政党機関紙配布の禁止は憲法違反

社会保険庁の職員が休日に、職場とはぜんぜん違う場所で「しんぶん赤旗」の号外を配ったというだけで逮捕された事件。東京高裁が、こうした事件を有罪として禁止することは「憲法違反」であるとして、全面無罪の判決を下しました。ヽ(^o^)/

日本では、こうしたことが厳しく取り締まられる一方で、自民党政権時代には、省庁の事務次官クラスの幹部が自民党から立候補して、それこそ省庁あげての選挙応援がやられていました。

政党機関紙配布、元社保庁職員に逆転無罪 東京高裁 : 朝日新聞
赤旗配布で逆転無罪判決要旨 東京高裁 : 共同通信

判決の瞬間、傍聴席から拍手が沸き起こると、裁判長は「こんなことで喜んではいけない」とたしなめたそうですが、ほんとにそのとおり。こんなことがいちいち犯罪とされて、逮捕・起訴される方がおかしい。こんなことで喜ばなくてすむような社会でありたいものです。

逆転無罪に法廷どよめく…公務員の政治活動裁判 : 読売新聞

政党機関紙配布、元社保庁職員に逆転無罪 東京高裁

[asahi.com 2010年3月29日10時17分]

 2003年の衆院選前に共産党の機関紙を配ったとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪に問われた元社会保険庁(現日本年金機構)職員・堀越明男被告(56)の控訴審で、東京高裁(中山隆夫裁判長)は29日、罰金10万円、執行猶予2年とした一審・東京地裁判決を破棄して無罪とする判決を言い渡した。
 「国家公務員の政治的行為を制限した国家公務員法の規定は合憲」としながらも、休日に職務と関係なく党機関紙を配った行為に同法を適用して刑事罰を科すのは違憲だと判断した。
 国家公務員が国公法違反の罪で起訴されたのは、社会党(当時)のポスターを掲示・配布した「猿払(さるふつ)事件」で郵便局職員を有罪(一、二審は無罪)とした74年の最高裁大法廷判決から初めてのケースだった。
 06年の一審判決は、猿払事件の最高裁判決を踏襲して、堀越被告の行為を「政治的中立性を損なう恐れがある」と指摘し、国公法は合憲と判断。「公務員の政治的行為が禁止されていることを認識しながら、支持政党の機関紙を配布したことは正当化できない」と指摘した。
 控訴審は07年10月に始まり昨年12月に結審。一審と同様、公務員の政治的活動を禁じた法律の規定が、表現の自由を保障した憲法に違反するかどうかが最大の争点となっていた。

赤旗配布で逆転無罪判決要旨 東京高裁

[2010/03/29 11:51 共同通信]

 共産党機関紙を配ったとして国家公務員法違反罪に問われた元社会保険庁職員堀越明男被告を逆転無罪とした東京高裁の29日の判決要旨は次の通り。

 【概要】
 表現の自由は民主主義国家の政治的基盤を根元から支えるもので、公務員の政治的中立性を損なう恐れのある政治的行為を禁止することは、範囲や方法が合理的で必要やむを得ない程度にとどまる限り、憲法が許容する。規制目的は国民の信頼確保で、判断で最も重要なのは国民の法意識であり、時代や政治、社会の変動によって変容する。
 罰則規定を合憲とした「猿払事件」に対する最高裁大法廷判決当時は国際的に冷戦下にあり、国民も戦前からの意識を引きずり、「官」を「民」より上にとらえていたが、その後大きく変わった。国民は事態を冷静に受け止め、影響については少なくとも公務員の地位や職務権限と結び付けて考えると思われる。勤務時間外の政治的行為の禁止についても、滅私奉公的な勤務が求められていた時代とは異なり、現代では職務とは無関係という評価につながる。
 ただし集団的、組織的な場合は別論である。

