自動車や電機の大手メーカーを先頭にした非正規労働者の大量解雇にたいして、メディア各紙が批判の社説をかかげている。
会社が黒字であるにもかかわらず、まっさきに非正規従業員の解雇をやる“安易さ”にたいする批判とともに、大量解雇が消費を冷え込ませ、さらに景気を悪化させるという指摘もある。
社説:雇用の危機 冷徹すぎる企業論理だ(秋田魁新報 12/12)
社説:相次ぐ減産 安易な人員削減はやめよ(神奈川新聞 12/10)
社説:「非正規切り」加速 効果的な支援策を急げ(中国新聞 12/7)
社説:リストラ横行 こんなことでは国が危うい(毎日新聞 12/6)
社説:派遣切り急増 経営が安易すぎないか(東京新聞 12/6)
社説:派遣切り横行 「住」確保せねば働けぬ(京都新聞 12/6)
社説:派遣リストラ 雇用創出の取り組みを(信濃毎日新聞 12/2)
社説:雇用の危機 冷徹すぎる企業論理だ
[秋田魁新報 2008/12/12 09:29 更新]
雇用情勢の悪化が嵐のように吹き荒れてきた。米国発の金融危機に端を発した世界的な景気悪化が企業のリストラを招き、そのスピードと規模は予想をはるかに超えるものである。
連日のように発表される企業の人員削減をみると、雇用不安などという生易しい段階ではない。来春卒業予定者の採用内定取り消しも広がっており、もはや「雇用危機」と断じていい。
まず驚かされるのは、大幅な人員削減を打ち出している企業の多くが、日本を代表する大手である点だ。トヨタ自動車はその好例だが、何よりソニーは強烈である。全世界で正規社員と非正規社員合わせて1万6000人を削減する大規模リストラを断行するという。
ソニーといえば今年3月期の連結決算で過去最高の純利益を達成したばかりだ。その企業が大胆な措置を取ったことで、関連企業はもちろん、他の製造業に及ぼす影響も計り知れない。
雇用悪化は地方にも及んでいる。本県でも、自動車関連企業が多い横手市で、年末まで400人以上が解雇される見込みという深刻さである。
ここで注意しなければならないのは、人員削減の最初の対象となっているのは非正規雇用者が中心であることだ。つまり派遣社員や期間従業員など、企業の中で弱い立場にある人たちが切り捨てられる現実がまかり通っているのである。
非正規雇用者はわが国の雇用者全体の3割を超え、県内では約14万人といわれる。強力な労働力になっているのだ。
企業側には、需要の減退で減産を強いられ業績悪化が懸念されている時に、生き残りのためには人員削減で乗り切るしかない、との論理が根底にある。急激な景気悪化や円高を前にやむを得ない面はあるとしても、生身の人間をモノのように使い捨てる社会は、果たして正常といえるだろうか。
「派遣切り」とか「雇い止め」といった言葉があふれることに、強い嫌悪感を覚える。
経済的にみても、失業者が増えて雇用不安が高まれば個人消費が落ち込み、さらなる生産減、市場縮小を招く。悪循環に陥る公算が大きいのである。その意味でも、企業の社会的責任が問われていると言いたい。
政府は、派遣社員や期間従業員らの雇用維持策、再就職支援策などを柱とする新たな雇用対策をまとめた。3年間で2兆円を投じ、140万人の雇用下支えを目指す内容である。
フットワークの良さは評価できるが、問題は財源の多くが年明け以降でないと成立しない本年度第2次補正、来年度予算案に盛り込まれていることだ。実施まで時間がかかっては効果も半減してしまう。
本県でも県と横手市が緊急対策本部を設置した。今回の雇用危機を災害と同じようにとらえ、解雇される人の立場に立った素早い対応を求めたい。
社説:相次ぐ減産 安易な人員削減はやめよ
[神奈川新聞 2008/12/11]
自動車や電機などの大手メーカーが、こぞって雇用調整を加速させている。世界的な景気低迷に対応するために減産を余儀なくされた状況は理解できるにしても、雇い止めという策に、安易に手をつけている印象が否めない。ほかの対策を十分に講じたのだろうか。人員カットは最後の手段だ。あらためて認識してもらいたい。
このところの人員削減策は、公表されただけでも枚挙にいとまがない。県内に4カ所ある自動車組立工場はすべて人員を減らす。工場単位の削減数を公表していない日産自動車を除いても、1500人以上もの人が職を追われる。
電機メーカーは事業所構成が複雑なため総体は見えにくいが、相当な人数が影響を受けていることだろう。自動車も電機も、すそ野が広い基幹産業だ。関連産業や下請けなどに追随の動きが出ているのも懸念される点だ。
