広島のマツダ工場で、男が自動車で11人をはね、1人が死亡するという事件が起きた。
どんな理由であれ、人の命を奪うことは許されない。しかし、本人は、「4月にクビになった」と言っており、マツダでの働かされ方に問題はなかったのか。マツダ側は、3月に期間従業員として6ヶ月の契約で雇用されたが、4月に「一身上の都合」により退職したと説明しているが、大企業ではしばしば会社都合で解雇しておきながら、書類上は「自己都合」退職として片づけることがあるので、マツダ側の説明が正しいとは限らない。工場に配属されて、実際に勤務したのは8日間というが、その8日間にいったい何があったのか。
「クビ恨み」 マツダ工場内暴走11人はねる、1人死亡:朝日新聞
「4月にマツダ工場解雇、恨みがある」:日刊スポーツ
「日刊スポーツ」に載った共同通信の記事によれば、マツダは昨年6月、労働者派遣法の禁止期間をすり抜けるために、派遣労働者を一時的に期間工として直接雇用する違法行為(いわゆる「クーリングオフ」)をおこない、広島労働局から指導されていた。今回の事件の背景に、こうした「派遣切り」や違法雇用がなかったか、徹底した検証が求められる。
「クビ恨み」 マツダ工場内暴走11人はねる、1人死亡
[asahi.com 2010年6月22日]
22日午前7時45分ごろ、広島市南区仁保沖(にほおき)町のマツダ宇品(うじな)工場の敷地内で、車が次々と人をはねたと同社関係者から119番通報があった。救急隊員が駆けつけると男性11人がけがをしており、病院に搬送。このうち同社社員の浜田博志さん(39)が間もなく死亡した。他に1人が意識不明の重体という。
約20分後、「わしがやった。腹が立った。(広島市安芸区の)畑賀(はたか)峠にいるから来い」と男の声で110番通報があり、広島県警の捜査員が付近を捜索したところ、広島県府中町瀬戸ハイム4丁目の町道にサイドミラーなどが壊れた乗用車が止まっているのを発見。車内に包丁(刃渡り約18センチ)があり、運転席にいた広島市安佐南区上安2丁目、自称派遣社員引寺(ひきじ)利明容疑者(42)を殺人未遂と銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕した。
引寺容疑者は「マツダを2カ月前にくびになり、恨みがあった。精神的にむしゃくしゃして人をはねた。殺すつもりでやった」などと話し、容疑を認めているという。
県警によると、引寺容疑者は22日午前7時35分ごろ、宇品工場の東正門前の路上で乗用車で2人をはねたうえ工場敷地内に進入し、さらに9人を次々とはねた疑いが持たれている。被害に遭ったのはいずれもマツダの関係者とみられている。引寺容疑者が運転していたのはマツダ製の青いファミリアだった。
事件後、引寺容疑者はそのまま車で北門から逃走。車内にあった包丁については「工場内で車を止めて、振り回そうと思った」と話しているという。
マツダによると、引寺容疑者は6カ月間の期間従業員として今年3月に採用。4月1日に本社工場に配属されたが、同14日に「一身上の都合」として退職したという。
マツダの本社所在地は広島県府中町で、隣接する広島市南区にも敷地が広がっている。その中にある宇品工場は面積約169万平方メートル。同社の主力工場としてデミオやロードスターなどの主要車種を生産しており、2009年度は約42万台を出荷した。04年末には火災により生産ラインの一部が約4カ月にわたってストップした。◇
マツダの山内孝社長は22日正午すぎ、広島県府中町の本社で記者会見し、「亡くなった浜田さんには心より冥福を申し上げます。負傷した社員10人の一刻も早い回復を願っています」と伏し目がちに話した。負傷者の多くは本社に隣接したマツダ病院で治療を受けている。
黒沢幸治・常務執行役員の説明では、逮捕された引寺利明容疑者は「期間工」として、今年3月25日に6カ月の契約で採用した。4月1日に本社工場(広島市南区など)のプラスチック工場でバンパーの成形職場に配属された。14日に引寺容疑者から「一身上の都合」との文書で退職を告げてきたので、受理した。この間に実際に勤務したのは8日間だったという。
「4月にマツダ工場解雇、恨みがある」
[日刊スポーツ 2010年6月22日11時31分]
「4月にマツダの工場を解雇された。会社に恨みがある」。広島県警によると、広島市のマツダ宇品工場で22日、社員ら11人を車ではね、殺人未遂容疑などで逮捕された派遣社員の男はこう供述した。
マツダは日本を代表する自動車メーカーの1つだが、世界的不況による自動車販売の低迷で、2008年度は国内で14万8000台以上を減産。
派遣社員や期間従業員約2千人が雇い止めや契約終了となり、元派遣社員らが地位確認訴訟を起こすなど、労使関係をめぐるトラブルが相次いでいた。
昨年6月には、マツダが法律上の直接雇用義務が生じる連続3年の派遣期間を超えないよう、派遣社員を期間従業員として一時的に直接雇用し、再び派遣として受け入れる方法を繰り返したとして、広島労働局が労働者派遣法違反容疑で文書指導したことも明らかになった。(共同)