巨大地震による原発事故にかんする吉井英勝議員の質問趣意書(3)

巨大地震にともなう原発事故の問題にかんする共産党・吉井英勝衆議院議員(比例・近畿ブロック)の質問の第3弾です。

こんどは、やはり2006年12月に、吉井議員が提出した質問趣意書(「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」)と、それにたいする安倍晋三内閣総理大臣の答弁書。

巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書

その全文は、インターネットで見てもらうとして、ここでは、質問と答弁とを組み合わせて、吉井議員が何を質問して、それにたいして、当時の安倍晋三自民党・公明党内閣がどう答えていたのかをわかりやすく再構成しました。

吉井議員の質問は、大きくは3つの柱からなっています。第1は、大規模地震時の原発のバックアップ電源について。第2は、沸騰遷移と核燃料棒の安全性について。第3は、データ偽造、虚偽報告の続出について。

まずは、第1の「大規模地震時の原発のバックアップ電源について」から。

質問1
 原発からの高圧送電鉄塔が倒壊すると、原発の負荷電力ゼロになって原子炉停止(スクラムがかかる)だけでなく、停止した原発の機器冷却系を作動させるための外部電源が得られなくなるのではないか。
 そういう場合でも、外部電源が得られるようにする複数のルートが用意されている原発はあるのか。あれば実例を示されたい。
 また、実際に日本で、高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例があると思うが、その実例と原因を明らかにされたい。

回答1
 我が国の実用発電用原子炉に係る原子炉施設(以下「原子炉施設」という。)の外部電源系は、2回線以上の送電線により電力系統に接続された設計となっている。また、重要度の特に高い安全機能を有する構築物、系統及び機器がその機能を達成するために電源を必要とする場合においては、外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計となっているため、外部電源から電力の供給を受けられなくなった場合でも、非常用所内電源からの電力により、停止した原子炉の冷却が可能である。
 また、送電鉄塔が1基倒壊した場合においても外部電源から電力の供給を受けられる原子炉施設の例としては、北海道電力株式会社泊発電所1号炉等が挙げられる。
 お尋ねの「高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例」の意味するところが必ずしも明らかではないが、原子炉施設に接続している送電鉄塔が倒壊した事故としては、平成17年4月1日に石川県羽咋市において、北陸電力株式会社志賀原子力発電所等に接続している能登幹線の送電鉄塔の1基が、地滑りにより倒壊した例がある。

質問2
 落雷によっても高圧送電線事故はよく起こっていると思われるが、その結果、原子炉緊急停止になった実例を示されたい。

回答2
 落雷による送電線の事故により原子炉が緊急停止した実例のうち最近のものを挙げれば、平成15年12月19日に、日本原子力発電株式会社敦賀発電所1号炉の原子炉が自動停止した事例がある。

質問3
 外部電源が取れなくても、内部電源、即ち自家発電機であるディーゼル発電機と無停電電源であるバッテリー(蓄電器)が働けば、機器冷却系の作動は可能になると考えられる。
 逆に考えると、大規模地震でスクラムがかかった原子炉の核燃料棒の崩壊熱を除去するためには、機器冷却系電源を確保できることが、原発にとって絶対に必要である。しかし、現実には、自家発電機(ディーゼル発電機)の事故で原子炉が停止するなど、バックアップ機能が働かない原発事故があったのではないか。過去においてどのような事例があるか示されたい。

回答3
 我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない。

質問4
 スウェーデンのフォルクスマルク原発1号(沸騰水型原発BWRで出力100.8万kw、運転開始1981年7月7日)の事故例を見ると、バックアップ電源が4系列あるなかで2系列で事故があったのではないか。
 しかも、このバックアップ電源は1系列にディーゼル発電機とバッテリーが1組にして設けられているが、事故のあった2系列では、ディーゼル発電機とバッテリーの両方とも機能しなくなったのではないか。

回答4
 スウェーデンのフォルスマルク発電所1号炉においては、平成18年7月25日13時19分(現地時間)ころに、保守作業中の誤操作により発電機が送電線から切り離され、電力を供給できなくなった後、他の外部電源に切り替えられなかった上、バッテリーの保護装置が誤設定により作動したことから、当該保護装置に接続する4台の非常用ディーゼル発電機のうち2台が自動起動しなかったものと承知している。

