日経新聞の連載「経済収縮」

日経新聞で昨日(1/25)から連載の始まった「経済収縮―迫られる構造調整」は、なかなかおもしろい内容。

1回目では、今回の危機での生産縮小の問題を非常に大づかみに取り上げている(「生産3割減 『25兆円』喪失も」)。

まず自動車メーカー。12社合計の世界生産は250万台減。スズキ1社の年間販売台数に相当する。

半導体メーカーの稼働率は平均で50%以下。

貿易統計は11月に前年比マイナス26.7%。12月は同マイナス35%。

輸出減をきっかけに製造業は一斉に急ブレーキを踏んだため、鉱工業生産指数は11月に前月比マイナス8.5%。1月には2008年2月比24%マイナスが見込まれているらしい。

自動車の減産の影響を「産業連関表」で分析すると、国内で1兆円分の減産は、ほかの産業で2.1兆円の生産減を招く。実際には、自動車各社は1-3月期に前年比3-4割の減産を計画しており、これをあてはめて試算すると、これだけで同期のGDPを10兆円、前年比2.1%押し下げ、企業全体の営業利益は同19%減る。(大和総研・熊谷亮丸氏の試算)

民間調査期間による最新の経済成長率の見通しは、08年度マイナス2.1%、09年度同2.4%。マイナス2%成長が2年続くと、GDPで約25兆円が失われる。

ほかにも、工作機械受注額はマイナス71.8%、新車販売台数は22.3%減、百貨店売上高9.4%減。等々。

 日本経済は02年からの景気回復期に成長の6割を外需に依存してきたが、世界経済の暗転で輸出頼みの成長シナリオは崩れた。不況と円高を耐え抜くには、内需の自立的な拡大が経済を支えるように変えていく構造調整が課題になる。(「日経新聞」2009年1月25日付朝刊)

それで、日経があげている「内需振興型の政策」は、3つ。

  1. 将来手がけなければならない投資の前倒し。羽田空港の再拡張や学校の耐震化など。
  2. 地球温暖化を防ぐ省エネや環境投資。
  3. 新産業の育成。医療や農業などの規制改革。

羽田空港の再拡張には賛成しないが、学校耐震化は、いま財政出動してやってもよいことだろう。

「新産業の育成」というのも、「規制緩和」でうまくいくとは思わないが、必要なことはいうまでもない。農業などは、食糧自給率を引き上げるためにも、社会的にみてもっと資本が投じられてしかるべき。そのためには、採算のとれる価格水準にならなければだろう。規制緩和や自由化で生産コストを下げるのは、理屈ではそうでも、実際には無理。むしろ、価格保証のために社会的コストを使っても、それで農業が産業として発展すれば、雇用も生まれるし所得も生まれるので、社会的には十分ペイするのではないだろうか。

連載2回目は「節約消費のパラドックス」(26日)。

おもしろい数字が取り上げられている。

  • 胃腸薬「ガスター10」の売上高が今期目標の4億円に達しそうにないなど、胃腸薬の売れ行きが落ちている。(忘年会などを控える人が増えたから)
  • 工場に置かれた清涼飲料水の自動販売機の売り上げが2割減る例が出始めた。(工場の人員削減、購入頻度が落ちている)

野村證券金融経済研究所の分析によると、アルバイトなど非正規雇用は、企業が減産を始めた後、1・四半期遅れて減らされる。正社員の賃金への影響は半年後、雇用は1年遅れて出るらしい。

ということは、賃金への影響は3月以降、雇用は今年後半から本格的に悪化するということか。日本総合研究所の山田久氏は、2009年度中に約140万人の雇用が失われると試算。完全失業率は6%近くになる。

需給ギャップはマイナス4.9%に拡大する。(三菱UFJ証券景気循環研究所の試算)。1999年のマイナス5%に近づく。

 個人消費はふつう景気後退期でも大きくは下振れしないが、今回は金融危機と雇用不安のショックで底割れのリスクがある。今最優先すべき課題は国民の将来不安を取り除くことだ。

ということで、「国はまず雇用に資源を集中し、職を失う人への安全網を強化すべきだ」という小峰隆夫法政大教授のコメントを紹介している。

「平均消費性向」は、社会保障改革との連動性がある。消費性向はバブル崩壊後の90年代に74%から71%に低下したが、介護保険が導入された00年を機に上昇した。「高齢者の将来への不安を和らげ、消費を促したからだ」。

そう考えると、現状はさしずめあべこべの事態だろう。社会保障への不安と、実際の負担の大きさから、むしろ消費を抑制することになっているのではないだろうか。

社会保障に思い切って予算を使っていくことは、景気対策という点からも重要だということだけは確かだ。

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