厚生労働省が「労働者派遣パンフレット」というのを配布しています。分かりにくい「労働者派遣」について、派遣される労働者、派遣する派遣会社、それぞれの立場から、守るべきルールをわかりやすく解説しています。
これら3種類のパンフに明記されていますが、派遣先企業が派遣会社との派遣契約を打ち切った場合でも、派遣会社(いわゆる派遣元)と派遣労働者との雇用関係は切れません。
これは考えてみれば当たり前で、派遣先企業が派遣労働者を雇用している訳ではなく、派遣労働者を雇っているのはあくまで派遣会社。派遣先企業と派遣会社との派遣契約は、企業対企業の契約であり、派遣会社と派遣労働者との雇用契約はそれとはまったく別個の契約だからです。
このことは、「派遣労働者の皆様へ」では次のように明記されています(7ページ)。
雇用主は派遣会社であり、解雇をするのは派遣先でなく派遣会社です。また、派遣契約と労働契約は別であり、派遣契約が解除されたからといって、即座に解雇されるものではありません。
「派遣会社の事業所の皆様へ」でも、次のように説明されています(7ページ)。
派遣契約と労働契約は別であり、派遣契約が解除されたからといって、即座に派遣労働者を解雇できるものではありません。
だから、来年3月までの契約で派遣会社に登録して派遣された場合、その派遣先企業が12月いっぱいで派遣契約を解除を通告してきたとしても、派遣会社と派遣労働者と雇用関係は12月末で切れるわけではない、ということです。
ところで、厚生労働省のパンフレットでは、派遣会社が派遣労働者との間の雇用契約を打ち切る場合、30日前に事前通告するか、30日分の解雇予告手当を支払わなければならない、と説明しています。
しかし、この説明は、労働契約法の規定を無視した説明です。期間従業員の場合について説明したとおり、期間の定めのある労働契約の場合は、わざわざ契約期間について合意している訳ですから、雇用主(この場合は派遣会社)には、まずもってそれを守る義務があります。「やむを得ない事由」がない限り、契約期間の途中での解雇は、労働契約法第17条第1項に違反し、解雇は無効になります。派遣先企業からの契約解除は、そのままでは「やむを得ない事由」にはならないでしょう。
さらに、派遣先企業だって、派遣会社に通告さえすれば、自由に派遣労働者をクビにできるわけではありません。
厚生労働省の前身である労働省が、1999年に「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号)という告示を出しています。そこには、次のように書かれています。
6 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
(3) 派遣先における就業機会の確保
派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。
つまり、契約途中で派遣契約を解除する場合、派遣先企業は、自分の関連企業などで派遣労働者の就職先を探し斡旋しなければならないわけです。
だから、たとえばいすゞ自動車の場合、労働者派遣契約を中途解除するのであれば、まず派遣労働者にたいして関連企業への就職斡旋をしなければなりません。そういうことなしに、1か月前に通告すれば自由に解雇できるというわけではありません。
派遣会社の側についても、労働省の指針(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」平成11年労働省告示第137号)で、「当該派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受ける等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとされています。こうした努力を怠ったまま、「派遣先から契約解除されたから」といって、派遣会社が派遣労働者をただちに解雇することは認められません。
なお、先ほどの指針で、「労働基準法(昭和22年法律第49号)等に基づく責任を果たすこと」となっていることから、前述のように、30日の解雇予告手当さえ支払えばいつでも解雇できるかのように解釈する向きもありますが、これらの指針が出されたのは9年前、今年、労働契約法が施行された以上、その責任も果たす義務があります。指針でも、労働基準法「等」となってなっており、派遣先企業あるいは派遣会社が負うべき責任が労基法(つまり30日前の通知もしくは30日分の解雇予告手当)に限定されないことは明らかです。
このように考えれば、今回の自動車メーカーなどによる一連の“派遣切り”についても、派遣先が契約解除を通告するだけで、派遣労働者を自由に解雇できるものではない、ということが分かると思います。
さらに、これらの指針では、派遣先企業は、「労働者派遣の期間を定めるに当たっては、派遣元事業主と協力しつつ、当該派遣先において労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を勘案して可能な限り長く定める等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること」と定められています。
つまり、派遣先企業が、相当期間(たとえば3年間)、製造ラインで派遣労働者を働かせることを想定しておきながら、派遣契約を半年刻みにする、などというのは、明白にこの指針に反するものです。
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