HIV感染者が累計で1万人を超えたそうです。治療方法が進んだので、いまではHIVウィルスに感染したからと言って、ただちにエイズを発症し、死に至るということはなくなりました。しかし、予防が成功せず、依然としてHIV感染者が増え続けていることは、やっぱり重大な問題です。
効果的な予防に成功していない理由は、いろいろあるでしょうが、僕が問題だと思うのは、日本のHIV啓発がイメージ的なものに偏っていること。HIVにたいする科学的な認識をきちんと培うことなしに、予防は成功しません。
その点では、学校教育のなかで、きちんと性行為とHIV感染について、きちんと科学的な知識を伝達することが大事だと思うのですが、日本の現状は残念ながら大きく立ち後れているのではないでしょうか。
HIV:感染者1万人突破 日本だけ増加
[毎日新聞 2008年11月19日 20時48分]
厚生労働省のエイズ動向委員会は19日、国内のHIV(エイズウイルス)感染者が累計で1万人を超えたと発表した。新規感染のペースは右肩上がりに増えており、厚労省は「先進諸国が横ばいの中で日本だけ感染率が上がっており、啓発が遅れている」と警戒を強めている。
厚労省によると、7?9月に報告があった新規感染者は294人で、四半期ベースでは過去最多。血液製剤で感染した薬害被害者を除く感染者は累計で1万247人(男性8305人、女性1942人)に達した。85年の最初の感染報告から5000人突破までは17年かかったが、ここ数年でペースが急激に上がり、03年1月以降の5年9カ月で5107人の感染者が見つかった。
感染ルートの大半は性的接触で、特に若年男性の同性間の性的接触による感染が増えている。感染者の居住地は東京が約3分の1で突出している。エイズを発症した患者の累計は4790人、薬害以外の死亡者累計は864人。【清水健二】
HIV感染者の潜在的な増加が社会にとって脅威となる1つの道筋は、輸血の問題です。HIVウィルスに感染しても、検査でひっかかるまでは数ヵ月のタイムラグが存在しています。そのため、HIV感染が広がってゆくと、HIVウィルスが検査をすりぬけて輸血を通じて感染する可能性が増してゆきます。すでに、そうした事例が発生していますが、それがますます増えてゆくと、安心して輸血も受けられない、というゆゆしい事態になりかねません。
ところで、エイズ動向委員会の正式な発表文を見ていないので詳しいところはわかりませんが、厚生労働省の「先進諸国が横ばいの中で日本だけ感染率が上がっている」という認識は、はたして正確なんでしょうか?
というのも、API-NetAIDS Prevention Information Network エイズ予防情報ネットの「HIV/AIDS最新情報2007年末現在」 ((これは「全訳」と書かれているが、英語版と比較すると、かなり短い。本当に全訳なんだろうか?))を読むと、「北アメリカ、西ヨーロッパおよび中央ヨーロッパではHIV感染者数は増加している」「西ヨーロッパ地域で2002 年以降、新たなHIV感染が増えている」と報告されており、「先進諸国が横ばいのなかで日本だけ感染率が上がっている」といわれるのとは少し様子が違っているように思うのですが、はたして実際はどうなんでしょうか?