露骨に「調整弁」役を強いられているのは、派遣や期間従業員など、非正規社員と呼ばれる人たちだ。規制緩和の掛け声とともに増加を続け、総務省の統計によると、いまや全雇用者の3人に1人以上を占めている。
このような雇用形態の構成は一刻も早く是正されるべきだが、現状でそれだけ存在する層が一斉に切り捨てられたとしたら、経済活動の側面だけを見ても損失は計り知れない。少なくとも大手企業が率先してよいわけがない。
一人一人の生活をどうするのかという社会的側面で考えれば、事態はもっと深刻だ。いすゞ自動車藤沢工場の期間従業員は、解雇通知の効力停止を求めて仮処分を申し立てた。契約が約四カ月残っているのに打ち切りを予告されたという。法的判断は申請の行方を待たねばならないが、期間という最低限の約束すら信じられないようであれば、生活設計も何もありはしないだろう。
日本経団連の御手洗冨士夫会長は「苦渋の判断だ。やむにやまれぬ事情がある」と理解を求めたが、いすゞの場合、通期決算はいまのところ黒字を確保できる見通しだ。「経営危機という状況ではないのに解雇されるのはおかしい」という訴えには、大いに耳を傾ける必要がある。
既に労働市場は目を覆うばかりの状況だ。10月の県内有効求人倍率(季節調整済み、パート含む)は9カ月連続で悪化し、4年3カ月ぶりに0.7倍台に落ち込んだ。10人のうち7人しか職に就けないということだ。職を失う人たちは、そうした環境に放り出されるわけである。
失業者の増加は間違いなく景気の下押し圧力となり、悪循環を引き起こす。やがては自社製品の販売不振要因として跳ね返ってくるだろう。雇用規模の大きい企業は、そうした意味でも責任を負っていることを自覚してほしい。
「非正規切り」加速 効果的な支援策を急げ
[中国新聞 2008/12/7]
世界的な景気後退で、来年3月までの半年間に全国で3万人以上が職を失う見込みだという。製造業を中心に、派遣社員などの非正規労働者にしわ寄せが集中している。雇用の「調整弁」として使い捨てにするような事態を、このまま見過ごしていいのだろうか。
寮に住み込みで働いている派遣社員も珍しくない。失業は即刻、路頭に迷うことを意味する。切羽詰まった人々に生活の場を保障し、再就職を支援するなど、一刻も早く手を差し伸べなければなるまい。緊急なセーフティーネット(安全網)の整備である。
自民、公明の与党はおととい、新たな雇用対策をまとめた。当面3年間で2兆円規模をつぎ込むという。失業率が過去最悪の5.5%(2002年)を上回る――との見方まで浮上しているからだ。
失業者が増えれば、個人消費が冷え込む。景気がさらに減速する悪循環に陥りかねない。
対策では、失業した非正規労働者を臨時で教員などに雇う基金の創設や正社員化を促す助成金などを盛り込み、140万人の雇用の下支えを目指す。
非正規の大半は、雇用保険に入っていないとの指摘もある。加入基準の緩和や失業給付の期間延長など、保険制度の見直しは当然だろう。さらに安全網のすそを広げる必要があろう。
いずれの施策も、実施は年明け以降になるという。手遅れにならないだろうか。即効策がないか、さらに突き詰めてもらいたい。
バブル崩壊後、自動車など輸出主導型メーカーを先頭に「コスト削減こそ国際競争力」としのぎを削ってきた。正規の社員数を絞り、賃金の安い派遣などを増員。製造分野にも解禁した04年の労働者派遣法改正で弾みがついた。
景気がよければ補充され、不況になれば問答無用で仕事を打ち切られる。そんな不安定な待遇の非正規労働者が、雇用の3分の1を占めている。これからも頼り続けるような構造でいいのだろうか。
対症療法と同時に、将来を見据え、雇用を創出する視点が欠かせない。省エネ型の社会に切り替える技術の開発や、輸出依存だった産業構造の転換に、どう結び付けていくのか。中長期の展望を政府は示すべきだ。
社説:リストラ横行 こんなことでは国が危うい
[毎日新聞 2008年12月6日 0時06分]
自民、公明両党が、今後3年間で予算規模2兆円の追加雇用対策を決め、麻生太郎首相に提出した。09年度政府予算編成が最終局面を迎えているこの段階で、与党が雇用問題で追加対策を策定したのは、雇用情勢の悪化が予想を上回る速度で進んでいるからだ。
8月末の緊急経済対策でも、10月末の追加経済対策でも、雇用支援は国民の生活安心を実現する重要な施策と位置付けられていた。今回の施策では140万人の雇用下支えを目指す。
雇用情勢はここ1、2カ月急速に悪化している。自動車、電気機械など輸出型製造業を中心に進んでいる派遣社員や季節従業員の雇い止めや中途契約打ち切りは、勤労者の不安を高めている。非正規、正規を問わず、雇用調整が本格化しかねない状況だ。
