しばらくどっぷりと『資本論』と格闘して、いささか消耗してしまったので、気分を変えるために日本古代史にかんする新刊書を2冊ばかり買い込んできて、ぱらぱらと読み始めています。
1冊目(左)は、大津透氏(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)の『日本古代史を学ぶ』(岩波書店)。個別の研究論文ではなく、研究史にかかわる論文と、ジュネーブ大学ので講義録を収めたもの。平安時代を中心とした、いわゆる「王朝国家論」にかかわる研究ですが、以前、保立道久氏の『平安王朝』(岩波新書、1996年)を読んだときには、「王朝国家論」なんて言われてもさっぱりその意味が分からず、社会経済史的な研究を等閑視するようになった産物では? と消極的にしか捉えられませんでした。しかし、大津氏による研究史の整理を読んでみると、そうした研究が、古代史では石母田正『日本の古代国家』(岩波書店、1971年)の律令制国家論を受け継ぎ、中世史では戸田芳実『日本領主制成立史の研究』(岩波書店、1967年)の問題意識に始まる議論を発展させてきた、ということが専門外のオイラ(←日本史専攻とはいえ時代は近世史=江戸時代だった)にもある程度見当がついてきました。
とはいっても「王朝国家論」については、やっぱり社会経済史的な側面が十分組み込まれていないような印象はぬぐいきれませんが、社会構成体史的な組み立てを考える上でも、こうした研究をきちんと踏まることが大事だと思いました。
もう1冊(右)は、田中史生氏(関東学院大学経済学部教授)の『越境の古代史』(ちくま新書)。こちらは同じ古代史といっても、もっと時代は遡って、倭といわれた時代から9世紀ぐらいまで。まだ、前書きを読んだだけで、本篇に入ってないのですが、こちらでも、やっぱり石母田正『日本の古代国家』が研究史の出発点になっています(もう1つは、西嶋定生『古代東アジア世界と日本』岩波現代文庫、2000年)。
ということで、僕が大雑把にでも古代史や中世史を勉強した時代から20?30年もたっていて、実証研究の水準はずっと緻密になっています。それだけ細かいところまで研究がすすんだということですが、それをどう全体としてくくるのか。20年以上前の枠組みではダメだとしても、個々の論点ばかりを追いかけてもさっぱり全体像が見えてきません。あらためて、古代史研究の鳥瞰図をつくりなおさなければならないようです。
【書誌情報】
- 著者:大津透(おおつ・とおる)/書名:日本古代史を学ぶ/出版社:岩波書店/刊行:2009年2月/定価:本体2400円+税/ISBN978-4-00-024261-5
- 著者:田中史生(たなか・ふみお)/書名:越境の古代史――倭と日本をめぐるアジアンネットワーク/出版社:筑摩書房(ちくま新書767)/刊行:2009年2月/定価:本体760円+税/ISBN978-4-480-06468-4