福島原発の事故について、政府が、国際的な事故評価尺度(INES)でレベル7に該当すると発表した。
新聞などでは「チェルノブイリ級」という見出しが踊っているが、もちろん、福島原発事故の現状がチェルノブイリ原発事故と同じかそれ以上の深刻な被害を与える事態になっているという意味ではない。
福島原発事故、最悪「レベル7」 チェルノブイリ級に:朝日新聞
福島事故 最悪のレベル7:東京新聞
INESの定義では、レベル7は次のようになっている。
大規模な施設(例えば、発電炉の炉心)における放射性物質の大部分の外部への放出。ヨウ素131換算で数万テラベクレル以上に相当する量の短・長寿命核種を含む核分裂生成物の放出であり、広い範囲(外国を含む)での急性あるいは晩発性の健康影響や長期にわたる環境影響をもたらす可能性のある場合。
で、遅ればせながら、事故発生以来のヨウ素131の放出量を推計したところ、37万テラベクレル(原子力安全・保安院)あるいは63万テラベクレル(原子力安全委員会)となって、この「数万テラベクレル以上」の水準を大きく超えていることが判明したために、レベル7に相当することを認めざるをえなかった、というわけだ。
チェルノブイリ原発の場合は520万テラベクレルと言われており、福島原発事故がただちに「チェルノブイリ級」になる訳ではない。
問題は、陸上についていえば、主要に放射性物質が放出されたのは3月15日の朝から夜にかけてだと考えられているにもかかわらず、なぜ、その評価が1カ月近くたつまで遅れたのかということにある。さらに、東京新聞の記事で指摘されているように、危機管理ということでいえば、まず最悪の事態を想定し、安全が確認されるにつれて徐々に危険度のレベルを下げていくというのが当たり前のはず。にもかかわらず、最初は「ただちに健康に影響はない」と言っておきながら、1カ月近くたってから「レベル7」だったと言われても、われわれは面食らってしまうだけだ。
ともかく、これによって、事態が非常に深刻であることが明らかになった。政府は、11日には、半径20km圏外についても、一部地域について「計画的避難」の方針を明らかにしている。もはや数日の一時的、臨時的な避難ではすまない。政府は、本格的に周辺住民を他地域に避難させ、そこで少なくとも数年間仕事もして、生活もできるような体制をつくらなければならないだろう。
福島原発事故、最悪「レベル7」 チェルノブイリ級に
[asahi.com 2011年4月12日12時39分]
福島第一原発の事故について、経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会は、これまでに放出された放射性物質が大量かつ広範にわたるとして、国際的な事故評価尺度(INES)で「深刻な事故」とされるレベル7に引き上げた。原子力史上最悪の1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故に匹敵する。放射性物質の外部への放出量は1けた小さいという。12日午前に発表した。
保安院は3月11日の事故直後、暫定評価でレベル4としていた。放射性物質が原子力施設外に放出されるような事故はレベル4になり、それ以上は、外部に放出された放射性物質の量でレベルが決まってくる。
18日に79年の米スリーマイル島原発事故に匹敵するレベル5に引き上げた。レベル5は放射性ヨウ素に換算して数百?数千テラベクレル(テラは1兆倍)の放出が基準だ。その後、放出された放射性物質の総量を推定したところ、放射性ヨウ素換算で37万〜63万テラベクレルになった。INESの評価のレベル7にあたる数万テラベクレル以上に相当した。東京電力によると、全放射能量の1%程度にあたるという。福島第一原発では今でも外部への放出は続いている。
チェルノブイリ事故では爆発と火災が長引き、放射性物質が広範囲に広がり世界的な汚染につながった。実際の放出量は520万テラベクレルとされている。福島第一原発の事故での放出量はその1割程度だが重大な外部放出と評価した。評価結果は国際原子力機関(IAEA)に報告した。
福島第一原発では、原子炉格納容器の圧力を逃がすため放射性物質を含む水蒸気を大気中に放出した。さらに地震後に冷却水が失われ核燃料が露出して生じたとみられる水素によって、1、3号機では原子炉建屋が爆発して壊れた。
