日本共産党の発行する雑誌『議会と自治体』3月号は、2011年度の国家予算案分析の特集。いまや「まぼろしの予算案分析」になりかねない状況だけれど、巻頭2論文が読みごたえあった。
- 藤野保史「総論 自民党と同じ道をすすみ、深刻なゆきづまりに直面する予算案」
- 金子邦彦「地方財政 11年度地方財政計画の特徴と課題」
藤野論文は、それだけでもう答えが分かってしまいそうなタイトルになっているが、読んでみると意外とおもしろかった。
藤野氏は「国民の暮らしの現状を踏まえつつ、来年度予算案の問題点を分析していきます」と書いているが、この「国民の暮らし」の現状分析のところが、ポイントを突いていて、しかもなるほどと納得させるものがあって、非常によかった。
とくに、興味深かったのは、2000年代初頭の「景気の谷」いらいの3年間の先進国の景気回復のようすを国際比較したこの図↓。
これは、『経済財政白書』2010年度版の第2章第1節の19図なのだが、なんグラフかといえば、「景気の谷」 ((論文では、この「景気の谷」が米リーマン・ショックによるもののように書かれているが、これは著者の誤解だろう。図の備考にもあるように、このグラフの「景気の谷」は2001年〜2003年のことである。))から1年目、2年目、3年目について、営業余剰および雇用者報酬のそれぞれが名目GDPの変化にどれだけ寄与したかという寄与度を示したもの。
これをみると、景気回復の3年間で、雇用者報酬の寄与度がずっとマイナスにとどまっているのは日本しかない、ということが分かる。ドイツのように、1年目はほぼゼロ、2年目はマイナスという国でも3年目はプラスになっている。また、アメリカが典型的だが、雇用者報酬の回復が企業業績の回復を先導したところもある(デンマーク、フィンランドも同じ。イタリアもここに含まれるかも知れない)。フランスやカナダなどは、企業業績と雇用者報酬が手を取り合って伸びたように読める。
ところが、日本は、企業業績(営業余剰)は大きく回復しているのにたいして、雇用者報酬はずっとマイナスのまま。ここに、日本経済の異常さが集中的に表わされているといってもおかしくないだろう。企業は、業績を回復して、営業余剰(内部留保)をしっかりため込んでいるにもかかわらず、それがちっとも国民のふところには回ってこず、国民の暮らしは厳しくなるばかりということだ。だから、政府の白書でさえ、「国際比較でも我が国の雇用者報酬の回復は遅延」と指摘せざるをえなかった。
ここを打開しなければ、日本経済が、世界の資本主義諸国並みに景気回復を遂げることは不可能であることは明らか。
だから、藤野論文が指摘するように、1年前に共産党の志位和夫委員長が国会で鳩山首相(当時)に内部留保の活用・還流を迫ったときには、メディアがいっせいに「内部留保は取り崩せない」「取り崩すべきではない」と否定したのに、1年たってみると、「内部留保をめぐる論調は大きく変化」している。
『日経ビジネス』2010年10月11日号
企業がかかえる現預金について「死蔵された203兆円」と批判。「203兆円は経営者の不作為の証明」「目先の黒字を重視する企業行動は、将来の成長を犠牲にしかねない」と警告。
『日経ヴェリタス』2010年10月17日号
特集「企業に眠る200兆円」を1面トップで組み、「眠っている203兆円が動き出したら、そのインパクトは計り知れない。経済活性化の起爆剤になるのか、成長の足かせで終わるのか。巨額のキャッシュを生かすも殺すも企業次第だ」と指摘。
ところが、――ここから先が予算分析になるのだが――、民主党・菅政権がやったことは何かといえば、法人税5%減税であり、その財源として、給与所得控除、退職所得課税、成年扶養控除、相続税など個人への増税だ。先ほど、『経済財政白書』のグラフから明らかになったのとは、まったく逆方向へ、これまで自民・公明政権がやってきたのとまったく同じ方向へさらに突き進もうとしている。
こうやって分析してみると、「自民党と同じ道をすすみ、深刻なゆきづまりに直面する」というのは決めつけでもなんでもなく、なるほど実際そのとおりだとわかるのではないだろうか。政治の混迷が続いているときだけに、国民経済という大きな視点からの、こういう骨太な議論が大事だと思う。
『経済財政白書』2010年版はこちら↓。当該図は、第2章第1節の3に出ている。
平成22年度 年次経済財政報告書:内閣府
さて、もう1つの金子論文は、2011年度の地方財政計画を分析したもの。地方自治体の予算審議にあたる議員さんを対象にした、その意味では「プロ向け」の論文ともいえるが、政府予算だけでなく地方財政を含めた全体が国家財政なのだから、民主党政権の実態(本性?)をしっかりつかむためには、地方財政計画をふくめた分析が重要になってくる。その意味では、民主党政権論を論じるうえでは必読の論文といえる。
で、2011年度の地方財政計画の特徴はというと、社会保障関連経費の「自然増」を中心に地方自治体の行政経費が増大するにもかかわらず、それに見合った財源保障がまったくされておらず、したがって、金子氏は、「民主党政権の『地域主権改革』は、財源保障の面からみても、『住民福祉の増進を図る』ものでも、地方自治を拡充するものでもない」と指摘する。
同時に、金子論文は、新年度の地方財政がどうなるかについては、07年以降の地方財源保障の「手直し」と一体にとらえることの重要性を強調している。それら「手直し」のなかで、地域活性化の各種交付金や地方交付税の「上乗せ」措置がとられていて、「全体としては、住民の切実な要求を実現する条件が広がっている」からだ。しばしばいわれるように「要求はもっともだが、財源がない」のではなく、「財源はある」。そこを具体的に示しながら、切実な住民要求に必要な予算措置をとらせることが大事になっている、というわけだ。
「ここ1、2年はともかく、その先の保障がない」という懸念にたいしても、金子論文は、「住民と地域にとって大義ある切実な要求」であれば、それを実現するのが「自治体の本来の仕事」なのであり、「財源のあるいまこそ実現し、将来にわたって守り、拡充していく」という姿勢こそが大事だと指摘している。地域の要求運動を考えるときにも、非常に大事な指摘だと思う。
『議会と自治体』は日本共産党中央委員会が発行している月刊誌。定価760円(税込み)で、一般書店でも取り寄せ可能。
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