正月休み恒例ということで、今年は、日比谷シャンテシネで映画「英国王給仕人に乾杯!」を見てきました。(今年1本目の映画)
で、まず言っておきたいこと――
この映画はイギリス映画ではありません!!
しかも、
主人公が英国王給仕人をやる訳でもありません。
あくまでチェコ映画ですので、お間違いのないように。映画が終わった後、僕の後ろに座っていたお客さんたちが「イギリスの話が全然登場しなかった」「タイトルが違うんじゃない」と話しておられましたので。(^_^;)
主人公は、15年の刑期を終えて、チェコスロヴァキアの労働矯正所から出てきたおっさん(ヤン)。国境付近の旧ドイツ人村の廃墟で暮らし始める。そこは偶然のことながら、ビアホールの跡だったが、彼は、これまでビアホールやホテルの給仕の仕事をやってきた。そして、身近にいる富豪たちの姿を見ながら、いつか彼らのように百万長者になりたいと夢見てきた…。
ということで、彼の回想シーンとともに映画は進んでゆきます。
1918年、第一次世界大戦での敗戦でオーストリア=ハンガリー帝国が解体され、チェコスロヴァキア共和国が誕生。
1938年、ヒトラーがズデーデン地方を併合。39年にはチェコ(ボヘミア、モラビア)はドイツの保護領に、スロヴァキアは保護国に。
1945年、ナチス・ドイツが敗北し独立を回復するが、1948年、「二月事件」でソ連の後押しを受けた共産党政権が成立。「人民共和国」に。
ということで、この「二月事件」後に、ホテル王に成り上がっていたヤンは、15年の刑で収容所に放り込まれます。
で、なぜ映画のタイトルが「英国給仕人に乾杯!」(英語原題でも “I served the King of England”)となっているかというと、ヤンが3番目に働いていたホテル・パリの名給仕長が、客を一目見るだけで、どこから来た客かを見抜いて、何を注文するかを当てるという“神業”を発揮するのですが、そんな技を身につけたのは英国王の給仕人をやったときだという設定になっているからです。
しかし、チェコで仕事をしたことのある友人の話によると、チェコ人は英国コンプレックスがあるらしく、仕事であれこれ文句を言っていても「イギリスではこうだ」というと、話が通るのだそうです。そう思って考えてみると、彼だって、ほんとに英国王給仕人をやっていたかどうか分かりませんね。そういえば箔が付くみたいなところからでた話かも知れません。
なんにしても、映画のそこかしこにチェコらしさがてんこ盛りのようで、ピルスキーなどチェコビールの数々も登場します。
また、これまでにもチェコの歴史を描いた映画はいろいろありましたが、それらは、みんなナチス・ドイツやソ連に支配された被害者が主人公。ところが、今回は、そうした歴史の流れの中で、何とか成り上ろうとしてきた人物が主人公で、コメディとしての誇張もあって、なかなか感情移入しにくいキャラ。
さらに、48年の「二月事件」で逮捕されて15年ということから分かるように、映画の「現在」は1963年。有名な「プラハの春」まで、まだ5年もあります。
ということで、「二月事件」以後のチェコの「現体制」とのからみは全然登場しません。「プラハの春」がソ連の戦車に押しつぶされ、1989年に旧体制が崩壊し、それからもすでに20年たち、「ビロード革命」と呼ばれた動きも変転した現在から考えると、戦後について、もっといろいろ描いてほしかったという気がするし、回想シーンと「現在」の場面が交互に出てくるという作り方が、後半、ややだれ気味になるところもありますが、それでも十分見る価値ありの作品です。
それにしても、正月2日の午後1時40分からの回で、15分前に到着したときには、シャンテシネ1(224席)は、すでに最前列しか残っていませんでした。なんで、こんな映画で満員に…? 考えてみると、理由は2つぐらいでしょうか。
1つは、大手のロードショウ作品にあまり面白そうな作品がない。
もう1つは、映画のタイトルのために、イギリス映画と勘違いしたお客さんがたくさんやってきた?
いろいろ罪作りなタイトルかも知れません。
【映画情報】
監督:イジー・メンツェル/原作:ブフミル・フラバル/出演:イヴァン・バルネフ(若いときの主人公)、オルドジフ・カイゼル(年をとってからの主人公)、ユリア・イェンチ(主人公が結婚するドイツ人女性)、マルチン・フバ(給仕長)/2007年 チェコ・スロヴァキア合作チェコ映画
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