金融危機について、「朝日新聞」に、伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長のインタビューが載っていた。
日経にはオリックスの宮内善彦会長のインタビューが載っていたが、受け止め方はある意味真反対。丹羽会長の方が金融恐慌の危険をリアルに見ていると思う。
インタビュー・金融危機 非常時に備え法整備を
[朝日新聞 2008年10月1日付朝刊]
伊藤忠商事会長・丹羽宇一郎氏
――米議会下院が金融安定化法案を否決し、株式市場が大幅に下落しました。金融危機はますます深刻さを増しています。
「法案が否決されたのは驚きだ。納税者の理解を得られない、という反対議員の主張はもっともな面もあるが、対応を誤ると危機が一層深刻化する。結果的には、納税者が大きな打撃を被る結果にもなりかねない。危機の深刻化で、企業の資金調達が難しくなり設備投資の抑制につながることから、実体経済への波及は避けられない。アメリカだけでなく、世界経済が深刻な景気後退に突入する恐れが出てきた」
――金融危機の広がりは、当初の予想を上回っているように見えます。
「当初サブプライムローン問題は米国の低所得者の住宅問題だと位置づけられ、広がりは限定的だといわれていた。だが、ローンをもとにした証券がつくられ、さらにそれを担保にした金融商品が世界中に出回っていることが分かった。どの商品にサブプライムローンが入り込んでいるのか、リスクのトレーサビリティー(履歴管理)が非常に難しいため、疑心暗鬼になっている。中国を含む新興国も、米国向け輸出に依存しており、影響は避けられない。日本も輸出偏重で、世界景気の後退と円高進行は、大きな打撃になる」
――問題の本質はどこにあるのでしょうか。
「世界的な金融バブルの崩壊だ。この10年、アメリカをはじめ世界中の株式や債券などの金融資産は、国内総生産(GDP)をはるかに上回って増えた。アメリカ一極集中の経済体制を前提に投資銀行が台頭し、担保がないドル建ての資産が膨れあがった。サブプライム問題の表面化により、膨らんだ資産を前提に、短期資金を借り入れて長期投資を行うという、投資銀行のビジネスモデルが成り立たなくなった。バブルがこれまでのものより大きかっただけに、歴史的な危機に発展してしまった。
――問題解決の対応は。
「危機の真因である、ドルへの不安と金融機関への不信を取り除くことだ。実体以上に膨らんだ経済は、実体の水準まで戻す必要があるが。ただ、急にやれば大変なことになるので、米、欧州、日本に中国を加えた当局間で連携をとりながら、ゆっくり進めていかなければならない」
――財務体質が比較的よい日本の企業には、海外投資や企業合併・買収(M&A)の好機だとの見方もあります。
「いまのような『一寸先は闇』というときに、目先の計算だけで安易に投資に走るのは、今回の教訓を全く生かしていない考えだ。ドルは今後も弱まる可能性が高く、急落のリスクすらある。少なくとも新たにドルを調達して投資するようなことには、慎重になるべきだろう」
――日本政府が、危機に備えてしておくべきことは。
「今回の危機が、日本の地方銀行の経営危機に発展する可能性があり、そうなれば中小企業中心の地方経済への影響が心配だ。不測の事態に備え、何かあったらすぐに政府が金融機関を支援できるような法整備を急ぐべきだ。緊急を要さない道路事業などを凍結して、危機に対応する財源とすることも検討してはどうか」(聞き手・大平要)
オリックス宮内会長は、一方で、今回の金融危機はビジネスチャンスだ、オリックスもM&Aを検討したいと言いながら、他方で、オリックスの収益が落ちていることを認めざるを得ない。その揚げ句、「今回の危機をきっかけに、日本も金融を中心に据え」るべきだと言うのだから呆れる。
インタビュー・米金融危機 国有化含め判断のとき
[日経新聞 2008年10月1日付朝刊]
オリックス会長・宮内義彦氏
――米下院が不良資産の買い取りを柱とした金融安定化法案を否決しました。
否決は想定内
「法案の否決は想定のうちだと思う。公的資金で不良資産を買い取るにしても、米金融機関は多額の追加損失の処理を迫られる。これには大規模な資本の増強が必要で、日本の金融機関ががんばって参加しても埋めきれる額ではない。資本不足を民間で対処できるのか、金融機関が生き残るために国有化も含めて対応してゆくのかを判断するタイミングに来たということではないか」
――欧州の金融機関が相次ぎ国有化されるなど、金融不安が世界に飛び火しています。
「一時は(米国と新興国の景気は連動しないという)デカップリング論なども出たが、金融は食料や自動車などと違い、瞬間的に世界に波及する。欧州では米国に次いで金融バブルが膨らんでいた。国によって度合いは異なるだろうが、新興国を含めて今後も世界中がじわじわと影響を受けるだろう」
「今回は金融危機は、米国の金融が複雑になりすぎて実物経済とかけ離れてしまったことが原因だ。いまはバブルの部分がはげ落ちている段階。金融と実物経済のギャップが埋まるまで影響は続くだろう」――日本の金融機関にはビジネスチャンスになるとの声もあります。
「欧米に比べて日本の金融機関は有利な立場にあるし、今後もそれがさらに鮮明になるだろう。日本の資本市場が未発達だったことの裏返しともいえるが、国際市場に出遅れていた日本勢にとって、この1、2年はチャンスになる」
「三菱UFJフィナンシャル・グループや野村ホールディングスによるM&A(合併・買収)案件が出てきたが、日本の金融機関の経営者はみんな同じことを考えているはずだ。オリックスも慎重な姿勢を保ちつつ、いい案件があればM&Aも検討したい」――2008年3月期業績が減益に転じるなど、オリックスの経営も転換を迫れています。
「ここ数年、オリックスは投資家から成長企業とみられてきた。だが、いまの経営環境で無理をしてまで成長路線を続けようとは思わない。当面は自らを守るために堅実性を重視する」
「手堅くやれば収益が堕ちるのはやむを得ない。むしろいまは収益を伸ばそうとしてはいきえない状況だ。企業経営は野球と違い、9回でゲームは終わらない。全体が悪いときに自社だけ良くしようとすれば会社に無理がかかる。いずれ再成長の機会が来る」金融を中心に
――日本の金融政策、行政に臨むことは。
「日本が金融を振興してこなかったことが、米国の金融危機をここまで大きくした一因になった。円借り(キャリー)取引などを通じて行き場を失った日本初の低金利のマネーが米国のバブルを膨らませた面がある」
「金融は虚業だという考えが日本にはあるが、これからは製造業だけでは生きられない。今回の危機をきっかけに、日本でも金融を中心に据え、正常な資本市場をつくるべきだ。日本はこれだけカネがあるのに、その資源を無駄遣いしている。現金を持っている意味は石油をもっているより大きい。その有利さをもっと発揮すべきだ」