オバマ大統領 低調な日本の論評

民主党のオバマ氏が大統領に当選したことについて、日本のメディアの論評は総じて低調。オバマ氏のかかげたChangeが実際どうなるかは、これからの展開を見なければならないが、しかし、そのChangeを生み出した人々のエネルギーは、大きな可能性を潜めている。

それにもかかわらず、オバマ新大統領誕生で日米関係はどうなるか、保護貿易主義になるのではないか、無視されるのではないか、アフガニスタンで負担を求められるのではないか、北朝鮮は…などなど、個別の問題で新政権の対日関係がどうなるかという論評に留まっている。

しかし、それはマスメディアだけではない。その最たるものは、麻生首相の「今、急に会わなくちゃいけないという話でもない」という発言。思わず本音が出たんだろうけど、「日米同盟」と言いつつ、その実、共和党との同盟でしかなく、民主党政権の誕生に何の準備もできていないことを自白してしまったようなもの。あ〜あ、この人、ホントに政治的なセンスがないですねぇ?

社説:歴史的な経済危機に挑むオバマ大統領(日経新聞)
社説:オバマ氏圧勝 米国の威信は回復できるか(読売新聞)
首相「会うのは就任後」 オバマ氏との会談見送り(共同通信)

社説:歴史的な経済危機に挑むオバマ大統領

[日本経済新聞 11/6]

 民主党バラク・オバマ上院議員の勝利を祝福したい。建国から230年以上を経て、米国の有権者は初めてアフリカ系市民をホワイトハウスの主に選んだ。歴史的である。それがゆえに期待と不安がある。
 オバマ氏は強い大統領になる一定の条件を満たしている。獲得選挙人数から見て地滑り的勝利である。同時に投票された連邦議会選挙でも民主党が上下両院で圧勝した。ホワイトハウスの力が強まり、大統領の指導力に期待が集まる。

保護主義に陥らぬよう

 「変革」を掲げたオバマ氏の主張は、現状への異議申し立てである。必ずしも体系的政策ではない面がある。このために不安もつきまとう。アフリカ系市民を大統領に選んだのは、米国社会にとって実験だった。統合の機運がもたらしたオバマ氏のホワイトハウス入りが多民族社会の「分裂」を促す危険もありうる。
 来年1月20日に発足するオバマ政権の最優先課題は、金融危機からの脱却と経済の立て直しである。大手金融機関に公的資金が注入され、本格的な金融危機対策が動き出したが、解決にはほど遠い。多くの金融機関はなお住宅関連証券などの不良資産を抱えたままだ。経営が困難な地方銀行も増えている。
 10月に成立した金融安定化法は最大7000億ドルの公的資金を活用し、金融機関の不良資産を買い取ったり、資本を注入したりする権限を米政府に与えているが、いずれこれだけでは足りなくなる可能性もある。
 金融システムが安定しない限り経済の回復は望めない。次期大統領は必要なら追加的な公的資金の投入を含めた万全の対応をすべきだ。
 新政権の評価を分ける試金石になるのは、不況からの脱却にいかに効果的な手を打てるかだろう。
 今回の金融危機の傷は深く、不況は長引く可能性が高い。オバマ氏は大恐慌に直面した同じ民主党のF・ルーズベルト大統領を意識してインフラ投資など思い切った経済刺激策や雇用対策を実施する方針だ。
 危機克服に財政支出の拡大は避けられない。積極的施策は必要だが、効果が出なければ財政赤字膨張を背景としたドルへの信認低下につながる恐れがある。かじ取りは容易ではない。21世紀版「ニューディール」政策は単純ではない。
 世界や日本にとっては、外に開かれた経済体制の維持も重要である。オバマ氏自身は「グローバル化に歯止めをかけるのは誤り」と考えるが、支持基盤の労働組合や民主党議員の間では自由貿易に異を唱える声が勢いを増している。地盤沈下が著しい米自動車産業への公的支援を求める圧力も高まっている。
 議会が保護主義的な立法に走らないよう、大統領の意思と行動力が求められる。足踏みしている多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)を前進させるうえでも、ホワイトハウスからの強い指導力が欠かせない。
 ブッシュ政権の下で暮らしが不安定になり、それが米国民の内向き傾向につながっている面がある。オバマ氏は、皆が医療保険に加入できるようにする医療制度改革を提唱しているが、これが実現できるかどうかも重要である。
 選挙戦で共和党候補のジョン・マケイン上院議員と明確に対立したのはイラク戦争の評価だった。オバマ氏は初めからイラク戦争反対の立場であり、16カ月以内の米軍撤退を主張した。民主党陣営にも現実性を疑う見方がある。米軍撤退の公約をどう扱うか、試練になる。

日本からの提案も重要

 一方、アフガニスタンでの戦いを続ける点では、両候補の間に大きな差はなかった。皮肉にも、アフガニスタン情勢はイラクほどは好転していない。兵力を派遣している諸国から撤退論が出る可能性もある。米国がそれに同調すれば、1989年のソ連軍撤退後のアフガニスタンを国際社会が見捨て、テロリストの温床となった過ちの繰り返しとなる。
 日米関係に変化はあるか。
 米国は経済的に不安定な時期を迎えている。日本も新政権の対外経済政策を受け身の姿勢で見守るだけではいけない。経済の開放を進め、経済活動の障害を減らす日米自由貿易協定(FTA)の実現の後押し、エネルギーや環境面での協力強化の提案などが必要になる。
 日米同盟の重要性に対する認識はワシントンでは党派を超えてある。他方で中国の重要性に対する認識も一層深まっている。日中間で利害が一致しない問題が生じた場合、オバマ政権の立場は微妙になる。
 オバマ氏には、かつてケネディ大統領が醸した若さとカリスマ性が漂う。金融危機をきっかけに世界が苦しみ、超大国米国の立場の揺らぎが指摘される。オバマ氏が大統領として何をするかは、いま苦境にある米国が21世紀前半の世界でどのような存在になるかを決定づける。

