メカニズムやシステムの方が分かりやすいんじゃないでしょうか?

『資本論』第13章「機械と大工業」を読んでいて、ふとわいた疑問です。

たとえば、機械と道具の違いについてマルクスは、機械の場合は、道具が「人間の道具」としてではなく、「1つの機構の道具」になっていると説明しています(新日本出版社、新書版『資本論』第3分冊、647ページ)。この「機構」の原語は、Mechanismus です。

確かに、ドイツ語の Mechanismus は英語で言えばメカニズム mechanism ですから、辞書的には「機構」という訳語で問題ありません。しかし、「機構」というと、たとえば NATO(北大西洋条約機構)のように、具体的な物ではなく、組織・制度を指す場合もあります(要するに「機構」という言葉には、Organismus もしくは Organisation の訳であるという可能性がつきまとうわけです)。だから、「機構の道具」と言われても、今ひとつピンとこないのです。

たとえば先ほどのところ。原文は、以下の通り。

Sehn wir uns nun die Werkzeugmaschine oder eigentliche Arbeitsmaschine näher an, so erscheinen im großen und ganzen, wenn auch oft in sehr modifizierter Form, die Apparate und Werkzeuge wieder, womit der Handwerker und Manufakturarbeiter arbeitet, aber statt als Werkzeuge des Menschen jetzt als Werkzeuge eines Mechanismus oder als mechanische.

ここを、たとえばこんな風に訳したらだめでしょうか。(機構=メカニズム以外にも訳文を直しています)

 そこで、道具機または本来的作業機をもっと詳しく考察すると、しばしば形は非常に変えられているとはいえ、全体として、手工業者やマニュファクチュア労働者が作業するときに用いる装置と道具類が再現している。ただし人間の道具としてではなく、いまでは1つのメカニズムの道具として、または機械の道具として、である。

ここは、「メカニスムス」と「メカニッシュ」とが対になって用いられています。しかし、メカニッシュな道具を「機械的道具」と訳しても意味は通じません(「機械的」は辞書を引くと、「機械が動くように単調な動きを見せるさま」「個性的でなく、型どおりのさま」「力学的」という意味が出てきますが、いずれも当てはまりません)。ここは、メカニズムと機械とを対にして訳した方が分かりがいいと思います。

その少し後のところも、こんな風になります。

 つまり、道具機は、適当な運動が伝えられると、その道具を使って、かつて労働者が類似の道具でおこなっていたのと同じ作業をおこなう1つのメカニズムである。その動力が人間から出てくるか、あるいは、動力自体がまた1つの機械から出てくるかは、事態の本質をなにも変えない。本来的な意味での道具が人間から1つのメカニズムに移し替えられたときから、単なる道具に代わって機械が登場する。(新書版、647?648ページ)

 産業革命の出発点となる機械は、1個の道具をあつかう労働者を、1つのメカニズムと取り替える。すなわち、多数の同一または同種の道具でいっせいに作業し、また、その形態がどうであろうと、単一の動力によって動かされる1つのメカニズムと取り替えるのである。(新書版、651ページ)

メカニズム、もっと現代風に言えば「メカ」です。人間の道具からメカの道具へ、というと分かりやすいんじゃないでしょうか。(^_^;)

また、しばしば「体系」と訳されている System という単語。これも、あれこれ悩まず、「システム」と訳していいんじゃないでしょうか?

たとえば、(こちらも同様に、体系=システム以外にも訳文を直しています)

 多数の同種の機械の協業と機械システム Maschinensystem という2種類のものが区別されなければならない。(新書版、655ページ)

 しかし、本来的な機械システム Maschinensystem が、ばらばらの自立した機械に代わってはじめて登場するのは、労働対象が、種類は異なるが互いに補完しあう一連の道具機によって仕上げられてゆく、相互に連関した一系列のさまざまな段階過程を通過する場合である。(新書版、657ページ)

 機械経営のもっとも発展した姿は、1台の中心的自動装置(アウトマート)からその運動を伝動機械を介してのみ受け取るように編制された諸作業機のシステム System である。(新書版、661ページ)

等々。

『資本論』というのは、戦前からの翻訳史があるので、一度、ある訳語があてはめられると、なかなか特別な理由がないと、同じ訳語がそのまま踏襲されていきがちです。しかし、戦前や戦後直後ならともかく、いまでは、メカニズムもシステムも日常語。「機構」とか「体系」とか訳すと、かえってわかりにくくなるんじゃないでしょうか。

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