ハヤカワ文庫で『素粒子物理学をつくった人びと』(上・下)が出ました。親本は、1986年刊の原著の邦訳として1991年に出版されたものですが、文庫版は1996年に出た原著改定版の翻訳となっています。さらに、下巻には、鎮目恭夫さんの「文庫版への訳者あとがき」と、岡村浩さんの付録「その後の素粒子物理の歩みとノーベル物理学賞受賞の日本人の仕事について」が収められています。岡村氏の解説は、本書では、南部陽一郎氏の研究まで取り上げられているので、その後の素粒子物理学の動きを補足してくれるものです。
物理学者へのインタビューをもとに構成された本書。鎮目さんは、「文庫版への訳者あとがき」で、「本書が文庫版として出版されることになったのは、明らかに、昨年度(2008年)のノーベル賞が日本の素粒子物理学者3名に与えられたことの反映」(下、466ページ)と書かれていますが、いえいえ、十分面白いです。(^^;)
その「訳者あとがき」で、鎮目さんは、ノーベル賞受賞をめぐるメディアの騒ぎようには「ベルリン・オリンピック…における『前畑がんばれ』の叫びの新版の響きがある」(同前)と指摘し、それにたいして、湯川・朝永らに代表される日本の素粒子物理学の伝統は、戦後の「学術体制民主化運動」のなかで生まれたことをあらためて強調されています。
で、そのくだりで、次のように書かれています。
昨年秋に2008年度ノーベル物理学賞を受賞した3名のうち少なくとも益川さんは、やはりそう感じておられるのではないか。特に、「赤旗」紙に年初来時おり載った益川さんの言説は、彼が、私の知る限りの坂田さんの最後の優れた弟子であることを思わせる。他方、文藝春秋誌2009年3月号の益川敏英「ノーベル賞受賞、嬉しくないといった理由」と題する「受賞手記」なるものには、その「理由」がさっぱり書かれていなかった。誰かが彼の原稿をかなり削ったためだろうか。(同前、467?468ページ)
「『赤旗』紙に年初来時おり載った益川さんの言説」とありますが、今年になって益川さんが「しんぶん赤旗」に登場したのは、日曜版での不破哲三さんとの対談しかないと思います。1月25日号、2月1日号に上下で掲載されたので、「時おり載った」と書かれているのとも合致します。
不破さんも、もともとは東大物理の出身。ということで、この対談では、益川さんらの研究の意義に、不破さんが「物質の階層性」「科学の方法論」という角度から迫っていて、なかなか面白いです。(^^;)
【書誌情報】
書名:素粒子物理学をつくった人びと(上下)/著者:ロバート・P・クリース, チャールズ・C・マン/訳者:鎮目恭夫、林一、小原洋二、岡村浩/出版社:早川書房(ハヤカワ文庫NF347,348)/発行:2009年4月/定価:本体各1200円+税/ISBN978-4-15-050347-5, 978-4-15-050348-2