田母神俊雄・航空幕僚長が民間の懸賞論文に応募して、「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」と主張して解任されたというニュース。
いったいどんな論文を書いたのか、と思って調べてみたら、割と簡単に見つかりました。(^^;)
で、それを読んでみたのですが、呆れてしまいました!! 論文といってますが、全体で7000字ほどしかない文章で、資料もなければ論証もない。およそ論文の体(てい)をなしていません。
たとえば、張作霖爆殺事件についてはこう書かれています。
「マオ(誰も知らなかった毛沢東)(ユン・チアン、講談社)」、「黄文雄の大東亜戦争肯定論(黄文雄、ワック出版)」及び「日本よ、「歴史力」を磨け(櫻井よしこ編、文藝春秋)」などによると、最近ではコミンテルンの仕業という説が極めて有力になってきている。
これで終わり。読んだ本の水準もひどいですが、張作霖爆殺にかんする史料を読んだ形跡など、まったくありません。ひょっとしたら、田母神氏はそんな史料の存在さえご存じないのかもしれません。全編こんな調子で、大学生の課題リポートなら落第は必至。高校生の読書感想文としても、けっして賞などとれそうもありません。
「東京新聞」が次のような記事を載せていましたが、こんなものにたいしてコメントしなきゃいけない先生方に同情します。
『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔(東京新聞)
『小学校から勉強を』 「低レベル」論文内容 識者らあきれ顔
[東京新聞 2008年11月1日 朝刊]
「わが国は日中戦争に引きずり込まれた被害者」という田母神俊雄航空幕僚長の文章に、近現代史に詳しい学者らはあきれ顔。内容をことごとく批判し「レベルが低すぎる」とため息が漏れた。
「小学校、中学校から勉強し直した方がいいのでは」と都留文科大の笠原十九司(とくし)教授(日中関係史)は話す。空幕長の文章は旧満州について「極めて穏健な植民地統治」とするが、笠原教授は「満州事変から日中戦争での抗日闘争を武力弾圧した事実を知らないのか」と批判。「侵略は1974年の国連総会決議で定義されていて、日本の当時の行為は完全に当てはまる。(昭和初期の)33年にも、日本は署名していないが『侵略の定義に関する条約』が結ばれ、できつつあった国際的な認識から見ても侵略というほかない」と説明。「国際法の常識を知らない軍の上層部というのでは、戦前と同じ。ひどすぎる」と話す。
「レベルが低すぎる」と断じるのは纐纈(こうけつ)厚・山口大人文学部教授(近現代政治史)。「根拠がなく一笑に付すしかない」と話し「アジアの人たちを『制服組トップがいまだにこういう認識か』と不安にさせる」と懸念する。
「日本の戦争責任資料センター」事務局長の上杉聡さんは「こんなの論文じゃない」とうんざりした様子。「特徴的なのは、満州事変にまったく触れていないこと。満州事変は謀略で起こしたことを旧軍部自体が認めている。論文は『相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない』というが、満州事変一つで否定される」と指摘する。◆文民統制揺るがす
小林節・慶応大教授の話 田母神論文は、民族派の主張と同じであまりに稚拙だ。国家と軍事力に関する部分は、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがす。諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって「はめられた」と言っても仕方がない。現在の基準や戦争相手国の視点で見れば、日本がアジア諸国を侵略したのは間違いのない事実だ。世界史に関する“新説”を述べるのは自由だが、発表の場にも細心の注意を払い、学問的に語るべきだ。
◆一行一行、辞職に値
水島朝穂・早大教授の話 航空自衛隊のイラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「そんなの関係ねえ」という驚くべき司法軽視の発言をした空幕長とはいえ、閣僚なら一行一行が辞職に値するような論文で、アジア諸国との外交関係を危うくするのは間違いない。自衛隊法は自衛官に政治的な発言を過剰なまでに制限し、倫理規程は私企業との付き合いも細部にわたって規制している。内容のひどさは言うまでもないが、最高幹部が底の抜けたような政治的発言をして300万円もの賞金をもらうのは資金援助に近い。
それにしても、航空幕僚長という重職にある人間が、この程度の「歴史認識」(まあ、これを「認識」というならば、の話ですが)で仕事をしていた、という事実には、驚き、呆れざるをえません。書いた人物の「おつむの程」が知れるということもありますが、防衛大、自衛隊で、いったいどんな歴史を教えているのか、そのことも疑わせるだけの低水準。同時に、「文民統制」(シビリアン・コントロール)とは何かという問題についても、何の教育も受けたことがないことを雄弁に物語っています。
このような人物が幕僚長まで栄達できる組織というものを考えると、あまり気分のよいものではありません。
ちなみにアパグループが実施したこの懸賞論文。田母神氏の論文が最優秀賞に選ばれたと発表したときには、「審査委員長・渡部昇一氏をはじめとする審査委員会」が審査したと発表されていますが、実は、懸賞論文募集を発表した際には、審査委員長が誰かはもちろん、審査委員会がおかれることさえ書かれていません。最初から、まるきり怪しい賞ではありませんか。
「懸賞論文」なるものを募集したアパグループ代表の元谷外志雄氏は(航空自衛隊)小松基地金沢友の会会長でもあります。「論文」の内容はもちろん大きな問題ですが、「小松基地金沢友の会」会長の立場にある人物から航空幕僚長に300万円の「懸賞金」が渡るなど「癒着」の匂いがしてなりません。
なお、ウィキペディアによればアパグループの名前は、耐震偽造事件やレジオネラ菌検出事件、ノロウィルス問題などにしばしば登場するようですから、こちらもかなり胡散臭い企業のようです。
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