外貨準備でドル離れが進む

今朝の「日経新聞」に載っていた記事によれば、世界全体の外貨準備に占める米ドル比率が63%(今年3月)にまで下がっているのだそうだ。その一方で、ユーロは27%まで高まっている。

基軸通貨としてのドルも、そろそろ終わりなのかも知れない…。

かつては、ドルだけが金(きん)とリンクしていたが、各国は外貨準備として保有するドルを世界貨幣=金と交換することが可能だった。しかし、金・ドル交換停止(1971年)いらい、ドルは金の裏付けを失った。それでは、なぜいまもドルが世界の基軸通貨として通用するのか? それは、ドルを持っていた方が決済に都合がいいという、もっぱら実際的な理由による。つまり、各国が自国通貨の外貨準備を主としてドルで保有しているからにほかならない。

だから、たとえば、もし世界各国の外貨準備の半分がユーロになれば、なにもドルを使わなくてもユーロでどんどん決済ができるようになる。そしてそうなれば、外貨準備を、将来値下がりすることが予測されるドルで持っていることは、資金の目減りの恐れがあるわけだから、ドルを売ってユーロに交換する動きが強まることになるだろう。そして、そうやってドル売りが広がれば広がるほど、ますますドル安になり、それがますますドル売り、ドル離れを進めることになる。

さて、ドル63%、ユーロ27%というのは、そろそろその危険水域に近づきつつある、ということになるのだろうか?

外貨準備 ドル比率最低に/世界の合計3月末63%IMF調べ ユーロの台頭映す
[日本経済新聞 2008年8月23日付朝刊]

 【ニューヨーク=山下茂行】世界の外貨準備に占める米ドル比率の低下が止まらない。国際通貨基金(IMF)の調べでは3月末時点で、各国金融当局が保有する外貨準備のうち米ドルの比率は63%と、1999年のユーロ発足以来で最低となった。ユーロ台頭に加え、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題をきっかけに、米経済力を象徴してきたドルの基軸通貨としての立場は浸食されつつある。

外貨準備に占める米ドルとユーロの比率(「日経新聞」2008年8月23日付)

■円は3%に半減

 IMFによると、外貨準備のうちで通貨構成が確認されているのは米ドル換算で合計約4兆3200億ドル(約475兆円)。このうち米ドルで保有されているのは約2兆7200億ドルで、その比率(63%)は、昨年末に比べ1ポイント低下した。
 米ドルの比率は、ユーロが発足した99年当時は70%超だったが、2001年6月の73%をピークに下落に転じた。半面、ユーロの比率は18%前後から、今年3月末に27%と最高を更新した。円の比率はこの間に6%から3%に半減した。
 ユーロ圏の景気は足元で減速基調が強まっているものの、ここ2、3年は経済成長率で米国を上回る場面も目立ち、ユーロの外貨準備への組み入れを促した。一方、ドルは主要通貨に対して02年以降、下げ基調が続いているため、為替リスクの観点から外貨準備のドル集中を見直す動きもある。サブプライム問題をきっかけにした米金融市場の混乱も、こうした動きを助長している。

■中ロなどが距離

 米国と政治的にやや距離感を置くロシアや中国が、ドル離れを始めているとの見方が市場では強い。
 ロシアは数年前からユーロやスイスフランの比率引き上げに着手している。同国の外貨準備は8日現在、5900億ドル超。内訳は公表していないが、米ドル、ユーロがほぼ45%ずつ、英ポンドが9%弱、日本円が1%弱でその他スイスフランなどのもよう。米ドルは1年前まではほぼ5割を維持していたが低下傾向にある。中銀は年内をめどに運用を見直すことを検討。米ドルの比率を下げ、カナダドルなどを加えるとみられる。
 6月末時点で1兆8088億ドルと世界最大の外貨準備を保有する中国は、外貨準備の6?8割をドルで運用しているといわれてきた。経営が不安定になった米住宅公社が発行する債券なども大量に購入してきたが。「米ドル以外の資産へのシフトを加速する」(メリルリンチ)との見方が強まっている。特にドルが急落した昨年後半以降「ユーロなど他通貨の比率を高めている」との観測が絶えない。

■中東でも見直し

 湾岸産油国は外貨収入の多くを米ドル建てで取引される原油や天然ガスの輸出に頼るため、外貨準備の8?9割以上は米ドルが占めると推定されている。
 ただ、事実上の外貨準備の一部である政府系ファンドの資産では、ドル建ての比率はおおむね4?5割程度。カタール投資庁は07年、約600億ドルの資産のうち米ドル建ての比率を2年間で99%から40%に大幅に圧縮し、40%をユーロ、20%を英ポンドなどの通貨建てに組み替えた。
 世界的に外貨準備のドル比率が低下すれば、ドル相場がさらに下落したり、米国債の買い手が減少するなどして、米経済の先行きが一段と不透明になる恐れもある。

ドル比率低下こう見る

◎米財政悪化懸念も一因
 吉川 雅幸氏(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト) 外貨準備に占めるドルの比率が下がる方向性は変わらないだろう。経常収支の不均衡が大きい中で新興国が外貨準備を積み上げているが、通貨分散の圧力が高まっている。
 米国が金融緩和を続けた結果、世界に多くのドルが供給された。これ以上ドルの保有を増やそうという意欲は薄れている。
 金融システムを立て直すために米国では財政出動の可能性が高まっている。財政への悪化懸念もドルの比率を低下させる一因となる。
 外貨、準備の分散が進むなかで一部は円にもシフトし、円高を招く可能性もある。

◎ユーロへのシフト一巡
 福井 真樹氏(みずほコーポレート銀行シニア・マーケット・エコノミスト) 中東産油国やアジア諸国を中心に外貨準備をドルからユーロにシフトする動きは2003-04年にかけて活発だった。米国は経済や金融に不安を抱え、ドルを巡る環境は厳しくなっている。しかし、ユーロへのシフトはそろそろ一巡した可能性がある。
 為替相場の変動の影響を除くと、外貨準備に占めるドルの比率はそれほど減っていないからだ。
ドル安が進んだ割には準備通貨としての位置付けは底堅いといえる。ユーロが下落する局面ではユーロを買い増す動きが出る可能性があるが、ユーロの比率が今後も高まっていくとは考えにくい。

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