社説:オバマ氏圧勝 米国の威信は回復できるか

[2008年11月6日01時43分 読売新聞]

 米国で初めての黒人大統領誕生である。
 米大統領選で、民主党候補のバラク・フセイン・オバマ上院議員が、共和党候補のジョン・マケイン上院議員を大差で破って、当選を決めた。来年1月20日に第44代大統領に就任する。
 白人優位社会の米国では、黒人候補への投票を避ける傾向が見られたため、事前の世論調査でのリードはあてにならない、とする懐疑的見方もあった。
 だが、オバマ氏は共和党の牙城でも着実に得票を伸ばした。人種の壁を超える新たな歴史を開いた、と言えよう。

◆金融危機克服に全力を◆

 米国はいま、未曽有の金融危機にある。イラク戦争以来、軍事大国としての威信も問われている。今回の選挙では、こうした米国の再生が大きなテーマだった。
 オバマ氏は、長い選挙戦を通じて「チェンジ(変化、変革)」を訴え続けた。弁舌能力を駆使した主張は、各層に浸透し、とくに若い世代を動かした。多くの有権者は、オバマ氏に米国の将来を託したと言えるだろう。
 しかし、47歳の若い政治家オバマ氏は4年前、連邦議会上院に初当選したばかりだ。行政上の経験はない。その手腕に期待もかかる反面、不安もある。
 問題は、これから、オバマ氏が何を、いかにして「チェンジ」していくか、である。
 オバマ氏は、選挙戦で、「ブッシュ政権8年間の経済失政」を厳しく批判し、富裕層や石油企業などへの増税と中産層への減税によって「格差を是正する」と主張した。医療保険の拡充や雇用対策の充実など、大衆に受けの良い政策を打ち出した。
 しかし、喫緊の課題は、米国発の金融危機に歯止めをかけることだ。米国政府は、金融安定化法に基づいて、金融機関の立て直しを進めているが、危機が終息するメドはたっていない。
 オバマ氏は、金融危機の打開策については、借り手保護や経営責任の追及を前提に、金融機関への公的資金の注入を容認する姿勢を示しているが、全体として抽象論にとどまったままだ。
 15日にワシントンで世界20か国・地域(G20)の金融サミットが開かれる。オバマ氏は、各国首脳と意見交換する場を設けてはどうだろうか。

◆どうするイラク撤退◆

 金融危機の拡大により景気後退局面入りしたとみられる米国経済の再生も急がねばならない。オバマ氏も公共事業の追加などを挙げているが、より具体的な政策の提示が求められよう。
 貿易分野では、保護主義に傾斜しないか、という心配がある。
 労組を基盤に持つ民主党は、上下両院で多数を制した。伝統的な保護主義が台頭しやすい環境だ。オバマ氏も北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定の再交渉を主張している。
 「公正さ」を標榜(ひょうぼう)するが、輸入規制につながる懸念がある。
 外交・安全保障分野でも、次期政権の課題は山積している。
 オバマ氏は、イラクの安定を確保しながら、駐留米軍の戦闘部隊を就任後16か月以内で撤退させると訴えてきた。それをどう実現させていくのか。
 アフガニスタンでは、国際テロ組織アル・カーイダやイスラム過激派勢力が武力攻勢を強めている。反テロ戦争に比重を移す場合、治安部隊を派遣している北大西洋条約機構(NATO)や、復興支援を進める国連と綿密に調整しなければならない。
 政情不安なパキスタンやイランの核問題のほか、中東和平への取り組みも急務だ。
 オバマ陣営に集まったアジア外交のチームには中国専門家が目立っている。
 中国との関係では、地球温暖化対策やエネルギー、食糧問題の対策上、緊密な協力は不可欠だ。2国間の戦略的対話はもとより、国連など多国間外交における米中協力関係を促進させるだろう。

◆日米同盟の再確認◆

 日本は、米国の政権交代を機に、対米関係を再調整し、同盟関係を強化しなければならない。
 オバマ氏は、アジア重視の姿勢を強調しているが、本人の口から日米同盟を重視するという声は聞こえてこない。
 麻生首相は、オバマ氏とできるだけ早期に会談し、日米連携の重要性を確認する必要がある。
 ブッシュ政権は先月、北朝鮮に対するテロ支援国指定を解除し、北朝鮮の核問題は、重大な局面にある。オバマ政権が、北朝鮮問題にどう対処するかは、明らかになっていない。
 日本政府は、オバマ政権の対処方針を踏まえて、核、ミサイル、拉致問題の包括的解決を図っていかなければなるまい。

首相「会うのは就任後」 オバマ氏との会談見送り

[2008/11/05 20:21 共同通信]

 麻生太郎首相は5日夜、ワシントンで15日に開く金融危機対策のための金融首脳会合(サミット)に合わせて検討していたオバマ次期米大統領との会談を見送る意向を明らかにした。官邸で記者団の質問に答えた。
 首相は「今、急に会わなくちゃいけないという話でもないし、来年1月20日まではブッシュが米大統領だ。会いに行くのは、正式に大統領が代わった後の話だ」と述べ、オバマ氏との会談は来年1月の就任後になるとの見通しを示した。
 これまで首相サイドは在米日本大使館を通じ、次期大統領と会談したい意向を米側に伝えていた。しかし、オバマ氏側は就任前の会談に難色を示したとみられる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください