12日付「日本経済新聞」に載っていたシラク仏前大統領へのインタビュー。
シラク前大統領は「自由主義の行き過ぎは……時代遅れだ」「我々は節度と慎みを欠きすぎた」「社会的な資本主義をつくり直す必要がある」と指摘しています。
「過度の自由主義 時代遅れ」 投資に社会的責任訴え
[日本経済新聞 2008年10月12日付朝刊]
シラク仏前大統領 書面回答
フランスのシラク前大統領が13日からの訪日を前に日本経済新聞社からの質問に書面で回答し、金融危機について「我々は節度を欠き、急ぎ過ぎた。野放図な自由主義は時代遅れだ」と指摘した。さらに環境やエネルギー、アフリカでの食料増産支援などに世界が取り組みを急ぐよう訴えた。シラク氏の訪日は大統領退任後初めて。16日までの滞在中に麻生太郎首相や主要財界人と会談する。
――金融危機が世界を覆っている。
「私はかねて自由主義の行き過ぎはマルクス主義と同じくらい時代遅れだと言ってきた。国際的なルールと連携なしに持続可能なものは何も築けない。いまの事態はこれを警告しているのだ。我々は節度と慎みを欠きすぎた。足元の景気循環だけをにらんだ対応では不十分で、社会的な資本主義をつくり直す必要がある。社会的責任投資は重要で、それによって最初にもうけるのは企業だ」
――温暖化やエネルギー問題の処方せんは。
「生活形態やエネルギー消費を革命的に変えないと世界は破局に向かう。私は楽観的だ。例えば太陽光発電は重要な役割を担いつつある。太陽光発電は先進国とアフリカとのエネルギー開発の断層を埋める力を秘める。インフラ整備への大規模投資がカギを握る」
――食料や資源の確保も中長期の問題としてくすぶり続ける。
「世界の食料供給は明らかに不十分。まもなく世界人口70億人のうち50億人が都市に住む。途上国では食用農産物の農地拡大など食料自給の実現が課題だ。水が少ない環境や気候変動にも適応する品種開発など、日本企業が得意な研究開発への投資が重要になる」
「アフリカが250億ドル(約2兆5,000億円)の投資で貧困から抜け出せるのはすでに明らかだ。米国が金融システムの安定に投じる金額の数十分の一にすぎない。例えば航空券への課税導入などで医薬品調達を容易にすることができる」――中国が台頭し、仏の日本への関心が低下しているように見える。
「多極化の視点からみて今は興味深い局面だ。この数世紀で初めて世界は欧米に牛耳られていない状態にある。中国は世界人口の2割強を占める。金融危機や気候変動、資源・エネルギーなどすべてのグローバルな挑戦で中国抜きで解決できる問題は何もない」
「しかし日本への関心低下は誤った認識だ。経済関係ひとつとっても仏は日本への3位の投資国であるなど両国関係は緊密だ。文化的にもモードやデザイン、食など多くの流行が日本からやって来る。日本の重みを仏人は深く認識している」――今年発足した「シラク財団」の活動は。
「途上国での良質な医療品の確保、水問題、森林保護・砂漠化、消滅が懸念される言語・文化の保護の4つが柱だ。こうした問題の被害者は常に弱者であり不公平を看過するのは許されない」(パリ=野見山祐史)
シラク前大統領=首相、パリ市長を経て1995年から昨年5月まで大統領。外交を中心に多極主義を掲げ、2003年のイラク戦争開戦に反対した。親日家として知られ訪日は50回を超す。75歳。