質問5
 日本の原発の約6割はバックアップ電源が2系列ではないのか。仮に、フォルクスマルク原発1号事故と同じように、2系列で事故が発生すると、機器冷却系の電源が全く取れなくなるのではないか。

回答5
 我が国において運転中の55の原子炉施設のうち、非常用ディーゼル発電機を2台有するものは33であるが、我が国の原子炉施設においては、外部電源に接続される回線、非常用ディーゼル発電機及び蓄電池がそれぞれ複数設けられている。
 また、我が国の原子炉施設は、フォルスマルク発電所1号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所1号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない。

質問6
 大規模地震によって原発が停止した場合、崩壊熱除去のために機器冷却系が働かなくてはならない。津波の引き波で水位が下がるけれども一応冷却水が得られる水位は確保できたとしても、地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故で外部電源が得られない状態が生まれ、内部電源もフォルクスマルク原発のようにディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなった時、機器冷却系は働かないことになる。
 この場合、原子炉はどういうことになっていくか。原子力安全委員会では、こうした場合の安全性について、日本の総ての原発1つ1つについて検討を行ってきているか。
 また原子力・安全保安院では、こうした問題について、1つ1つの原発についてどういう調査を行ってきているか。調査内容を示されたい。

回答6
 地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については、原子炉の設置又は変更の許可の申請ごとに、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)等に基づき経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

質問7
 停止した後の原発では崩壊熱を除去出来なかったら、核燃料棒は焼損(バーン・アウト)するのではないのか。その場合の原発事故がどのような規模の事故になるのかについて、どういう評価を行っているか。

回答7
 経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

質問8
 原発事故時の緊急連絡網の故障という単純事故さえ2年間放置されていたというのが実情である。ディーゼル発電機の冷却水配管の減肉・破損が発生して発電機が焼きつく事故なども発生した例が幾つも報告されている。1つ1つは単純な事故や点検不十分などのミスであったとしても、原発の安全が保障されないという現実が存在しているのではないか。

回答8
 原子炉施設の安全を図る上で重要な設備については、法令に基づく審査、検査等を厳正に行っているところであり、こうした取組を通じ、今後とも原子力の安全確保に万全を期してまいりたい。

質問7と回答7にみられるように、核燃料棒のバーンアウトはまったく想定しない、というのが経済産業省(とそのもとにある原子力安全・保安院)の立場なのです。「そういうことが起こらないようにするから、そういうことは起こらない」という論理(?)です。

質問6にたいする回答6は、なにやらむずかしそうに書いてありますが、要するに、「安全設計審査指針」にもとづいて審査しているから大丈夫、ということ。外部電源、内部電源ともに失われたときに、日本の原発それぞれがどんな状態になるか(一口に原発といっても、それぞれ型式が違う)という問題は具体的にはまったく検討されていないということです。

次の第2の「沸騰遷移と核燃料棒の安全性について」。

質問1
 原発運転中に、膜沸騰状態に覆われて高温下での冷却不十分となると、核燃料棒の焼損(バーン・アウト)が起こる。焼損が発生した場合に、放射能汚染の規模がどのようなものになるのかをどう評価しているか。原子炉内に閉じ込めることができた場合、大気中に放出された場合、さらに原子炉破壊に至る規模の事故になった場合まで、それぞれの事故の規模ごとに、放射能汚染の規模や内容がどうなるかを示されたい。

回答1
 経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

「沸騰遷移」とか「膜沸騰状態」とか、専門的で僕にもよくわかりませんが、Wikipedia 沸騰曲線 によれば、核沸騰というのが、いわゆるお湯のなかからポコポコと泡が湧き出している状態。それがやがて「膜沸騰状態」に移るのですが、その移行状態が「沸騰遷移」と呼ばれる状態で、そのとき、そのとき熱流束が低下する、そのために冷却不足が起きるということのようです。

