たっぷり堪能 映画「シチリア! シチリア!」

映画「シチリア! シチリア!」プログラム

映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作といえば、映画好きとしては、やっぱり見ずにはいられません。

舞台はイタリア・シチリア。貧しい農民チッコの家にペッピーノが生まれる。小学校のシーンでは、「総統」ムッソリーニが登場するから、時代は1920〜30年代あたり ((ムッソリーニの「ローマ進軍」と政権獲得は1922年。))。貧しさゆえにペッピーノは、チーズと引き替えに羊飼いの手伝いに出され、町に出てその場で牛の乳を搾って売る。やがて第2次世界大戦が始まり ((イタリアの参戦は1940年6月。))、ペッピーノの兄は徴兵され戦場へ。1943年7月にはシチリアに連合軍が上陸する。

第2次世界大戦後、ペッピーノはイタリア共産党に入党する。1946年6月、国民投票でイタリアは王政廃止を決定。シチリアでは大地主制が支配していて、映画では、共産党が農民たちを組織して大地主の未耕作地を実力占拠し、地主と衝突する様子も描かれている。共産党員たちが赤旗に黒い喪章をつけて行進する場面も出てくるが、プログラムによれば、これは1947年に、パレルモ郊外で集会が襲われ、11人が殺害された実際の事件を描いたものだそうだ。

そうした社会的な出来事が太く描かれながら、映画のテーマは、ペッピーノと家族の生き様。マンニーナとの出会い、そして結婚。地主との対立、貧しい町の人々の暮らし、ペッピーノの父の死、ペッピーノの活動を支える母親の思い、などなど。歴史的な出来事と重ね合わされて、人々の生き様、暮らしぶりが描かれてゆきます。

さらにソ連を訪れたペッピーノが、帰国してひどいものを目撃したと漏らす場面も出てくるが、ペッピーノは共産党を辞めないし、映画もこの問題をそれ以上は描こうとはしない。だれも言わなかったが、ソ連が理想の国でなかったことはとうの昔から知っていた、ということなのだろうか。このあたりに、ソ連問題に自分たちで決着をつけないまま、共産主義を放棄して解党してしまったイタリア共産党の姿を重ねて見ていたのは僕ぐらいだろう。

イタリアでは、右には保守政党であるキリスト教民主党があって、戦後ずっと政権を担当してきたが、単独で過半数の議席を獲得したことはなく、つねに連立政権が続いた。左には共産党が勢力を誇り、1970年代には30%を超える得票をかちとった。この2つの党のあいだに、自由党や共和党、社会党などが存在した。イタリアの選挙は、かつては比例代表制で、投票用紙には政党のシンボルマークがかかれていて、有権者は支持する政党のマークに印をつけて投票した(映画でも、そういう投票場面が描かれている) ((ただし、イタリアの政党状況は、1990年代に大きく変化した。ソ連崩壊をうけて、1991年、イタリア共産党が共産主義を放棄して「左翼民主党」となった。また、1992〜94年に国会議員を含む汚職が次々と摘発され、1993年に小選挙区制が導入された(ただし、2005年に比例代表制に復帰)こともあって、従来の政党のほとんどが解散・消滅した。現在は、自由国民党(現在のベルルスコーニ首相の率いるフォルツァ・イタリア、国民同盟が合同)、北部同盟などによる中道右派連合が政権を握り、最大野党は民主党(2007年に左翼民主党と旧キリスト教民主党が合流して結成)、そしてキリスト教民主党のなかで左翼民主党との合同に反対した部分を中心とし、2008年まではベルルスコーニ政権与党だったキリスト教中道民主連合などに分かれている。))。

主人公ペッピーノが少年時代から青年時代に、さらに大人へと移っていく場面転換のシーンが憎らしいほどにうまい。そして、なんだかんだと言って、結局、女性がいなきゃどうにもならないという、イタリアの肝っ玉母さんたち、ペッピーノの母親サリーナ、そしてペッピーノ最愛の妻マンニーナの姿が素晴らしい。映画では、いつも街角に男が立っていて「ドルを買うよ」と売り声を上げているのが、時代が移り変わっても変わらないシチリアの社会を象徴しているようでもある。

上映時間は2時間半。あちこちに笑いがあり、しんみりと感じさせるところもあり、映像はきれいだし、音楽は素晴らしい。ほんとに映画の楽しみをこれでもかというぐらい、たっぷりと堪能させていただきました。m(_’_)m

ジュゼッペ・トルナトーレ監督は1956年生まれ。ペッピーノはジュゼッペの愛称ですが、映画の主人公のペッピーノは監督の父親の世代にあたることになります。原題BAARÌA(バーリア)は、監督の故郷バゲリーアの俗称だそうです。


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2010年12月18日公開 映画『シチリア!シチリア!』公式サイト

【映画情報】
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ/音楽:エンリコ・モリコーネ/出演:フランチェスコ・シャンナ(ペッピーノ)、マルガレット・マデ(マンニーナ)、ニコール・グリマウド(娘時代のサリーナ)、アンヘラ・モリーナ(サリーナ)/イタリア、2009年

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  1. ピンバック: soramove

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