of today's freeters.'
'Coincidentally,' said writer and university professor Genichiro Takahashi, 'I read the book recently as I had to teach a class.'
His students, he said, were able to empathise with the story.
According to Ms Amemiya, young Japanese regard what Kani Kosen says to be real because their own labour conditions have become so terrible.
The Mainichi article was followed a month later by a report in the influential Asahi Shimbun newspaper about Kobayashi's alma mater inviting essays on impressions of Kani Kosen to mark the 75th anniversary of his death. Some 120 essays were received, including from China.
The media attention subsequently spurred sales of the book at several bookstores in Tokyo.
Soon, Shinchosha could not bring out enough copies to meet demand.
Until then, about 5,000 copies of the book were sold each year. This year alone, the company has so far moved 480,000 copies, according to Shinchosha spokesman Takashi Machii.
Total sales since its first publication in 1953 as a paperback has reached 1.6 million copies.
Mr Machii could not recall any other book enjoying boom years after it was first brought out.
The 'working poor' issue continues to haunt Japan as it could have far-reaching implications for the nation's pension system, which depends on workers supporting the retired elderly.
Prime Minister Yasuo Fukuda said in Parliament last October that there was no official definition of 'working poor' but that they probably included freeters, part-timers, families with single parents and those living under the poverty line.
There are said to be as many as 10 million Japanese who earn less than two million yen (S$25,400) a year.
Many are the victims of economic liberalisation policies that had been slowly put in place since the 1990s.
Former premier Junichiro Koizumi is often accused of exacerbating the problem, as it was during his administration in the early 2000s that Japanese companies were encouraged to substitute permanent staff with cheaper part-timers so that they could be more competitive internationally.
As a result of such corporate strategies, many young Japanese were unable to find permanent employment after graduation from high school or university.
After working for several years as part-timers, they find themselves rejected for permanent jobs even when they are available, as most employers still prefer to hire fresh graduates.
Incidentally, the suspect behind the stabbing rampage in Tokyo's Akihabara district in June, which saw seven dead and 10 injured, is a typical example of the working poor.
Deep disenchantment with society has been cited as a possible reason for the crime.
Explaining the newfound success of Kani Kosen, Professor Hirokazu Toeda of Tokyo's Waseda University told Reuters: 'Things are different now from the stable employment conditions of Japan's period of high economic growth.
'Life-time employment is gone and it is uncertain whether people will receive their pensions. I think such insecurity attracts people to this text.'
それから、島村先生が引用している「北海道新聞」の記事はこちら↓。「ストレイツ・タイムズ」紙の紙面が写真で紹介されています。さすが多喜二が活動した北海道の地元紙だけのことはあります。
「蟹工船」海外も注目 シンガポール英字紙が紹介 「日本の格差」論評(北海道新聞)
「蟹工船」海外も注目 シンガポール英字紙が紹介 「日本の格差」論評
[北海道新聞 08/15 07:53]【シンガポール14日斎藤正明】シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは13日、プロレタリア作家の小林多喜二(秋田県出身、小樽育ち)の「蟹工船」が日本で異例の売れ行きを示していると国際面トップで伝えた。低賃金に苦しむ人々の共感を得た結果だとして、日本の格差社会の進行の現れと論評している。
東京発の記事は「オホーツク海でカニを捕って缶詰にする労働者を描いた約80年前の文学作品が、結婚できず家庭も持てない現代の『ワーキングプア』の関心を集めている」と指摘。新潮社の文庫版が今年に入り48万部売れたと紹介した。
日本の格差社会の現状について「約1,000万人が年収200万円以下で暮らしている」と報告。「多くの若者は、高校や大学を卒業した後、定職を見つけることができないでいる」と説明している。
同紙は、こうした状況が1990年代からの経済自由化政策で進行したとして、「小泉純一郎元首相が悪化させたといわれている」と指摘した。