来日した中国の習近平・国家副主席が天皇と会見することにかんして、宮内庁長官が内閣の対応を批判したことから、にわかに「政治利用」云々の論争が巻き起こっています。
もともと、憲法に定められた天皇の外交上の国事行為は、「批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること」と「外国の大使及び公使を接受すること」しかありません。それ以外のこと ((一般に天皇の「公的行為」と言われていますが、憲法に天皇の「公的行為」についての規定はありません。つまり、一種の「超憲法的行為」といえます。したがって、「公的行為」の内容などは、きわめて厳格、限定的に考えられるべきであり、また、そうしたものとして行なわれなければなりません。もちろん、「国政に関する権能を有しない」(第4条)という憲法の規定を犯すことは絶対に許されません。また、直接には宮内庁が決めるにしても、「公的行為」についても「内閣の助言と承認」のもとにおこなわれ、「内閣が、その責任を負」っていると考えなければなりません。))は、歴代自民党政権が、自らの外交に天皇を「政治利用」して積み重ねてきたものです。それを棚上げして、今回の事態で自民党がにわかに「天皇の政治利用」に反対し始めるのは筋が通らないと思います。
:天皇陛下の要人会見「政治判断と別次元で」 宮内庁長官 : 朝日新聞
安倍元首相、「天皇の政治利用」と批判 : TBS News-i
隣国との付き合い大事=首相 : 時事通信
自民党が、反中国的な思惑から、「政治利用」を言うのはますます道理がありません。中国との外交で、天皇との会見や発言などにさまざまな政治的な意味を与えてきたのは、自民党自身です。その結果、もし今回会見しないということになっていたら、それはそれで逆の「政治効果」が生じる事態になっていたはずで、民主党がそれを回避しようとあれこれ対応したことをとらえて、「政治利用」と批判するのは、まったくもって一方的な話です。
つまり、いま起こっていることの正体は、簡単に言ってしまえば、「1ヶ月前なら政治利用OK」という自民党が、「1ヶ月前かどうかにかかわらず政治利用する」という民主党を批判している、ということにほかなりません。
それにしても、今回の事態に関連して鳩山首相が「中国は大事な国だから」と発言していたのは、一国の首相の言葉としては一番まずいもの。なぜなら、もしそうであれば、今後は、要人が来日したのに天皇と会見できなかった国は、日本政府が「重要な国ではない」と認めたということになってしまうからです。こういう軽率な発言をするあたり、鳩山首相には政治的センスがないといわざるをえません。
天皇陛下の要人会見「政治判断と別次元で」 宮内庁長官
[asahi.com 2009年12月12日1時26分]
天皇陛下と中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席の会見が決まった経緯に関する羽毛田信吾・宮内庁長官の説明の概要と、主な一問一答は次の通り。
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【長官による経緯説明】
両陛下の外国賓客の引見については、引見希望日が迫った形で願いが出てまいりますと日程調整に支障をきたす。そういうことがなくても繁忙をきわめる両陛下に想定外のご負担をおかけすることになる、と考え、1カ月以上前に、内閣(外務省)から願い出をいただくことをルールとしてやってきました。
とくに2004年以降は、前年に陛下の前立腺がんの手術もあり、陛下の負担や年齢も考慮して、ルールをより厳格に守っていただきたいと政府部内に徹底してきたところです。
このルールの肝心だと思っているところは、国の大小だとか、この国が大事でこの国は大事ではないという政治的重要性で取り扱いに差をつけることなくやってきた点です。米国は大事だから米国の賓客には1カ月以内でも会うとか、某国はそれほど大事じゃないから厳格にルールを守りましょうとか、そういうことをしない形でやってきた。
両陛下のなさる国際親善は、政府の外交とは次元を異にし、相手国の政治的な重要性とかその国との間の政治的懸案があるとか、そういう政治判断を超えたところでなされるべきものだという考え方です。従って今回は、現在の憲法下における天皇陛下のお務めのあり方だとか、役割だとかいった基本的なことがらにもかかわることと思っているわけです。
今回、外務省を通じて内々に宮内庁の窓口に打診をされてきたのは1カ月を切った段階でしたから、ルールに照らし、お断りをした。その後、官房長官から、ルールは理解するが日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いするという要請があり、私としては、政治的に重要な国だとかにかかわらずやってきたのだからぜひルールを尊重していただきたいと申し上げました。
その後、再度、官房長官から、総理の指示を受けての要請という前提でお話がありました。そうなると、宮内庁も内閣の一翼をしめる政府機関である以上、総理の補佐役である官房長官の指示には従うべき立場。大変異例なことではありますが陛下にお願いした。が、こういったことは二度とあってほしくないというのが私の切なる願いです。【報道陣との質疑】
――陛下の政治的利用につながりかねないとの懸念を持っているということですか。
大きくいえば、そういうことでしょう。個別に政治的懸案があるからこうしよう、という形でやっているわけではないわけですから。
――1カ月というルールの根拠は何ですか。
日が迫って日程を入れるほど大きな支障を生じる。今はお年も召され、手術もしている。それで、ひとつの常識として1カ月でやってもらおうということでやってきた。
大事なのは、それでやりましょうとみんなが守ってきた時に、中国は政治的に大事だからこうしましょうとなるのは、つらい。政府のありようとしては、それじゃうまくないのではと申し上げたつもりです。――政治利用に関して、もう少し具体的に。
そういうことを超えたところで外国のおつきあいをなさるのが陛下の国際親善のありようだと。それを政治的な重要性だとか懸案があるからということでしたら、それを一言でいえば政治利用でしょうけれど、政治利用という言葉で言うだけではなくて、やはり天皇陛下のお務めのありよう、あるいは天皇陛下の役割ということについて非常に懸念することになるのではないでしょうか、と。政治的利用ではないかという懸念ではないかと言われれば、そうかなという気もしますね。
安倍元首相、「天皇の政治利用」と批判
[TBS News-i 最終更新:2009年12月14日(月) 16時49分]
天皇陛下と中国の習近平・国家副主席が慣例であるいわゆる「1か月ルール」を無視して面会することを受け、自民党の安倍元総理は、この面会は民主党の小沢幹事長の訪中とセットになったものだと指摘、民主党が「天皇の政治利用を行った」と批判しました。
「国会議員が人民大会堂で胡錦濤主席と次々と握手をする、あの光景を見てびっくりした方が多いと思う。私はその小沢一行が歓待されることと(面会が)セットになっていたのではないかと」(安倍晋三 元首相)
安倍氏は、天皇陛下との面会における「1か月ルール」は陛下の健康状態に配慮して設けられたもので、「歴代の自民党政権はこれを守ってきた」と強調。その上で今回の面会は、「小沢氏の訪中の際の胡錦濤国家主席らの歓待とセットになったものと思わざるを得ない」として、「小沢氏が主導して強引に持ち込んだものだ」と政府・民主党の対応を批判しました。
さらに15日の面会について、「いまからでも遅くない。中国側に説明し取り下げるべきだ」と強く翻意を促しました。(14日12:00)
隣国との付き合い大事=首相
[時事通信 2009/12/14-21:09]
鳩山由紀夫首相は14日夕、中国の習近平国家副主席が天皇陛下と会見することに関して、「(中国は)世界で1番人口が多い国で隣国だ。そういう国との付き合いは非常に大事だ」と意義を強調した。会見を特例的に決めたことについては「政治利用という判断ではなく、(陛下の)お体が許すのであればという状況の中でお願いをした」と語り、問題はないとの認識を改めて示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。
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