失業したのに失業手当がもらえない?! セーフティネットから排除される非正規雇用

「派遣切り」「非正規切り」で、職を失った人が増えているのに、頼みの綱の失業手当がもらえないというケースが少なくない。

ということで、「産経新聞」が実態を含め、問題点を取り上げている。

【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(上) – MSN産経ニュース
【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(中) – MSN産経ニュース
【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(下) – MSN産経ニュース

まず、加入期間の制限。現在は、雇用保険に12カ月加入していなければ、失業手当がもらえない。3カ月、6カ月という短期の派遣契約の場合、派遣会社が雇用保険に加入していない場合がある。実は、短期の派遣契約でも、同じ会社で契約更新をくり返して12カ月を超えていれば、実は企業は雇用保険に加入しないといけないのだが、実際には手続きをしないケースも少なくない。

逆に、雇用保険に入っていても、12カ月になる前に契約を打ち切られてしまえば、失業手当はもらないので、派遣労働者の払った雇用保険料は事実上掛け捨てになる。

2つめ。派遣労働者の場合、派遣先企業から契約解除されても、派遣会社から新しい派遣先の紹介を受けるために、1カ月待機しなければならないことになっている。この1カ月は失業とはみなされない。しかし、いまのような状況では1カ月待ったからといって新しい派遣先を紹介してもらえるアテもないし、寮を追い出され、住むところも失った労働者にとっては、1カ月待っていられない。で、失業手当をもらうために必要な「離職票」をすぐに発行してほしいと派遣企業に要求すると、「自己都合による退職」になってしまうのだ。

そうなると、職業安定所で失業手当の手続きをしても、3カ月待たないと給付されない。

「自己都合による退職」の問題は、他にもある。「会社都合」で大量解雇をだすと、企業にもペナルティがあるため、企業は労働者を会社都合で解雇しておきながら、書面上は「自己都合による退職」にする、という悪質な場合も少なくない。正社員の場合でも、徹底的な“いじめ”で辞表を書かせるなどというケースもある。わずかな退職手当と引き換えに、「希望退職」という名前の「自己都合による退職」に同意させるという手口もある。

いずれにせよ、派遣労働者、期間従業員など短期雇用をこれだけ増やしておきながら、そうした人たちが、いざ失業したというときにも安心できるように雇用保険のセイフティーネットを拡張することを怠ってきたのは、政治の怠慢だ。これまで政府は、雇用保険料を引き上げる一方で、給付を減らしたり、条件を絞ってきたために、雇用保険基金には6兆円ものおカネが積み上がっている。それらを有効活用して、短期の非正規雇用で失業した人たちの生活を保障し、次の仕事を見つけられるようにサポートする体制を、すみやかに構築する必要がある。

【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(上)

[MSN産経ニュース 2009.1.12 08:50]

□「短期で解雇」は手当なし

■「非正規」向けに給付要件を緩和へ

 非正規社員の解雇や契約更新の拒否(雇い止め)などの雇用不安が、昨年末から社会問題化しています。加えて、失業中の生活を支えてくれる失業手当(雇用保険の基本手当)が、雇用保険に加入していながら支給されないケースもあり、労働者の不安に拍車をかけています。こうした状況を受け、政府も急遽(きゅうきょ)、手当が受けられるよう、受給要件緩和などの対策を検討しています。(佐久間修志)

