新日本出版社から『日本近現代史を読む』が出版されました。著者は、宮地正人(監修)、大日方純夫、山田朗、山田敬男、吉田裕の各氏。
第1部「近代国家の成立」、第2部「2つの世界大戦の日本」、第3部「第2次世界大戦後の日本と世界」の3部24章構成になっています。
ぱらぱらと読んでみると、まず、見開き2ページが1つの単位になっていて、その単位3つ、ないし4つにコラムがついて1つの章という組み立てになっています。叙述も、全体として、著者の主張を論じるというよりも、事実の叙述を通じて、それぞれの歴史がどんな時代だったのかを浮かび上がらせるスタイルになっています。
見開きには図版やグラフなどが多用され、また、欄外に詳しい注などもあって、読みやすくする工夫も盛り込まれています。
また、明治維新から昨年夏の総選挙での政権交代までが書かれていますが、いわゆる通史的な叙述とは少し趣がちがっています。いわゆる通史の本では、対外関係や国内の政治、社会の動き、あるいは文化などの叙述も、同じような分量で叙述されていますが、本書では、アジアや世界との関係――戦前の場合は、日本の侵略戦争と植民地支配、戦後は日米軍事同盟をめぐる問題――を主軸として、どうしてそういう動きになったのか、そのことを明らかにするために必要な国内外の動きが叙述されています。
侵略戦争と植民地支配の歴史を明らかにするといっても、ただ戦争の経過を追っているだけでなく、なぜ日本がそのような侵略戦争に乗り出していったのか、侵略戦争をすすめるためにどんな国内体制をつくっていったのか、そういう角度から、国内政治の動きを含めて、きっちり描かれています。
今年は、日韓併合100年、あるいは安保条約50年など、日本近現代史の歴史にとって大きな節目を迎えます。NHKのテレビドラマ「坂の上の雲」をめぐる議論もあります。山川出版社の歴史教科書を再編集した『もういちど読む山川日本史』『もういちど読む山川日本史』がそれぞれ6万部売れるなど、あらためて歴史にたいする関心が広がっています。
そういうときだけに、アジアや世界との関係に軸足をおいて、事実に即して、日本の近現代史の歴史を描いた本書が出版されたことは、実にタイミングがいいというか、時代の流れにぴたりはまったといえるのではないでしょうか。
監修にあたった宮地正人氏が書いた「刊行にあたって」では、本書の特徴として、次の点があげられています。
- 時期区分をはっきりさせ、それぞれの時期の特徴を明確にするとともに、次の時期への移行の論理を具体的に示すこと。
- 男女人民の政治的、社会的、文化的な進歩と前進のたたかいを権力・支配階級との対抗のなかでとらえること。
- 一国史的な見方ではなく、世界史との内的関連の中でとらえること。
- 日清戦争以降の日本の植民地支配と侵略の事実を明らかにすること。
- 戦前・戦中の体験、あるいは敗戦直後の悲惨な日常生活の経験が、その親にもまったくない世代に読んでもらえるように、戦前の諸制度や戦争についても、読者が知っていると前提せずに、きちんと説明すること。
全体としては、具体的な事実と資料を示すかたちで通史叙述がおこなわれていますが、同時に、コラム欄では「昭和天皇に戦争責任はあるのか」など、多くの人が近現代史を学ぶときに感じるさまざまな疑問に答える工夫もなされています。
見開き2ページ1単位という作り方や、全24章立てという構成は、学習会などでも非常に使いやすいものになっています。戦前だけ、あるいは戦後のある時期まで、というのではなく、最後は昨年8月の総選挙での政権交代まできちんと視野に入れて、戦後史が叙述されているのも特徴です。
“日本の近現代史について、きちんと勉強したい”と思っているみなさんに、おすすめの1冊です。
【目次】
第1部 近代国家の成立
序章 近代までの流れ
第1章 開国―社会変動の序幕
第2章 明治維新―改革と近代化
第3章 自由民権運動―国家路線の選択
第4章 日清戦争―国際関係の変動
第5章 日露戦争
第6章 植民地支配の始まり
第7章 産業の発達と社会の変動
第2部 2つの世界大戦と日本
第8章 第1次世界大戦とロシア革命の影響
第9章 ワシントン体制と大正デモクラシー
第10章 世界恐慌と軍縮破綻への道
第11章 大陸への膨張と政党政治の衰退
第12章 日中戦争と戦時体制の始まり
第13章 占領地と植民地支配
第14章 第2次世界大戦と日本の武力南進
第15章 開戦後の国内支配体制の強化
第16章 中国戦線の日本軍―日中戦争とアジア・太平洋戦争
第17章 大東亜共栄圏というスローガンの下で
第18章 戦局の転換
第19章 敗戦
第3部 第2次世界大戦後の日本と世界
第20章 戦後改革から占領政策の転換へ
第21章 サンフランシスコ講和会議と日本の戦後処理
第22章 日米安保体制と高度成長
第23章 激動するアジアと世界
第24章 21世紀を展望して―歴史の現段階
【出版社のサイト】
日本近現代史を読む : 新日本出版社
う〜む、それにしても新日本出版社のサイトは、本の紹介があまりにあっさりしすぎているような気が…
【書誌情報】
監修者:宮地正人(みやち・まさと、前国立歴史民族博物館館長)/著者:大日方純夫(おびなた・すみお、早稲田大学教授)、山田朗(やまだ・あきら、明治大学教授)、山田敬男(やまだ・たかお、労働者教育協会会長)、吉田裕(よしだ・ゆたか、一橋大学教授)/出版社:新日本出版社/発行:2010年1月/定価:本体1,800円+税/ISBN978-4-406-05331-0