日産自動車が、事務系の派遣社員を段階的に契約社員に切り替えていることが判明した。
実は、同社は、派遣期間の制限のない専門業務と偽って派遣社員を受け入れて仕事をさせていたとして、昨年5月には東京労働局の指導を受けていた。26の専門業務というのはこれで、専門業務ということで派遣しておきながら、実際には電話番、お茶くみ、コピー取りなど一般事務をやらされたという「名ばかり専門業務」が後を絶たなかった。
そこで、今年2月の国会での共産党・志位和夫委員長の質問にあわせて、同2月、厚生労働省が「厳正な対応」を指示していた。
日産:事務系派遣を廃止 直接雇用の「契約」に――10月から:毎日新聞
「名ばかり専門業務」で派遣法違反、3社に改善命令:朝日新聞
期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン):厚生労働省
朝日新聞の記事にあるように、「名ばかり専門業務」での違法派遣ということで、すでに派遣大手は改善命令を受けていた。今回は、「名ばかり専門業務」派遣を受け入れていた側が指導を受けたことになるが、日産の場合は、ほかにも、労働者派遣法で禁止されている「事前面接」 ((労働者派遣は、派遣元企業がちゃんと能力をもった社員を派遣先企業に派遣することになっているから、派遣先企業が派遣されてくる労働者を事前に面接して選考することを禁止している。「かわいい子を派遣して」というのは違法なのである。))を組織的にやっていた可能性があって、企業ぐるみで違法派遣を受け入れていたようだ。
日産:事務系派遣を廃止 直接雇用の「契約」に――10月から
[毎日新聞 2010年8月18日 東京朝刊]
日産自動車(本社・横浜市)が10月から、事務系派遣社員を段階的に直接雇用の契約社員に切り替えることが分かった。東京労働局から労働者派遣法に基づく是正指導を受け、方針転換を迫られたとみられる。130万人にも及ぶ事務系派遣。各地で問題が相次ぎ、秋の臨時国会では派遣法改正案の審議も控える。業界大手の動きは他社にも影響を与えそうだ。
同社広報部などによると、現在日産で勤務している事務系派遣社員は700〜800人。今後は派遣社員の受け入れを中止。契約期間は半年で、更新最長は判例上、雇い止めがしづらくなる3年を超えない2年11カ月の契約で採用する方針だ。既に募集を始めている。
同社は2000年代半ばから派遣社員を増員。08年秋のリーマン・ショックで製造・事務合わせて数千人規模の派遣社員を解雇し、社会問題になった。昨年5月には、派遣期間の制限のない専門業務と偽って派遣社員を受け入れ仕事をさせていたとして、東京労働局から是正指導を受けた。関係者によると、是正指導後、社内では派遣社員への対応が厳しくなっているという。
今回の決定について同社広報部は「法を守っているつもりでも、実際には問題のあるケースもあり、グレーゾーンの解釈が難しい。直接雇用のほうが会社にとっても従業員にとっても良いと判断した」などと説明する。
一方で、日産は現在働いている派遣社員の処遇を明らかにしておらず、「新たな派遣切りや雇い止めにつながるのでは」との不安の声も広がっている。
労働問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「企業はこれまで、責任も義務も伴わない派遣労働者を使ってやりたい放題やってきたが、規制強化の流れの中で、メリットが薄れたのだろう。派遣法改正を機に、同様の動きは増えるだろう」と話している。【市川明代】==============
■ことば◇労働者派遣
厚生労働省が09年度に実施した労働者派遣事業に関する法令違反の是正指導は7364件(前年度比13%増)で、5年間で3倍強に増加した。08年秋のリーマン・ショック以降、製造業派遣は激減し、指導の大半は事務系派遣。期間の制限のない専門業務と偽って契約し、異なる仕事をさせるケースが目立つ。登録型派遣を原則禁止する派遣法改正案が秋の臨時国会で審議されるが、専門業務を対象外としており、さらなる規制強化を求める声も上がっている。
日産:派遣の直接雇用切り替え 事前面談で社員選考か
[毎日新聞 2010年8月18日 2時34分]
事務系派遣社員を直接雇用に切り替えることを決めた日産自動車。毎日新聞は同社の一部職場で使われていた管理職向けの派遣社員対応マニュアルを入手したが、労働者派遣法などに違反する行為が行われていた可能性をうかがわせる記述が並んでいた。
「派遣staffを選択する行為は禁止されています。それらを候補者本人同意のもと、『職場見学』という事に置きかえて『面談』を行っています」
マニュアルは、同法で派遣先(日産)が派遣社員を選考する行為が禁じられていることを説明し、「単にことばの問題ですが『面接』ということばは使用せず、『面談』『打ち合わせ』という表現を使用するようご留意ください」と注意喚起。「受入の可否はGP3(人事担当)へ報告してください」とも記しており、事実上の選考が行われていたことをうかがわせる。
本来は派遣会社が決める賃金についても、「オーダーする業務内容と料金テーブルと照らしあわせ、購買H53(派遣社員を管理する部署)にて決定」などと書いている。実際、同社で事務の仕事をしていた複数の元派遣社員は毎日新聞の取材に、「日産との面接でスキルなどを聞かれた」「派遣会社ではなく日産と賃金交渉した」などと証言する。
