オール・ロシアン・プログラム

都響第702回定期演奏会Bシリーズ(2010年9月24日)

金曜日、こんどは都響の定期演奏会ということで、サントリーホールへ行ってきました。今回は、アレクサンドル・ドミトリエフの指揮による、オール・ロシアン・プログラムです。

  • シチェドリン:管弦楽のための協奏曲第1番 「お茶目なチャストゥーシュカ」
  • ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 ヘ短調 op.10

ロシアン(アルメニアをロシアに含めて良ければ、の話だが)プログラムを貫くテーマは、リズム? と思えるような曲ばかりでした。指揮者のアレクサンドル・ドミトリエフは、実は、こうしたリズム変化の多い曲を楽しんでいたのでしょうか。みるからにロシア人っぽい、いかつい外見とは裏腹に、実に楽しそうに振っておられました。(^_^;)

1曲目のシチェドリンは1932年生まれで、この曲は1963年の作曲。モダン・ジャズふうの作品で、“後打ち”のビートがいっぱい出てくるのですが、生真面目すぎる? 都響の演奏はなかなかスイングしません。う〜む… (^_^;)

2曲目は、作曲者と同じ姓のイケメン・バイオリニスト、セルゲイ・ハチャトゥリアン(ただしラテン文字綴りでは -turyanではなく -tryan)による、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲。やっぱり同じアルメニア出身者だからでしょうか、バタ臭い漢字のするところも出てくるこの曲を熱?く演奏しておりました。

アンコールは、コミタスの「アプリコット・ツリー」。インターネットで調べてみると、コミタスもアルメニアの作曲家(1869-1935)。しかし、会場ではそういうことは分からないまま、ずいぶんと繊細な曲だなぁと思って聴いていました。途中、ハーモニクス?みたいな奏法も用いられる、透明感にあふれた曲です。

3曲目は、ショスタコーヴィチ19歳のときの作品。これまで何度も聞いたことがあるし、何種類もCDを持っていて、ショスタコーヴィチの交響曲の中でも好きな曲の1つです。しかし、ドミトリエフの指揮は、それらとはまったく印象が違って聞こえました。それまでは、のちのショスタコーヴィチの様々な作品のイメージを、この交響曲第1番のなかにも探し出して、ああショスタコーヴィチの作品だと思って聴いていましたが、それにたいして、この日の演奏は、そういうことを抜きにして、19歳の若者が意気込んで初めて作曲した交響曲というか、これからいろいろな方向へ発展する可能性を秘めた作品に聞こえて、非常に新鮮でした。

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ところで、会場で配られていた『月刊都響』9月号に、ロシア音楽研究者の千葉潤氏が「ロシア音楽史の再定義」という、なかなか衝撃的な内容のエッセーを書いておられます。

たとえばチャイコフスキーについては、次のように述べられています。

 しかし、このロマンティックな作曲家像は、むしろ彼の音楽の印象が、それに見合うような伝記的エピソードに投影された結果できあがったものだ。実際の手紙や日記などから浮かび上がるのは、世俗的な成功に一喜一憂し、晩年には国宝的な待遇を享受しながら、人生を堂々と謳歌した人間の姿である。

また、「オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」(1934年初演)を作曲したショスタコーヴィチについても、「プラウダ批判」によって「ショスタコーヴィチの実像が見えにくくなってしまった」として、次のように述べられています。

オペラの原作は19世紀ロシアの作家レスコーフ(1831?95)の短編の小説だが、一読すれば明らかなように、主人公であるカテリーナの性格付けは、小説とオペラとでは正反対である。……原作にはまったく存在しないこの勧善懲悪は、帝政ロシア社会に対する分かりやすい批判と取ることもできるが、うがった見方をすればそれは、1930年代に農村部で猛威を揮ったクラーク(富農)撲滅政策を正当化するものであり、むしろその自発的なキャンペーンなのである。プラウダ批判のおかげで隠蔽されたものの、実際にはかなり体制よりの内容を含む危険な作品だった。

さらに、「状況が違って、ショスタコーヴィチがさらにオペラ創作を続けていたら、彼こそは最も才能豊かなスターリニストに成長していたかもしれない」とも述べられています。もちろん千葉氏は、実際のショスタコーヴィチがそうだったと主張されている訳ではありません。それでも、なかなか衝撃的な指摘です。

さまざまな毀誉褒貶を経てきたショスタコーヴィチですが、ソ連崩壊20年を経て、さらにそのイメージが変わっていくのかも知れません。

【演奏会情報】 東京都交響楽団第702回定期演奏会Bシリーズ
指揮:アレクサンドル・ドミトリエフ/ヴァイオリン:セルゲイ・ハチャトゥリアン/コンサートマスター:四方恭子/会場:サントリーホール/開演:2010年9月24日 午後7時

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