マルクス時代の最先端産業?!

『資本論』第13章のなかで、マルクスは、機械の使用にともなって労働者数が相対的に減少する一方で、生産諸手段や生活諸手段がよりたくさん生産されるようになると、「運河、ドック、トンネル、橋など」のような「その生産物が遠い将来にしか実を結ばないような産業部門」が拡大すると指摘しています(第6節「機械によって駆逐された労働者にかんする補償説」)。

そのなかで、マルクスは、「現在、この種の主要産業とみなすことができるのは」として、ガス製造所、電信業、写真業、汽船航運業、鉄道業をあげています。いってみれば、これら産業が、当時の「最先端産業」だったわけです。(新日本出版社『資本論』新書版<3>770ページ、注222の後ろ)

 労働者数が相対的に減少するもとで、生産諸手段および生活諸手段が増加することは、運河、ドック、トンネル、橋などのように、その生産物が遠い将来にしか実を結ばないような産業部門での労働の拡大を促す。……現在、この種の主要産業と見なすことができるのは、ガス製造所、電信業、写真業、汽船航運業、および鉄道業である。(一部改訳)

最初の文章はちょっと意味がとりにくいですが、要するに、機械の使用によって、必要な生産物を生産するために必要な労働者数は減少するが、その一方で、生産物(「生産諸手段および生活諸手段」)の量は増えていきます。そうなると、運河建設とかトンネル建設とか、今日風にいえば、大型公共事業を大規模にやることができるようになる、というわけです。こういう大規模事業は、何年にもわたって工事(生産過程)が続き、その間は、生産資材は投入しっぱなしだし、大規模事業に従事する労働者の食い扶持だけでも、かなりの生活資材が必要です。だから、他の産業分野で、それだけの生産物を作り出しておくだけの余裕がないと、こういう大型事業はできませんよ、というのが、ここでマルクスが言っていることです。

で、そういう、いわば時代の最先端事業として、マルクスは、「ガス製造所、電信業、写真業、汽船航運業、鉄道業」を上げているわけです。

まず、ガス事業。平凡社『世界大百科事典』によれば、世界で最初のガス事業会社は、1812年にロンドン・ウェストミンスターで開業しました(「ガス事業」「ガス灯」の項)。この会社は、コークス・ガスでガス灯をつけた会社だそうですが、どうしてそれが事業として成り立ったのかはよく分かりません。(^_^;)

↓英語ですが、ご参考に。
History of manufactured gas – Wikipedia, the free encyclopedia
Gas Light and Coke Company – Wikipedia, the free encyclopedia

2つめの電信業というのは、トン・ツー、トン・ツーで通信するやつですね。『世界大百科事典』によると、モールスが「モールス信号」を考え出したのは1837年で、早くも1845年には、ニューヨーク?ボルティモア間で実用電信が始まったそうです(「電信」の項)。ベルが電話を発明したのは1876年なので、マルクスが『資本論』を書いていた頃には存在しませんでした。

Wikipediaによれば、最初の商業電信は、1837年7月25日にロンドンのユーストン〜カムデン・タウン間でおこなわれたことになっています。
電信 – Wikipedia

3つめは写真。フランスのゲダールがヨウ化銀を使った写真の技術を発表したのが1839年(いわゆるダゲレオタイプ)。1841年には、イギリスのタルボットが、銀板をネガとしてそのネガから感光紙に焼き付けてポジ像を作るネガポジ法を考案。1851年には、やはりイギリスのアーチャーがいわゆる湿板写真法を考案するなど、写真技術の改良が進みました(「写真(カメラ)」の項)。

NOWEST カメラの歴史

最後の鉄道。これは有名な話ですが、はじめて蒸気機関車が客車や貨車を引っ張ったのは、1830年に開業したリバプール・マンチェスター鉄道(「鉄道」「リバプール・マンチェスター鉄道」の項)です。そして、1840年代には鉄道ブームがわき起こって、投機にもなります(鉄道投機の話も、『資本論』に出てきます)。

ということで、なるほど確かに、これらの産業はマルクスが『資本論』を書いていた時代(第1部初版は1867年刊)には、最先端産業だった、ということが分かりました。

ただ疑問なのは、ガス事業、電信、鉄道が「その生産物が遠い将来にしか実を結ばないような産業部門」だというのは分かりますが、なぜ写真業がそれと一緒に取り上げられているのか、どうもよく分かりません。(^_^;)

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