では、今回の対策で、雇用の維持や雇用の創出はできるのだろうか。
10月末の追加経済対策に盛り込まれた雇用へのテコ入れは、年長フリーターなどの積極的雇用、ジョブカード制度の拡充、地域での雇用機会創出などで、予算規模は3000億円だった。企業の人減らしリストラが拡大し、新卒採用の内定取り消しなど正規雇用の抑制や削減も現実化している中で、本格的な対策が必要なことは間違いない。
雇用保険特別会計の積立金のみならず、一般会計からも1兆円の財源を確保し、2兆円規模の雇用対策を講ずることは前進ではある。失業給付の期間延長や企業の正社員化支援、職業訓練中の生活手当など、追加経済対策段階よりは踏み込んでいる。ただ、それにより雇用が維持され、目に見える雇用創出効果があるかとなると、否定的にならざるを得ない。
小泉改革の経済活性化策でも雇用拡大は重要な課題だった。景気が緩やかとはいえ回復を続けたことで、雇用者総数は増加した。しかし、中身は派遣やパートなど非正規労働が中心だった。正規労働からの振り替えも進んだ。雇用関係法制の柔軟化で可能となった。
いま、現実に雇用契約を打ち切られたり、解雇の不安を感じている勤労者の多くは、そうした人々だ。政府は期限前の契約解除などには厳正に対処するというが、規制改革の行き過ぎを見直し、勤労者の権利を守ることも必要だろう。
再就職支援策も総花的である。地域での雇用創出も具体的な姿が見えてこない。失業給付期間の延長や職業訓練対策は適切に運用されれば、効果があるだろう。ただ、重点化や集中は不十分だ。
雇用の悪化は家計を不安に陥れ、個人消費の手控えをもたらす。日本はいま、そうした状況にある。雇用対策をやるのであれば、国民が安心を実感できるものでなければならない。企業も責任を共有することは言うまでもない。
【社説】派遣切り急増 経営が安易すぎないか
[東京新聞 2008年12月6日]
販売不振、業績悪化だから派遣社員や期間工を解雇――では経営者はいらない。経費節減や役員報酬カットなど不況対策を尽くした後でやむなくというのならともかく、安易な解雇はやめるべきだ。
4日夜、東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会では派遣社員や期間従業員たち約2000人が「寮から追い出さないで」「仕事を保障してほしい」と次々に苦境を訴えた。仕事と住宅を同時に失う事態は深刻だ。
このところの派遣切りや契約解除は目に余る。トヨタ自動車は来年3月末までに期間従業員を3分の1の3000人程度まで削減する。日産やホンダなど自動車業界だけで1万人を超える見込みだ。
キヤノンは子会社の請負社員を1月末までに約1200人、東芝も3月末までに約500人の派遣・期間従業員を解雇する。キヤノンの御手洗冨士夫会長は日本経団連会長を、東芝の岡村正会長は日本商工会議所会頭をそれぞれ務めている。経済界トップの両社が真っ先に解雇では理解に苦しむ。
厚生労働省によると来春までに非正規労働者が3万人以上職を失うという。実際はもっと増えよう。非正規1700万人の1割でも職を失えば社会不安が起こる。
経営者は雇用維持に全力を傾けるべきだ。日本企業の特色だった年功序列、終身雇用、企業内組合という「三種の神器」は崩壊したが、赤字にならないうちから解雇では従業員との信頼は揺らぐ。
労働組合も真価が問われている。昨年6月末の労働組合の組織率は18.1%と32年連続で低下した。組織率が低いままでは政府への政策要求も、経営側への賃上げ交渉も強く出られない。非正規労働者の参加が不可欠だ。
連合は来春闘について物価上昇に見合う賃上げ(ベースアップ)を要求することを決めた。雇用も賃上げもという目標だが、ここでも非正規労働者の雇用確保にどう取り組むのかという課題が残る。
政府は非正規労働者の雇用確保に重点を置いた追加雇用対策を10日に正式決定する予定だ。
失業給付の受給期間を60日間延長するほか非正規労働者の雇用保険加入基準について「1年以上の雇用見込み」を「6カ月以上の雇用見込み」に緩和する方針だ。
だが実施時期は来年以降になろう。失業した労働者にとって、生活をどう維持するかが一番重要である。政府は住宅確保などをただちに実行してもらいたい。
派遣切り横行 「住」確保せねば働けぬ
[京都新聞 2008年12月06日掲載]
「派遣切り」「雇い止め」などといわれる非正規労働者の解雇が相次いでいる。年の瀬を控え、このままでは再就職のあてがない人やホームレスが激増しかねない。緊急対応が要る。
