雇用政策の発想の大転換を

今日の「東京新聞」夕刊に、以前にもこのブログで紹介したことのある元雇用審議会会長 ((雇用審議会は、旧労働省の審議会の1つ。内閣総理大臣、労働大臣の試問に答えるだけでなく、必要に応じて総理大臣、労働大臣に意見を述べることもできた。1999年廃止。))の高梨昌氏が、「英米流から働き手重視に」と題して、雇用政策の転換を訴えておられる。

高梨氏は、今回の経済・雇用危機の教訓として、次の2点を指摘されている。

  1. サブプライムローンなど金融派生商品による「マネーゲーム」という経済パラダイムの崩壊
  2. 証券業と銀行業を統合した「直接金融システム」の危険性

さらに、それと並んで、英米流「株主重視型経営」への転換が株主の短期的・近視眼的な利益追求を広め、長期安定的雇用システムの解体と、低賃金・不安定雇用である非正社員基軸の経営システムへの移行をまねき、「労働力使い捨て経営」として「ワーキングプア」を大量生産した、と厳しく指摘。

それを促進した要因として、労働への規制緩和をあげ、「放置すれば、この国の“人材倒産”は免れない」と述べて、雇用政策の「発想の大転換」を訴えておられる。

雇用政策の発想転換<1> 英米流から働き手重視に

[東京新聞 2009年1月13日付夕刊]

元雇用審議会会長 高梨 昌

 「大恐慌」とまでいわれる経済・雇用危機の中で、日本は新年を迎えた。
 昨年、米国の「サブプライムローン」問題などに端を発した、大不況は世界各国に波及。日本では株価急落に加え、一ドル100円を切る80円台という「円高」が追い打ちをかけ、本来なら長期不況を外需依存で乗り切る役割を担ってきた自動車、電気機器、精密機器など「貿易財産業」が大きなダメージを受けてしまった。
 貿易財の業界は「規格多量生産型」の総合的組立産業として裾野が広く、個々の部品、完成部品などの中小零細企業に多大な影響を与える。また鉄鋼業などの素材産業を含め関連企業も多い。結果、そうした関連会社も生産削減を迫られることとなり、「雇用調整」が一斉、かつ大規模に強行され始めてきたのである。
 新卒者の採用内定取り消し、「派遣切り」、期間工・契約社員の中途解雇…。事態は深刻である。非正規社員がもっぱら“雇用調整弁”の対象とされて失業。寄宿舎や寮を追い立てられ、住む家もないホームレスの「ワーキングプア」として、夜の寒空に投げ出されるケースも相次いでいる。
 ところが、国は緊急に対処すべき雇用・失業対策を講じることもなく、年を越してしまった。
 ただ、今回の危機が貴重な教訓を与えていることを忘れてはならない。『市場中心の経済はバブルを生み、やがて市場の崩壊を招く』――。この視点である。
 教訓の第1は、サブプライムローンなど金融派生商品(ヘッジファンド)による「モラルなき拝金主義者らのマネーゲーム」。これらを礼賛する経済システムのパラダイムが崩壊したことだ。元々ヘッジファンドを生んだ金融工学は「悪知恵の資本主義の誘導役」と考えてきたが、欠陥が露呈し、皮肉にも「市場」によって断罪されてしまった。
 第2には、証券業と銀行業を分離させた「間接金融システム」に相対する、両者統合の「直接金融システム」の危険性。今度の危機の経緯で、「不健全な投機を誘発させ、株式市場に混乱と破滅を呼び起こす」ことが実証された。「貯蓄よりも、ハイリスク・ハイリターンの投資」へ誘導する郵政政策をはじめ直接金融システムへの転換は、懸念すべき選択であることが明らかにされたのである。
 最後に指摘したいのは会社と従業員の関係である。「従業員重視型経営」から英米流「株主重視型経営」への転換は憂うべき結果を生んだ。株主の短期的・近視眼的な利益追求を広め、長期安定的雇用システムの解体と、低賃金・不安定雇用である非正規社員基軸の経営システムへ移行。「労働力の使い捨て経営」として「ワーキングプア」を大量生産してしまった。
 これを促進したのが、労働への各種の規制緩和・撤廃と、労働者保護を弱める「労働市場流動化政策」だった。これでは仕事への責任感も労働意欲も失われ、中長期的に経験を積むこともできず、人材が育つこともない。放置すればこの国の“人材倒産”は免れない。
 英米流へと傾いた経済・雇用政策は今、反省を踏まえ、発想の大転換が求められている。

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