金融論がご専門の埼玉大学・相沢幸悦氏の最新著。アメリカのサブプライムローン問題に端を発した現下の金融危機、経済危機をとりあげた本です。しかし、それにもかかわらず、タイトルが『恐慌論入門』となっているところがミソ。
つまり、なぜサブプライムローンは破綻したのか、といった分析にとどまらず、そもそも恐慌とは何か、なぜ恐慌は起こるのか、という基本から問題を論じているところが特徴です。
だから、サブプライムローンなどの金融バブルがどうして膨らみ、なぜ破裂したのかという金融面での説明にとどまらず、その大もとには、ITバブルや住宅バブル、あるいはアメリカの過大な消費をあてにした実体経済でのバブル、景気の過熱があったとして、そうした実物経済でのバブルがどうして生まれたのか、というところにまで分析を掘り下げています。
目次をみれば分かるように、アメリカと日本だけでなく、ヨーロッパの問題もとりあげられています。アメリカの投資銀行、ドイツのユニバーサル・バンクなど、銀行のあり方が詳しく論じられているのは、さすが金融論専攻の相沢氏ならでは。
日本経済については、「平成大不況」第2波という捉え方をしているのも、本書の特色の1つでしょう。
終章では、「具体的施策」として、「日本を本格的な内需拡大経済システムに転換」するとして、こんな提案が示されています。
- 雇用者賃金の引き上げ。全企業が5%の賃上げを実行すると、雇用者報酬は13兆円増加。これを前提にして、労働条件の改善などで内需が拡大する。
- 4週間程度の長期化期連続有給休暇を法制化して、全国民の半数6000万人が滞在型の休暇を取るとすれば、3兆円の新規個人消費が創出される。
- 税増収のために、消費税はそのままにしても、税金の無駄遣いを徹底的に是正すれば、一般会計、特別会計あわせて20兆円捻出できる。
- そのうち10兆円程度を福祉充実にあてれば、個人消費の拡大効果が出てくる。
- 残りの10兆円+環境税・炭素税の導入10兆円、あわせて20兆円を環境保全型経済システムの構築に投入する。
- これらが実現すれば、個人消費はさらに20兆円増加し、GDPに占める個人消費の比率は60%から64?65%に上昇する。
ごくごく大雑把な計算ですが、賃上げ、社会保障の充実で個人消費を拡大して、日本経済を内需拡大型経済に転換するという方向は大賛成です。
ところで、途中、中央集権的な日本経済システムを転換させる方策として、「連邦制(道州制)に移行する」(183ページ)とさらりと書かれていたりします。もちろん、相沢氏の考える「連邦制」は、財界・自民党がすすめようとしている「道州制」とはまったく別ものだと思いますが、いま議論になっている問題だけに、もう少し丁寧な書き方がほしかったところです。
目次は以下のとおり。
第1章 アメリカ型資本主義はなぜ崩壊したのか
第2章 崩壊の深層――金融はいかに肥大化したのか
第3章 1929年恐慌から何を学ぶべきか
第4章 金融不況から「恐慌」へ――平成大不況の本質
第5章 サブプライム危機とヨーロッパ
第6章 経済・金融システムをどう改革するか
終 章 日本の進むべき道
【書誌情報】
著者:相沢幸悦(あいざわ・こうえつ、埼玉大学教授)/書名:恐慌論入門―金融崩壊の深層を読みとく/出版社:日本放送出版協会(NHKブックス1133)/発行:2009年3月/定価:本体970円+税/ISBN978-4-14-091133-4