遣労働者の労災が2007年に5885人、3年間で8.8倍と急増している。労災全体にしめる派遣労働者の労災の比率も、0.5%から4.8%大きくなっている。死亡者が年間36人というのも大変な数字だ。
製造部門が全体の約3分の2を占めており、製造部門への労働者派遣が解禁されたことが、労災の増加をまねいていることは明白だ。山陽新聞が社説で、「派遣を認める業種の在り方も再考すべき」と提起している。
派遣の労災急増5885人、3年間で8倍に…厚労省調査(読売新聞)
派遣労働者:労災急増、製造業解禁の規制緩和が裏目に(毎日新聞)
(社説)派遣の労災 大幅増加は深刻な問題だ(山陽新聞)
派遣労働者、とくに日雇い派遣の場合、仕事中の怪我は即クビにつながりかねない事態で、労災申請どころではない。だから、これ以外にも実際には労災だったという事故、怪我がたくさんあるはずだ。派遣先企業(派遣労働者を受け入れる側の企業)の労働安全義務をもっと強めるべきだし、労災を理由に派遣労働者が不利益をこうむったり、派遣先企業が派遣元企業(人材派遣会社)を切り替えたり、料金引き下げなどを要求したり、できないようにすべきだろう。
しかしそうはいっても、労働者派遣事業そのものが、そもそも人件費を外注経費に切り替えるものである以上、労災=「外注経費の増加」になってしまい、そうなれば、市場原理に従っている限り、派遣会社が変えられたり、派遣料金の切り下げを求められたりすることになってしまう。だから、一方で自由な人材派遣を認めながら、労災の責任はきちんと派遣先企業に負担させようというのは、実は難しい話なのだ。だからといって、労災隠しなど許されないが、やっぱり最低でも製造部門への派遣の禁止、より根本的には、派遣事業を専門的な職種だけに限定すべきなのだと思う。
派遣の労災急増5885人、3年間で8倍に…厚労省調査
(2008年8月21日03時03分 読売新聞)派遣労働者の労働災害(労災)が急増している実態が、厚生労働省が行った全国調査で明らかになった。
2007年に労災に遭った派遣労働者は04年の約8倍の5885人で、被災した全労働者のうち派遣労働者の占める割合も年々増加している。また、7割が製造業での事故で、そのなかで経験年数1年未満のケースが6割以上を占めた。調査結果は、派遣労働者の待遇改善を目指す法改正議論にも影響を与えそうだ。
派遣元と派遣先がそれぞれ提出する労働者死傷病報告(休業4日以上の死傷者数)を基に厚労省がさらに詳細を調査、分析した。
派遣元の報告によると、被災した全労働者のうち派遣労働者の占める割合と人数は▽04年0.5%(667人=1、2月は未集計)▽05年2%(2437人)▽06年3%(3686人)▽07年4.8%(5885人)。
業種別を派遣先の報告から分析すると、07年は製造業が2703人で全体(3958人)の68.2%を占め、運輸交通業7.9%、商業7.7%が続いた。派遣を含む全労働者では、製造業の被災率は24.3%で、派遣労働者の被災率の高さが際立っている。
また、07年の製造業について経験年数をみると、1か月以上3か月未満が28.7%と最多。次いで1年以上3年未満が21.5%だった。年代では、30歳代が29.0%、20歳代が26.9%で若者の被災が目立った。
派遣労働者:労災急増、製造業解禁の規制緩和が裏目に
[毎日新聞 2008年8月21日 2時30分(最終更新 8月21日 2時30分)]厚生労働省が初めて明らかにした派遣労働者の労災件数。派遣労働者の安全確保が十分には行われていないことが浮き彫りとなり、規制緩和を続けた労働者派遣法の問題点を如実に示した。
派遣労働者の労災件数が大幅に増えた背景には99年の派遣業務の原則自由化、04年の製造業への派遣解禁がある。労災は製造業での発生が多数を占め、以前から認められている専門業務ではほとんどみられないからだ。
特に日雇い派遣などに見られる短期の派遣では、労働者が日々変わり仕事をするうえでの安全教育がおろそかになることは容易に予想される。実際「現場に行かないと仕事の内容が分からない」などの労働者の声は多い。
経営者が人集めの容易な派遣労働を重宝がる気持ちも分かるが、労災防止は最低限の責任だ。厳しい現状を示したデータは、派遣の在り方の見直しが待ったなしであることを物語っている。【東海林智】
社説:派遣の労災 大幅増加は深刻な問題だ
[山陽新聞 2008年8月23日]派遣労働者の労災による死傷者数が大幅に増加していることが、厚生労働省の調査で分かった。2007年は製造業への派遣が解禁された04年の9倍近く増えており、問題の深刻さが浮き彫りになった。
短期間で職場が変わるケースが少なくない派遣労働者が、安全教育を十分に受けないまま働かされている実態が反映された結果といえよう。雇用の不安定さなどに加え、派遣労働者を取り巻く環境の大きな課題として重く受け止める必要がある。
厚労省によると、07年の労災による派遣労働者の死傷者は5,885人(うち死者は36人)に上った。労働者派遣法改正による規制緩和で、危険性の高い仕事が多い製造業への派遣が解禁された04年の667人に比べ8.8倍に増えた。
派遣先の業種別死傷者数は、製造業が2,703人と全体の半数近くを占めた。以下、運輸交通316人、商業308人などの順だった。
最多だった製造業での仕事の経験期間は、1カ月以上3カ月未満が28.7%、1年以上3年未満が21.5%と経験の浅い人が占める比率が高かった。年齢は2、30代が目立った。
現場での管理責任は派遣先の企業にある。だが、派遣労働者は入れ替わりが多いため使用者意識が薄くなる傾向が強く、安全教育がおろそかになりがちなことは想像できる。
厚労省は日雇いなどの短期派遣について「ワーキングプア(働く貧困層)」などの温床になっているとし、原則禁止する方向で準備している。今回の調査結果を踏まえ、派遣先企業に対し安全管理の徹底を図るのは当然だが、労働者保護の視点を重視し派遣を認める業種の在り方も再考すべきではないか。