同社広報部によると、マニュアルは08年、一部署の人事担当が管理職向けに独自に作った。同社広報部は「外部の人が読めば、採用行為や賃金決定をしているようにとられても仕方ないが、実際には事前面接や賃金決定はしていないはずだ」と説明している。【市川明代】
「名ばかり専門業務」で派遣法違反、3社に改善命令
[asahi.com 2010年3月1日19時0分]
厚生労働省は1日、人材派遣最大手のスタッフサービス(東京都千代田区)など3社に対し、労働者派遣法に基づく事業改善命令を出したと発表した。派遣期間の制限がない「専門26業務」として契約した派遣社員を、実際には一般的な業務に就かせ、原則1年、最長3年の期間制限を超えて働かせていた。
スタッフサービスでは、契約上は専門業務に指定されている「事務用機器操作」でありながら、来客の受け付けや記念品配布などの一般的な業務をさせた違法行為などが、五つの派遣先企業で計6人について見つかった。同社の本原仁志社長は「命令を真摯(しんし)に受け止め、雇用管理に関する取り組みが不十分であったことを率直に反省します」とのコメントを発表した。
ほかに改善命令を受けたのはヒューマンリソシア(同新宿区)とヒューマンステージ(大阪市中央区)の2社。
労働者派遣法の改正作業を進めている厚労省は、「専門業務の存在が期間制限の抜け穴になっている」との批判を受けて、派遣会社への指導・監督を強める方針を2月に示していた。
違法な派遣受け入れを解消するのは当然だが、だからといって、任期半年、最長2年11ヶ月の契約社員(というか、実態は期間社員だ)に切り替えて、2年11ヶ月たったら「はい、サヨナラ」は許されない。日産は、違法派遣受け入れの実態を明らかにするとともに、厚生労働省は、これまで派遣期間が3年以上になっているポストにかんしては、日産を指導して、法律どおりただちに「直接雇用の申し入れ」をおこなわせ、本人の希望に従って正社員にさせるべきだ。
【追記】
NTTコムも、今年7月に、「名ばかり専門業務」で是正指導を受けています。
違法派遣:NTTコムに是正指導――京都労働局
[毎日新聞 2010年7月26日 東京夕刊]
情報通信会社「NTTコミュニケーションズ」(NTTコム)=本社・東京都=が運営する京都市内のデータセンターの管理業務を巡り、派遣期限(最長3年)のない専門業務の派遣を装った「違法派遣」や偽装請負があったとして、京都労働局がNTTコム社や派遣大手パソナの子会社など関係企業6社に是正指導したことが分かった。IT業界では重層的な下請け構造を背景に違法派遣が横行しているとされ、今回の是正指導でその一端が明らかになった。
関係者によると、データセンターには顧客企業のサーバーが多数設置され、数人の派遣労働者が維持管理を担当している。
派遣労働者は主に30代男性で、01年以降、パソナ子会社など派遣会社2社に雇用されている。名目上は「ソフトウエア開発」「OA機器操作」などの専門業務の派遣で、大阪ガスのグループ会社を通じ、データセンターの受付業務を請け負った日本ユニシスのグループ会社に派遣された。
しかし実際の仕事は専門業務ではなく、掃除や電球交換などの雑務を含む一般的業務で、3年を超えて働く違法派遣の状態だった。さらにNTTコム社の社員が直接、派遣労働者に業務の指示をする偽装請負でもあったという。本来の業務請負契約は、請負会社が労働者を指揮して仕事をさせる。偽装請負は使用者責任があいまいになるとして、法律で禁止されている。
京都労働局は昨年5月以降、情報の申告を受けて査に着手。専門業務を装った違法派遣や偽装請負があったと認め、職業安定法や労働者派遣法違反にあたるとして先月中旬、文書で是正指導した。
毎日新聞の取材に対し、NTTコム社など関連する6社はいずれも是正指導を受けた事実を認めた。NTTコム社は「現状は問題がない。再発防止に努めたい」とコメントしている。【日野行介】
NTTコムは是正指導を受けて、問題はなくなったと言っていますが、専門業務を装って3年以上違法に派遣で働かせていたのはどうなったのでしょうか。本来なら3年たてば直接雇用の申し入れ義務が生じる ((ちまたには、これは「申し入れ」の義務であって、直接雇用する義務ではない、といった説明も見受けられるが、それは正しくない。もちろん、申し入れられた派遣労働者の側で断るということはありうるが、労働者派遣法に従えば、かりにほかの派遣労働者やほかの派遣会社に振り替えたとしても、あるポストを派遣業務にしてから3年以上たつと、そのポストを引き続き派遣にやらせることは違法。だから、会社はそのポストに正社員を当てなければならない。その際には、別途正社員を募集・雇用するのではなく、まず現にそのポストで働いている派遣労働者に「引き続き我が社の社員として働いてもらえるだろうか?」と申し入れなければならない、というのが、この「直接雇用申し入れ義務」の趣旨である。その申し入れにたいして、派遣労働者が「ぜひ働きたい」と言えば、雇用しなければならないのは当然である。))のですが、NTTコムは、ちゃんとその申し入れをしたのでしょうか? それなしに、派遣労働者をやめさせただけでは、問題解決とは言えません。