派遣法改正など法的整備を急ぐだけでなく、喫緊の策として「住」の確保を訴えたい。失職と同時に寮などから追い出される現実を変えるべきだ。
一昨日、反貧困ネットワークなどの呼びかけで行われた東京の集会では、突然の契約解除を言い渡された派遣労働者から「どうかホームレスにさせないで」などの切実な訴えが続いた。
厚生労働省は先月、来年3月までに職を失う非正規労働者の数を3万0067人(うち京都府は310人、滋賀県は631人)と発表したが、事態がより深刻であろうことは厚労省も認めている。日本労働弁護団では「数十万人規模の派遣切りが横行している」と警戒を強めている。
こうした状況下でまず取り組むべきは、実態を把握し、不当な契約解除を許さない行政指導を徹底することだ。京滋でも、労働局や職業安定所をはじめ、政党や労働団体などで非正規相談に力を入れるところが増えている。支援の動きを広めたい。
同時に大切なのは再就職を望む人たちへの住まいの確保だ。住所不定では再就職もおぼつかない。
厚労省では就労支援の一環として、東京、愛知、大阪の3都府県を対象に職業安定所と特定非営利活動法人(NPO法人)が協力して、仕事を求める人への入居相談や都の貸付制度のあっせんなどに取り組んでいる。
ただ実効性は限られよう。昨今はアパートを借りる条件も厳しさを増しており、保証会社の審査に通らないと借りられない例もある。非正規労働者の不利は、住の面でも出ている。
必要なのは、もっと強力な対策だ。例えば突然の解雇を申し入れた企業には、失職後も一定期間、社員寮の使用を認めさせるといった対策を検討してはどうか。空いている社員寮を一定期間、行政が借り上げることも不可能ではあるまい。家賃など詳細は、議会や行政、労使で検討すればいい。
その間に次の仕事を探したり、再雇用のための職業訓練を受けることを可能にする方策を探るべきだ。
自民、公明両党が昨日まとめた新雇用対策では、失業した非正規労働者や中高年齢者を対象にした自治体の臨時雇用創出などが盛り込まれたが、住まいの確保も重視したい。与野党で協力し、現行制度で可能なことはすぐにでも着手してもらいたい。
世界経済危機の下で、企業への緊急支援が必要なのは論を待たないが、働く人たちへの支援も、もっと工夫をこらしたい。地域でできる緊急対策についても、知恵を出し合いたい。
派遣リストラ 雇用創出の取り組みを
[信濃毎日新聞 12月2日(火)]
景気悪化の流れを受けて、企業にリストラの動きが強まっている。矛先は主に派遣などの非正規労働者に向けられ、全国各地で働くめどが立たない人たちが増えつつある。
政府・与党は規制緩和によって非正規の労働者を増やしてきた。世界経済の悪化の影響を、弱い立場の労働者が真っ先に受ける構造をつくったと言えるだろう。雇用のゆがみを一刻も早く是正しなければならない。
企業の側にも、雇用を守る社会的責任がある。一層の取り組みを求めたい。
今年10月から来年3月までに失業したり、失業する見通しだったりする非正規労働者が3万人を超える――。厚生労働省の全国調査で明らかになった数字である。長野県は約1600人。愛知、岐阜、栃木に続いて多い。
厚労省がいまのところ把握しているデータにすぎず、現実にはもっと増える可能性がある。深刻な事態だ。
約3万人のうち、製造業の派遣が約1万9400人で、およそ65%を占めている。
この数字は、日本の経済、労働政策のひずみを物語る。
第1に、輸出産業が打撃を受けている現実を反映している。製造業が盛んな長野県も痛手が大きい。輸出主導型で成長を続けてきた弱点があぶり出された格好だ。
第2は、景気後退のしわ寄せを非正規労働者が集中的に受けていることだ。
政府・与党は労働者派遣法を制定して以来、規制緩和を推し進めて派遣労働の範囲を拡大してきた。2004年には製造業にも解禁し、いまでは3人に1人が非正規労働者である。
直接の引き金は世界的な金融危機にあるにしても、政策のひずみが非正規の労働者を直撃している。政治の責任は重い。
雇用のあり方を是正するとともに、雇用創出に取り組まなければ、毎日の生活に困る人たちが増えていくだろう。基本的人権にかかわる重大な問題だ。
オバマ米次期大統領は2年間で250万人の雇用創出を目指すと国民向けに演説した。経済政策チームも早々と固めている。
麻生太郎内閣は第2次補正予算案の提出を先送りした。求心力も衰えている。これで「100年に1度」とも言われる危機を乗り切れるのか、心配が募るばかりだ。
一刻も早く政治を立て直し、雇用の悪化に歯止めをかけなければならない。