                   ◇

 「正月は思い切りゆっくりして、気持ちを切り替えることにしました」
 昨年末、カメラ部品工場での派遣契約を打ち切られた宇都宮市の島崎祐介さん(22)=仮名=は、次の仕事が見つからないまま新しい年を迎えた。
 傍らには妻と、先月生まれたばかりの娘。貯金は「なんとか1カ月暮らせる程度」だが、失業手当は支給されない。雇用保険には加入していたが、働き始めて約4カ月で解雇されたため、受給できる資格要件を満たさないためだ。
 島崎さんは昨年、名古屋で知り合った現在の妻と結婚。自身の実家に近い関東で仕事を探そうと上京し、派遣会社から9月に仕事を紹介された。10月末に妻を実家から呼び寄せ、新生活をスタートさせた。
 夜勤中心の勤務はハードだったが、「仕事を着実に覚えられている手応えがあって、充実していた。家族のためにも頑張ろうと思いましたし…」。12月14日には、新しい命が家族に加わった。
 だが2日後、生活は暗転した。島崎さんを含む派遣社員約20人が会社近くの集会場に集められ、見たこともないスーツ姿の男性から、「1月の生産がなくなった」と告げられた。数日前から工場は減産態勢。「やっぱり」とも思ったが、娘の顔を思い浮かべ、心が痛んだ。
 自分に失業手当が出ないことは同僚との会話で知った。採用されたとき、派遣会社からは、「できる限り長く勤めてほしい」と言われたし、そのつもりで雇用保険に入った。だが、こうなってみると、「給与から保険料を引かれていたのに、いざというときに払ってもらえない。かけ損だった」と思ってしまう。
 「自分の都合で勝手にやめたなら、もらえなくても仕方がないですが、派遣社員の解雇なんて1カ月でも2カ月でもありうること。加入しているのに補償のない保険でいいのでしょうか」と島崎さん。「次の仕事は絶対、派遣にはしないつもりです」
 景気悪化で、特に非正規社員の雇用環境は悪化している。厚生労働省は先月26日、昨年10月から今年3月までの半年間に「職を失った、または失うことが決まっている」非正規社員が約8万5000人以上になると発表した。
 雇用保険は、派遣などの非正規社員でも、1週間の労働時間が20時間以上あり、1年以上引き続き雇用される見込みなら、企業は加入させなければならない。
 非正規社員の契約満了などでも、給付である失業手当は原則、過去2年間に11日以上働いた月が12カ月あれば支給される。解雇・倒産による失業では、過去1年に6カ月あれば支給される。
 ただ、非正規社員の一部にとっては、この「12カ月」や「6カ月」がカベになる。島崎さんのような、加入期間の短い労働者が解雇または雇い止めを受けた場合、失業手当は支給されず、保険料は“かけ損”になってしまう。
 「製造業の非正規労働者は、継続雇用が前提の場合が多く、制度上は雇用保険に加入しなければならない」。日本総合研究所の山田久主席研究員は前置きした上で、「しかし、今回のように、予想を超えた景気悪化で継続雇用の前提が崩れると、雇用保険が給付できないケースが出る」と解説する。
 厚労省の審議会は8日、非正規社員への十分なセーフティーネットが必要として、失業手当の適用条件の緩和などを目的とした雇用保険法改正案要綱を審議した。

失業手当(基本手当)の受給資格の見直し案

 要綱では、非正規社員の雇い止めについては、失業手当の受給に必要な加入期間を、原則1年から6カ月に短縮。給付日数も、今後3年間は倒産・解雇による失業者と同じにした=表。
 雇用情勢が悪化している地域や、給付日数の少ない若年層などへの失業手当の給付日数は、最大60日間延長する。しかし、施行は4月1日で、対象者は同日以後に退職した労働者。
 また今後、「そもそも雇用保険に加入できない」との声も受け、加入要件では、現行の「1年以上の雇用見込み」を「6カ月以上の雇用見込み」に短縮することも検討する。
 山田主席研究員は「今回の対策は一定の効果が期待されるが、一時しのぎの感も否めない。非正規社員の雇用環境を安定させるには、正社員と同じ制度では限界もある。非正規社員の雇用や生活を支援するための基金を作るなど、抜本的な改革が求められる」と話している。

【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(中)

[MSN産経ニュース 2009.1.13 08:28]

□「自己都合」なら3か月後

■安易に「証拠書類」を残さない

 失業手当(雇用保険の基本手当)は、離職の理由によって、受けられる日数も時期も違います。働いている人が自身の都合でやめた場合は、解雇など、会社都合でやめた場合に比べ、受給開始が大幅に遅れます。しかし、従業員を解雇すると、企業側にも不利益があり、「会社都合」を認めないケースが報告されています。(佐久間修志)

