肝心の問題について何も明らかにしない不可解な解説記事

北朝鮮のロケット発射問題で、昨日の「読売新聞」が「不可解な対応」と題する解説記事を載せている。衆議院決議に、共産党が反対し、社民党が棄権したことを「不可解な対応」と批判している。

その理由として、「読売新聞」があげているのは、「国民の安全を最優先に考えるべき時、両党の対応は不可解と言わざるを得ない」「国内で足並みが乱れては、国際社会の分断を狙う北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねない」ということぐらいだ。

しかし、社民党はいざ知らず、共産党は、決議に反対する理由を明らかにしている。

  1. 「ミサイル発射」と断定しているが、政府でさえ「ミサイルと断定していない」と言っており、国会が根拠なしに「ミサイル」と断定すべきでない。
  2. 「ミサイル」と決めつけて、それを前提に国連決議に「明白に違反」と断定することはできない。
  3. 「独自の制裁強化」は、「これ以上状況を悪化させる行動をとらない」という6カ国協議での合意から逸脱するものだ。

「読売新聞」は、なぜか、この第1の問題にまったく触れていない。なるほど「読売新聞」は、どの記事を見ても、「北朝鮮が『人工衛星』だと主張して弾道ミサイルを発射した」などと書いて、北朝鮮が発射したものは「弾道ミサイル」であると断定している。それは見事に徹底しているが、しかし、どの記事を見ても、読売新聞社として「弾道ミサイル」と断定した根拠は書かれていない。もし「読売新聞」が共産党の態度を「不可解な対応」と批判するのであれば、まず弾道ミサイルと断定した根拠を自ら示す必要があるだろう。それ抜きに共産党を「不可解な態度」と非難する「読売新聞」のやり方こそ、「不可解」といわざるを得ない。

問題は外交である。外交の場では、根拠なく相手国を非難してみても何の効果もない。「国民の安全」にかかわる問題だからこそ、国際社会をきちんと納得させられるだけの根拠をもって、日本の立場を主張しなければならない。そこに知恵をつくす必要がある。

今日の「毎日新聞」には次のような記事が出ていたが、「弾道ミサイル」だと断定することは難しいというのが実際のところではないか。

北朝鮮ミサイル:人工衛星?物証なく確認難航 日米が分析(毎日新聞)

「読売新聞」の解説記事はインターネットでは流れていないようなので、必要なところを引用しておく。

不可解な対応

[読売新聞 2009/4/8朝刊、4面]

 北朝鮮のミサイル発射を非難する国会決議は、7日の衆院本会議で共産、社民両党が同調せず、全会一致とはならなかった。国民の安全を最優先に考えるべき時、両党の対応は不可解と言わざるを得ない。
 日本は米国と共に国連安全保障理事会の場で、北朝鮮への非難を強める新決議案の採択を各国に呼び掛けている。それにもかかわらず、国内で足並みが乱れては、国際社会の分断を狙う北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねない。
 両党とも、北朝鮮に対し、抗議や遺憾の意を示してはいる。しかし、国連安保理決議違反と断定できるかどうかに加え、日本独自の制裁強化についても「外交的な解決の障害になる」(共産党)などと主張し、与党や民主党と折り合わなかった。
 中国やロシアなどにはこうした考え方もあるだろう。しかし、北朝鮮の脅威に直面する日本は、国民の安全を守るため、国際社会を説得する立場のはずだ。
 (最後の段落略)

共産党の立場は、以下の記事を参照のこと。

国会決議への日本共産党の態度について/こくた国対委員長語る(しんぶん赤旗)
制裁強化 衆院で決議/北朝鮮ロケット 共産党は反対(しんぶん赤旗)
北朝鮮に核兵器開発を終わらせる――この最も重要な目的達成のための外交努力こそ/水戸で志位委員長が訴え(しんぶん赤旗)

北朝鮮ミサイル:人工衛星?物証なく確認難航 日米が分析

[毎日新聞 2009年4月8日 22時28分(最終更新 4月9日 1時27分)]

 北朝鮮の発射した長距離弾道ミサイルには、北朝鮮が主張する人工衛星が本当に搭載されていたのか??。各種データや7日公開された映像などから日米両国を中心に分析が進められている。人工衛星が軌道上にないことは確認されているが、発射目的が衛星打ち上げか、それともミサイル実験だったのかを断定できる証拠は今のところ見つかっていない。落下した飛翔(ひしょう)体の残骸(ざんがい)を引き揚げない限り、衛星が搭載されていたかどうか、水掛け論が続く可能性もある。

