すでに昨日になってしまいましたが、「毎日新聞」夕刊の2面「特集ワイド」欄で、共産党の志位和夫委員長のインタビューが「志位さん『親オバマ宣言』?」という東スポばりの?付きの見出しで、大きく取り上げられました。
「毎日新聞」は、6月1日付朝刊の「風知草」で志位委員長のオバマ大統領宛書簡を「戦略不在の空白を突いた鋭い切り込みだった」と評価していましたが、今回のインタビューもその続きといえます。志位さんがオバマ大統領のプラハ演説のどこに注目したのか、なぜ書簡を送ったのか、などなど質問しています。
特集ワイド:志位さん「親オバマ宣言」? 核ゼロ演説に感激 手紙に返事、また感激 : 毎日新聞
特集ワイド:志位さん「親オバマ宣言」? 核ゼロ演説に感激 手紙に返事、また感激
[毎日新聞 2009年6月10日 東京夕刊]
◇「アメリカへ行きたい」
核兵器のない世界へ、プラハでの演説でそう宣言したオバマ米大統領に「共感の手紙」を送った共産党委員長の志位和夫さん、米政府からもたらされた返書に喜びを隠せない。届かぬはずのラブレターが届いたかのようで――。【鈴木琢磨】
さっきまで降っていた雨もあがり、東京は代々木の共産党本部屋上の赤旗が風に吹かれている。屋上が緑のプロムナードになっているとは知らなかった。一面、新緑に覆われ、小さな池があり、せせらぎもある。志位さん、ご自慢らしい。「いいでしょ。バラなんかもきれいだし、アジサイも鮮やかでね」。おやおや藤棚まである。ビアガーデンなんかいかがで? 「そりゃおもしろい。やりますか」
ずいぶんノリがいい。「蟹工船」ブームで、このところ共産党が「元気」だとは承知していたが、オバマ返書でさらに勢いづいている気配である。きっかけは4月5日、チェコの首都プラハでのオバマ大統領の演説だった。核兵器廃絶への情熱にわが意を得たりとばかりに志位さん、<バラク・H・オバマ殿>の書き出しで<大きな感銘をもって読みました>との書簡をしたため、同28日、在日米大使館に赴き、ズムワルト臨時代理大使に手渡した。党の代表者としては初の訪問だった。
「私自身、感動しましたから。歴史的な演説だと思いました。注目したのは3つの言明です。1つは核兵器廃絶を国家目標とすると初めて明示した。2つは広島・長崎での核兵器使用が人類的道義にかかわる問題であると初めて表明し、核兵器廃絶へ向けた責任を語った。3つは世界諸国民の協力を呼びかけた。もとより日本共産党と米政府との間には立場の違いはたくさんあるわけですが、大きな踏み出しをした以上、心から歓迎し、この提起が国際政治の中で実るようにしたい、その思いを伝えたかったんです」いわばオバマ大統領へのラブレター、返事を期待していたわけではなかった。ところが、5月16日、党本部にエアメールが届く。オバマ大統領がデイビス国務次官補代理に代筆を指示した書簡だった。<親愛なる志位さま>ではじまる文面には<あなたの情熱をうれしく思う>とあった。「土曜日で自宅にいたんです。秘書がファクスで送ってくれまして。うーん、正直、驚きましたが、オバマさんの誠意を感じました。短いですが、よく練られた文章でしたし。ああ、こちらの熱意が伝わったんだなあと思いましたね」
「反核・平和」へ相思相愛の間柄になったと? 「ハハハ、私はプラハ演説で同意できない点もあると率直に書きました。核兵器のない世界の実現について、おそらく私が生きているうちは無理だろうと述べたからです。戦後、核保有国が核兵器廃絶を主題として交渉をやったことは一度もない。その呼びかけさえない。意思さえあればすぐに取りかかれるはずです。ま、一連のやりとりで日本共産党と米政府に公式ルートができた意味は大きいと思います」それにしてもなぜ、わざわざ志位さん、書簡を送ったのだろうか。いまひとつふに落ちない。歓迎の声明で済ます手もあった気もする。インタビューしながら首をかしげていると、ちょっとテレくさそうにコピーをくれた。なんでもマルクス・エンゲルス全集から引っ張ってきたとか。リンカーン大統領の再選にあたってマルクスが祝意を伝えた書簡、一節を読み上げた。
「偉大な民主共和国の思想がはじめて生まれた土地、そこから最初の人権宣言が発せられ、18世紀のヨーロッパの革命に最初の衝撃をあたえた土地……。そう、われわれの大先輩はアメリカの歴史に深い尊敬の念を持っていたんです。そして、このマルクスの書簡にリンカーンが返事を送ってるんですよ。オバマさんはリンカーンを尊敬してるでしょ。繰り返しリンカーンの発言を引いていますし」
なるほど、マルクスが志位さんで、リンカーンがオバマ大統領という見立てか。共産主義者と米大統領の秘話をなぞっていたのですね。「そんなつもりじゃないですよ。ただ、オバマ政権は共産党だからといって、差別したり、無視したりはしない。それは返書で確信しました。いまはワシントンに赤旗の支局もありますが、戦後しばらく共産党員というだけでアメリカ国内に立ち入れなかった。たとえば、わが党の代表団がレイキャビク経由でヨーロッパに行くとき、空港の外に出られなかったりもした。そういう時期もありましたからね」
まさに隔世の感あり、といったところか。言葉の端々にかつて「米帝」呼ばわりしていたアメリカへのシンパシーすら感じられる。で、どれくらいアメリカナイズされているのか問うてみた。マクドナルドは? 「食べます」。ジーパンは? 「学生時代はいてました」。ディズニーランドは? 「子供が小さかったとき一緒に行きました」。ジャズは? 「好きです。高校のころ、ピアノを習っていて先生から仕込まれました」意外なほど親米、いや、ごく普通の日本人である。「当たり前ですよっ! 党の綱領ではアメリカを帝国主義と規定していますが、これからは複眼で見ようとも言っています。世界の世論を反映して前向きの変化が起こったときは評価していこうと。これまでの支配、従属でなく、対等・平等でこそ真の友好が生まれる。日米安保条約に代えて日米友好条約を結びたい、それが願いです」。すると訪米し、オバマ大統領とも会談を? 「具体的に党内で相談しているわけじゃありません」
常識ではラブレター交換の次はデートでしょ。「赤旗」でオバマ返書を宣伝するだけでOKなんですか? 「うーん、やはり、適切な機会があれば、機が熟せば、私はアメリカに行くことを望んでいます。本場のジャズも聴きたいし、カーネギーホールもアメリカン・バレエ・シアターも見たいしね」。慎重に言葉を選びながらも、訪米への意欲を強くにじませるのは「たしかな野党」からの脱皮を図ろうとしているからに違いない。
「あれ、なかなかいいスローガンだったんだけどね、使うのやめたんですよ。いつまで野党でいるつもりかって突っ込まれちゃったんでね」
見れば、屋上の赤旗がはたはたと翻りだした。共産党に追い風が吹いているのか。