                  ◇

 「あなたには、編集者としての適性がない。賃金カットで部署を変わるか、それとも自主退職するか、どちらかに決めてほしい」
 東京都内の教材販売会社で教材本の編集者をしていた中本泉さん(42)=仮名=は今年6月、呼び出された会議ブースで社長からリストラを切り出された。会社に残る場合、賃金カットは約10万円。事実上の退職勧奨だった。
 中本さんが引っかかったのは、社長の「自主退職」という一言。「なぜ、私が自主退職させられなきゃいけないのか」。納得がいかず、インターネットやハローワークで調べた。
 だが、調べていくうちに、自主退職により、離職理由が「自己都合」にされれば、失業手当を受け取る時期が3カ月も遅れることなどが分かった。
 もともと、中本さんが就職したのは、住宅ローンの支払いが生じたことが大きかった。「3カ月も無収入では…」。部署を変わって働き続けることも検討したが、給与など具体的な処遇は、当初の条件から二転三転。不安からか眠れなくなり、心療内科を受診するようになった。
 中本さんはその後、個人加入の労働組合に相談。組合に交渉してもらった結果、「会社都合」を認めさせて退社した。
 現在、次の就職先を探している。昨年からの雇用不安もあり、なかなか思うような仕事は見つからないが、「私は失業手当がもらえただけ、まだましな方かな」とも思う。
 「実は、会社に言われるまま、自己都合で退職した同僚男性もいたんです。彼には奥さんも子供もいて…。失業手当もないまま、今ごろどうしているんでしょうか」
 失業手当は、離職した労働者がハローワークで求職を申し込み、説明会を受講、約4週間後に再び出頭して失業を認定されると、振り込まれる。振り込まれるのは、求職を申し込んだ日から待機期間7日を引いた日数分だ。その後も失業していれば、28日ごとに失業認定を受け、失業手当を受け取る。
 ただ、すべての離職者がこのスケジュールで失業手当を受け取れるわけではない。離職理由が、転職などの「自己都合」や労働者側に責任がある重大な過失による場合、3カ月間の「給付制限」が発生。受給時期が大幅に遅れる。
 厚生労働省雇用保険課は「緊急度が高い労働者に対する給付を重視する観点から、解雇による離職などは支給が手厚い一方、安易な離職を防止するため、正当な理由のない離職については、制限を設けている」と解説する。
 問題は、会社側の都合で労働者を解雇しながら、「本人の自己都合」と主張するケース。会社の事情で離職者を出すと、雇用関連の助成金返還や、助成金を一定期間、受け取れない場合があるためのようだ。
 個人加盟の労働組合「全国ユニオン」が昨年末に行ったホットラインでは、「自己都合にされそう」という声が多く寄せられた。「自己都合にしなければ、離職票を発行しないと持ちかける悪質な例もあった」(関係者)という。離職票がなければ、失業手当が受けられない。
 では、「自己都合にする」と言われたら、どう対応すればいいのか。専門家が勧めるのは、「自己都合で退職したとみなされるような書類を残さないこと」という。
 理由はこうだ。従業員がやめるとき、会社は従業員の「離職証明書」をハローワークに提出する。書類は「離職理由」などを示すもので、会社が記入するが、内容に異議があるかないかを示す従業員のチェックと、サインまたは捺印が必要。さらに、離職理由が「自己都合」の場合は、その証明として、本人が書いた退職願を添付するのが通例となっている。
 社会保険労務士の中尾幸村さんは「退職願がなくても、離職票は発行されるが、離職者が求職の申し込みに行った際、(離職理由に)異議があれば覆せる可能性がある」と指摘。「離職理由に納得がいかなければ、安易に辞表を書いたり、サインなどをせず、よく考えて」とアドバイスしている。

【ゆうゆうLife】雇用 失業手当がもらえない!?(下)

[MSN産経ニュース 2009.1.14 08:23]

■1カ月か3カ月待ちの派遣

 派遣社員が、離職から1カ月以内に派遣元に離職票の発行を求めると、「次の仕事の紹介を断った」とみなされ、自己都合退職の扱いになってしまいます。ただ、雇用不安のなか、必ずしも次の仕事が紹介される保証はありません。派遣社員からは「1カ月も待たずに受け取れないのか」といった声も聞かれます。(佐久間修志)