いずれにしても、経済産業省の答えは、「冷却不十分な事態にならないようにしている」というだけ。

質問2
 経済産業省と原発メーカは、コストダウンの発想で、原発の中での沸騰遷移(Post Boiling Traditional)を認めても「核燃料は壊れないだろう」としているが、この場合の安全性の証明は実験によって確認されているのか。
 事業者が沸騰遷移を許容する設置許可申請を提出した場合には、これまで国は、閉じ込め機能が満足されなければならないとして、沸騰遷移が生じない原子炉であることを条件にしてきたが、新しい原発の建設に当たっては沸騰遷移を認めるという立場を取るのか。

回答2
 原子炉内の燃料の沸騰遷移の安全性に係る評価については、平成18年5月19日に原子力安全委員会原子力安全基準・指針専門部会が、各種の実験結果等を踏まえ、「沸騰遷移後燃料健全性評価分科会報告書」(以下「報告書」という。)を取りまとめ、原子力安全委員会が同年6月29日にこれを了承している。
 また、一時的な沸騰遷移の発生を許容する原子炉の設置許可の申請については、報告書を含む原子力安全委員会の各種指針類等に基づき審査し、安全性を確認することとしている。

質問3
 アメリカのNRC(原子力規制委員会)では、TRACコードでキチンと評価して沸騰遷移(PBT)は認めていないとされているが、実際のアメリカの扱いはどういう状況か、またアメリカで認められているのか、それとも認められないのか。
 またヨーロッパなど各国は、どのように扱っているか。

回答3
 政府として、諸外国における原子炉内の燃料の沸騰遷移に係る取扱いについて必ずしも詳細には把握していないが、報告書においては、米国原子力規制委員会(NRC)による改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の安全評価書の中で一定の条件下の沸騰遷移においては燃料棒の健全性が保たれるとされている旨が記載されており、また、ドイツでは電力会社等により沸騰遷移を許容するための判断基準についての技術提案が行われている旨が記載されている。

質問4
 東通原発1、2号機(着工準備中、改良型沸騰水型軽水炉ABWR、電気出力138.5万kw)については、「重要電源開発地点の指定に関する規程」(2005年2月18日、経産省告示第31号)に基づいて、06年9月13日に経済産業大臣から指定され、9月29日に原子炉規制法第23条に基づいて東通原発1号機の原子炉設置許可申請が国に出された。この中では、沸騰遷移が想定されているのではないのか。

回答4
 東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉の設置許可の申請書においては、報告書に記載された沸騰遷移後の燃料健全性の判断基準に照らし、一時的な沸騰遷移の発生を許容する設計となっていると承知している。

質問5
 ABWRでは、浜岡5号機や志賀2号機などタービン翼の破損事故が頻発している。ABWRの東通原発が、沸騰遷移を認めて作られた場合に、核燃料が壊れて放射性物質が放出される事態になる可能性は全くないと実証されたのか。安全性を証明した実証実験があればその実例も併せて示されたい。
 また、どんな懸念される問題もないというのが政府の見解か。

回答5
 東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉施設の安全性については、報告書を含む各種指針類等に基づき審査しているところである。

第3の「データ偽造、虚偽報告の続出について」は省略しますが、要するに、経済産業省(原子力安全・保安院)の立場は、「原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期している」から、電源がだめになって冷却できなくなるとか「沸騰遷移」で冷却できなくなるといった具体的な問題で、炉心にどのような影響が起こるかという「評価」はおこなっていない、というものです。

万が一、地震と津波で、外部電源がだめになり、さらにバックアップ電源もだめになって、炉心の冷却ができなくなったらどうするか? という当然の疑問や不安にたいして、日本政府、経済産業省、原子力安全・保安院などは、「安全の確保に万全を期している」から、そういうことは想定しない、という態度をとり続けてきたのです。

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巨大地震による原発事故にかんする吉井英勝議員の質問趣意書(3)」への2件のフィードバック

  1. 2006年から国会で討論されて、その危険性を知りながら放置してきた自民党政権、経済産業省、原子力安全・保安院及び東京電力
    経営者の責任は重い。技術立国、日本の存在を世界に泥を塗って
    評価を落とした責任は重い。関係者議員はバッジをはずし、経営者は全資産を投じて被災者に与え且つ詫びることである。
    それが最低限の義務であろう。  

  2. ピンバック: 大きな国で

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