 【具体的検討】
 本件は地方出先機関の社会保険事務所に勤務する厚生労働事務官で、職務内容、職務権限は利用者からの年金相談のデータに基づき回答するという裁量の余地のないもので、休日に職場を離れた自宅周辺で公務員であることを明らかにせず、無言で、郵便受けに政党の機関紙などを配布したにとどまる。
 被告の行為を目撃した国民がいたとしても、国家公務員による政治的行為だと認識する可能性はなかった。発行や編集などに比べ、政治的偏向が明らかに認められるものではなく、配布行為が集団的に行われた形跡もなく、被告人単独の判断による単発行為だった。
 このような配布行為を、罰則規定の合憲性を基礎付ける前提となる保護法益との関係でみると、国民は被告の地位や職務権限、単発行為性を冷静に受け止めると考えられるから、行政の中立的運営、それに対する国民の信頼という保護法益が損なわれる抽象的危険性を肯定することは常識的にみて困難だ。行為後、被告が公務員だったことを知っても、国民が行政全体の中立性に疑問を抱くとは考え難い。
 本件配布行為に罰則規定を適用することは、国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え、処罰の対象とするものと言わざるを得ないから、憲法違反との判断を免れず、被告は無罪だ。

 【付言】
 わが国における国家公務員に対する政治的行為の禁止は一部とはいえ、過度に広範に過ぎる部分があり、憲法上問題がある。地方公務員法との整合性にも問題があるほか、禁止されていない政治的行為に規制目的を阻害する可能性が高いと考えられるものがあるなど、政治的行為の禁止は、法体系全体から見た場合、さまざまな矛盾がある。
 時代の進展、経済的、社会的状況の変革の中で、国民の法意識も変容し、表現の自由、言論の自由の重要性に対する認識はより一層深まっており、公務員の政治的行為についても、組織的なものや、ほかの違反行為を伴うものを除けば、表現の自由の発現として、相当程度許容的になってきているように思われる。
 また、さまざまな分野でグローバル化が進む中で、世界標準という視点からもあらためてこの問題は考えられるべきだろう。公務員制度の改革が論議され、他方、公務員に対する争議権付与の問題についても政治上の課題とされている中、公務員の政治的行為も、さまざまな視点から刑事罰の対象とすることの当否、範囲などを含め、再検討され、整理されるべき時代が到来しているように思われる。

逆転無罪に法廷どよめく…公務員の政治活動裁判

[2010年3月29日12時30分 読売新聞]

 マンションで共産党の機関紙を配るなどしたとして、国家公務員法違反(政治活動の禁止)に問われた元社保庁職員、堀越明男被告(56)の逆転無罪の判決の主文が読み上げられた瞬間、東京高裁の法廷内はどよめき、支援者から歓声が上がった。
 堀越被告は午前10時前、黒いスーツに黄色いネクタイ姿で102号法廷に入廷。多くの支援者らが陣取った傍聴席に目をやって会釈をしてから被告人席に座り、緊張をほぐすように大きく息をついた。
 「原判決を破棄する。被告人は無罪」。中山隆夫裁判長が証言台の前に立った堀越被告に告げると、静まりかえっていた傍聴席からは一斉に大きな拍手がわき起こった。中山裁判長は「静かにしなさい。こんなことで喜んではいけない」と静粛を求め、判決理由を読み上げ始めた。被告人席に戻った堀越被告は机の上に手を組み、神妙な面持ちでうつむいて耳を傾けた。

「朝日新聞」(夕刊)の記事によれば、裁判長は、一審判決から3年9ヵ月もかかった判決について、「かなりの期日で審理した結果、最後に付言したような問題意識にいたった」と説明。さらに、「上告審で審理される可能性が高い」として、「本件の罰則について、どのような問題があるのか、学説の状況が同なのか、歴史的に見てどのように成立したのか、最高裁が判断するためにも、かなり綿密に審理をしてきた。そのため、審理に時間がかかったことを理解してほしい」と述べたそうです。それだけ、考えに考え抜いたうえでの判決だということなのでしょう。

堀越さん、本当におめでとうございます。m(_’_)m

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