 「自己都合になると分かっていたら、離職票なんて請求しなかったのに…」
 東京都内に住む派遣社員、羽田義弘さん(38)=仮名=は、割り切れない気持ちでいる。
 派遣社員の羽田さんは昨年8月、約1年半勤めた精密機械メーカーへの派遣契約の更新を断られた。いわゆる「雇い止め」だ。申し訳なさそうに事情を説明する派遣会社の担当者に、「多少遠くても通うから、早く次の仕事をみつけてほしい」というのがやっとだった。
 だが、退職日が目前になった1カ月後も、次の仕事を紹介してもらえる気配がない。しびれを切らした羽田さんは「それなら、失業手当を受けるから離職票を発行して」と注文した。退職日当日、派遣会社の担当者は離職票を持ってきたが、「自己都合」の欄にチェックがついていた。
 納得できない羽田さんは、ハローワークに不服を申し立てた。しかし、ハローワークから12月初めに返ってきた通知には「派遣契約終了後、1ケ月の間紹介を待つことをせず即時の離職票発行を望んだため、一身上の都合による退職として取扱った。(中略)退職理由は『本人申し出による退職』の取扱いのままとなります」。訴えは認められなかった。
 幸い、その数日後に仕事を見つけたが、2カ月間は貯金を食いつぶし、生活設計は大きく狂ったという。「今の仕事も派遣。次も辞めるときは同じ目にあうのか…」。羽田さんの不安は尽きない。

■移行期間は失業とみなさず

 失業手当の支給には離職票が必要だ。事業主は、従業員の退職翌日から10日以内に離職票発行の届け出をしなければならない。だが、派遣社員が雇い止めになるケースでは、派遣会社は通例、約1カ月以内に離職票を出せばいいことになっている。
 理由は、派遣会社がその間に派遣社員に次の仕事を紹介できれば、移行期間は“失業”と見なされないためだ。厚生労働省雇用保険課は「派遣会社が、労働者に仕事を紹介できるかどうかは不透明なことも多い。運用上、派遣会社への猶予として1カ月を容認している」と説明する。
 もちろん、1カ月も待てない労働者は、あえて離職票の発行を求めることもできる。だが、その場合は「次の仕事の紹介を断った」とみなされ、「自己都合」退職になり、3カ月間は失業手当を受けられない。
 ただ、「1カ月待ち」はそもそも、離職理由の一選択肢に過ぎない。
 離職票には、派遣社員の離職選択肢として(1)派遣労働者が同じ派遣元で仕事の紹介を希望しない(2)派遣労働者が雇用保険適用外の働き方を希望する(3)派遣元が仕事の紹介を指示しない(4)派遣元が雇用保険適用外の働き方を指示する(5)1カ月以内に次の派遣先を紹介されない?の5通りが明記されている。
 (1)と(2)、もしくは労働者が派遣元で紹介された仕事を拒んだ場合、特段の理由がなければ、退職は自己都合とされる。
 派遣元が(3)(4)を選ぶことはまれ。現状は、雇い止めの派遣社員が「会社都合」で離職票を発行されるには、(5)しかない。退職後すぐに離職票発行を求めた羽田さんは(1)に該当、最終的に「自己都合」扱いになった。
 ある派遣会社の担当者は、「スタッフがすぐに離職票を受け取りたいというとき、ハローワークに相談すると、特段の理由がなければ『自己都合』扱いを指示される。ほかに処置の方法がない」と話す。
 だが、昨年末のように大規模な「派遣切り」が起きた場合、派遣会社にとっても、次の仕事を紹介することは困難になる。厚労省は「1カ月待機は、派遣元に仕事の紹介を行う積極的な意思があってこそ成り立つ」として、先月3日、画一的に「1カ月待機」を行わないよう、改めて全国の派遣会社に通達。仕事を紹介できる見通しがなければ、1カ月にこだわらず離職票を出せるよう求めた。
 法政大学の諏訪康雄教授は「1カ月待機は、安易な受給防止のための対応だが、今回のような緊急時に必要な対策とはギャップがある。たとえば離職理由の認定については、ハローワークの窓口が労働者の実態に即して判断するなど、柔軟な対応が求められている」と話している。

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