マルクスとリンカーンの交流

共産主義の生みの親マルクスと、米共和党初の大統領リンカーンとのあいだに実は交流があった、という話が話題になっています。

マルクスからリンカーンへの手紙というのは、1864年にリンカーンが大統領に再選されたときに、国際労働者協会(インタナショナル)がリンカーンに送った「あいさつ」です。マルクスが起草して、11月29日の中央評議会で採択され、ロンドン駐在の米公使を通じてリンカーンに送られました。これは、『マルクス・エンゲルス全集』第16巻に収録されています。

それにたいして、翌1865年1月28日に、リンカーンの指示による返書が中央評議会に届けられました。

この返書は、インタナショナルの議事録(”Documents of THE FIRST INTERNATIONAL” Vol.1, pp.68-69.)に収められていますが、入手困難な文献なので、簡単には読めないなぁ? と思っていたら、インターネット上で、国際労働者協会のあいさつも、リンカーンの返書もどちらもいっしょに公開されているのを見つけました。

Marxs letter to Abraham Lincoln

リンカーンの返書の翻訳は、不破哲三『科学的社会主義における民主主義の探究』(新日本出版社)に紹介されています(同書、15?16ページ)。

合衆国公使
ロンドン、1865年1月28日

 拝啓
 私は指示により、貴協会中央評議会の祝辞が当公使館を通じて合衆国大統領にしかるべく伝達され、大統領によって受け取られたことをお知らせするものです。
 祝辞が表明しているお気持ちは個人にたいするものであり、このお気持ちをうけとった大統領は、米国民および世界中の非常に多くの人道と進歩の味方の人々から近来さしのべられてきた信頼に値いすることを示したいとの、心からの希望をいだいております。
 合衆国政府が明確に自覚しているのは、私たちの政策は反動的ではありえないが、同時に、いかなる場所でも宣伝活動や不法な干渉は差し控えるという、当初から採択した立場に忠実でありつづけるということです。合衆国政府は、すべての国家とすべての人間にたいし平等かつ厳格に公正な対処をするよう努力し、その努力の有益な結果に依拠して国内での支持と世界中の尊敬と行為を求めることです。
 諸国家は自分のためにだけ存在するものではなく、善意ある親交と模範によって人類の福祉と幸福を促進するために存在するものです。まさにこの関係において、合衆国は、奴隷との現在の紛争における自らの大義、〔奴隷制への〕反逆者たちへの支援を、人間性のためのものとみなしているものであり、わが国の態度が開明的な賞賛と熱烈な共感をうけているというヨーロッパの労働者階級の証言を新しい励ましとして、努力をつづけるものです。

敬具
チャールズ・フランシス・アダムズ

この返書は、最後の署名にあるとおり、直接には駐英米公使チャールズ・フランシス・アダムズが国際労働者協会に送った書簡です。しかし、その彼が「指示により」と書いていることから、公使が自分の判断で送ったものではなく、本国の指示で書いたものだということが分かります。さらに、「(国際労働者協会の)祝辞が表明しているお気持ちは個人にたいするものであり」と書いてあるように、この指示は、ほかでもないリンカーンが与えたものだということが分かります。したがって、それ以下の内容も、リンカーン自身がこういう内容の書簡を送れと指示したものだと考えられます。

当時、南北戦争を戦っていたリンカーンは、国際労働者協会からの「あいさつ」を、奴隷解放をめざす合衆国政府のたたかいが「開明的な賞賛と熱烈な共感をうけている」ということを示す「ヨーロッパの労働者階級の証言」だと受け取って、自分にたいする励ましとして大いに喜んだということが分かります。

リンカーンの返書は、1865年1月31日のインタナショナル中央評議会で読み上げられ、2月6日付の『タイムズ』に掲載されました。

ちなみに国立国会図書館には、当時の『タイムズ』が収蔵されているそうです(不破さんの本にもその写真が載っています)。ということは、それを調べてみればリンカーンの返書が読める訳ですが、どなたか挑戦してみませんか? (^_^;)

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