◇難度「ミサイル」以上

 日本の宇宙分野の専門家からは、人工衛星を打ち上げようとして失敗したとの見方が出ている。永田晴紀・北海道大大学院教授(宇宙推進工学)は「地球を一周できる人工衛星を打ち上げることは、目標地点に落とすミサイル開発より難しい。衛星打ち上げに成功すれば、ミサイル技術も得ることができる。平和利用と言いながら世界を恫喝(どうかつ)できる人工衛星だったと考えられる」と話す。
 北朝鮮の技術力については「今回の打ち上げは安定して発射しており、垂直方向に飛ばす技術はかなり成熟していることがうかがえる。だが、報道からは3段目の切り離しに失敗したとみられる。(衛星を軌道に乗せるため)秒速約10キロの状態で行われる切り離し技術は未熟のようだ」と推測する。
 また、別の専門家は「ミサイルには、落下時に大気との摩擦で高温になる弾頭部を守る大気圏再突入技術が必要だ。北朝鮮にはそこまでの技術力はないだろう」と分析する。
 では、飛翔体の軌跡を分析することで、人工衛星打ち上げかミサイルかの区別がつくのだろうか。
 永田教授は、「3段目の切り離し後、さらに上昇、加速していれば人工衛星打ち上げの可能性が高い。だが、その前に失敗しており、おそらく判断できないだろう」と説明する。
 的川泰宣・宇宙航空研究開発機構名誉教授も「これまでに公表された飛行状況や映像からは判別できない。最終的には搭載物を確認するしか方法はないと思う。しかし、落下地点を割り出して回収するのは難しいのではないか」と話している。【関東晋慈、西川拓】

◇核弾頭化にらみ実験か

 米国では「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験」(ブレア国家情報長官)との見方が大勢だが、搭載物については意見が分かれる。イージス艦のレーダー情報は航跡に限られ、搭載物を見極められないためだ。
 人工衛星説は、発射数日前の米スパイ衛星などの画像から先端部に兵器用の弾頭とは異なり、人工衛星のような「球体状」の物体が搭載されていることが判明したのが発端。発射後、ビクター・チャ前米国家安全保障会議(NSC)アジア部長もCNNテレビで「人工衛星を軌道に乗せようとした」との見方を示した。
 しかし、「テポドン2号ミサイルの発射」と発表した米北方軍は、先端部について「物体」「搭載物」とし、人工衛星の表現は避けている。現段階では「人工衛星か弾頭かは分からない」(国務省当局者)のが実態だ。
 国防総省関係者は「搭載物があるのは確かだが、(人工衛星の)ダミー(偽物)という話もある」と指摘する。仮にダミーでも一定の重量の物体を搭載したミサイルを発射することで、推進や射程などの性能を評価できる。
 ダニエル・スナイダー米スタンフォード大アジア太平洋研究所副所長は人工衛星かどうかの見解の違いは「本質ではない」と指摘。「(小型の)核弾頭化を目指す北朝鮮のミサイル計画は、核兵器計画のない日本の人工衛星打ち上げとは違う」と述べ、搭載物が何であれ、将来の核弾頭化に向けた発射実験との見方を示した。【ワシントン及川正也】

「毎日新聞」の記事によれば、アメリカ政府は「テポドン2号ミサイルの発射」と言っているが、それはロケットの型式のことで、「弾道ミサイル」を打ち上げたとは断定していない。

私自身、北朝鮮が核兵器開発を続けることは日本の安全保障にとって重大な問題だと思う。だから、6カ国協議で北朝鮮自身が主張したように、最終的には朝鮮半島全体の非核化をめざすことが、日本にとっても、その他の国にとっても大事な目標だと考えている。その点で、今回のロケット発射についても、よいことだとはまったく思わないし、国際社会もそう考えていることを明確なメッセージとして北朝鮮に伝える必要があると思う。

だからこそ、国際社会の誰もが認める根拠と道理にたって、私たちの主張を外交的にきちんと明らかにすることが大切だと考える。弾道ミサイルが発射されたと断定できるのであればよいが、そうでないのであれば、そのことを踏まえて、日本の立場をどう主張したらもっとも効果的か、そこに知恵をつくす必要があるのではないだろうか。

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