2号機の格納容器につながる圧力抑制室付近でも爆発が起こったほか、4号機の使用済み燃料貯蔵プールでの火災などが原因で放射性物質が大量に放出されたと見られている。内閣府の広瀬研吉参与(原子力安全委担当)は「3月15?16日に2号機の爆発で相当量の放出があった。現段階は少なくなっていると思う」と話した。
東京電力原子力・立地本部の松本純一本部長代理は会見で「放出は現在も完全に止まっておらず、放出量がチェルノブイリに迫ったり超えたりする懸念もあると考えている」と話した。
ただ、原発周辺や敷地の放射線量の測定結果は3月15?21日に非常に高い値を示していたものの、その後低下している。4月10日に非公開で開かれた安全委の臨時会で保安院の黒木慎一審議官は「最悪の事態は今は脱した」と報告している。(香取啓介、竹石涼子、小堀龍之)
福島事故 最悪のレベル7
[東京新聞 2011年4月12日 13時36分]
東京電力福島第一原発の事故で、経済産業省原子力安全・保安院は12日、1〜3号機から大気中に大量の放射性物質が放出されたとして、原発事故の深刻さを示す国際評価尺度(INES)でレベル5としていた暫定評価を、最も深刻なレベル7に引き上げると発表した。
福島第一原発の事故は、原子炉が溶融後に爆発し大気中に大量の放射性物質が放出された旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)と並び、世界で2例目の最悪の原子力事故となった。
国内の原子力関係施設の事故ではこれまで、レベル4の東海村臨界事故(99年)が最悪の評価だった。レベル5は、原子炉圧力容器の底に燃料が溶け落ちた米スリーマイル島原発事故(79年)と同レベル。
保安院と国の原子力安全委員会は12日、記者会見し、引き上げの根拠を「(1〜3号機から)大気中に放出された放射性物質の総量」と説明した。
事故後の環境測定データや原子炉の損傷状況などを基に、放射性ヨウ素131とセシウム137の放出量を推計。ヨウ素131に換算して保安院は37万テラベクレル(1テラベクレルは1兆ベクレル)、安全委は63万テラベクレルとし、チェルノブイリ事故の総放出量520万テラベクレルの「1割前後」とした。
INESでは、外部放出量が数万テラベクレル以上の場合、レベル7とされている。安全委の班目(まだらめ)春樹委員長は11日に、1時間当たり1万テラベクレルの放射性物質が「数時間」放出されたとの見解を示した。現在は1時間当たり1テラベクレル以下になったとしている。
保安院は当初、1号機について「外部への大きなリスクを伴わない」レベル4とした。しかし、3月18日に1?3号機の状況を、数百?数千テラベクレル相当の放射性物質の外部放出があったスリーマイル島事故と同じレベル5と暫定評価し直していた。
今回のレベル7への引き上げも暫定評価で、最終的な評価は、事故の原因究明と再発防止策がなされた後、専門家によるINES評価小委員会で行う。■「不確か」と判定に1カ月
福島第一原発事故の国際評価尺度(INES)が最悪のレベル7とされた。大気中に放出された放射性物質の大半は3月15日までに出ている。原子力安全委員会は同23日に推定値を公表し、ヨウ素131の総量はレベル7級の3万〜11万テラベクレルとしていたが、判定に至るまでに一カ月以上を要した。
放射性物質の拡散を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「スピーディ(SPEEDI)」は当初から稼働したが、政府は「データが不確か」として3月23日に一度公開しただけ。結果はヨウ素の総量が最大11万テラベクレルという高い値だったが、INESはレベル5にとどめた。
安全委は「観測ポイントが3カ所しかなかった」と、信頼性が不十分だったと説明。観測ポイントを33カ所に増強し「確からしさが増した」として、レベル7に引き上げた。
チェルノブイリ原発事故に詳しい古川路明名古屋大名誉教授は「放射性物質の測定が十分ではなかった。放射線測定は積み重ねが大切。3月20日ぐらいまでもっとちゃんと測るべきだったが、そういう努力が全然なかった」とデータ集めの体制が弱かったことが、判断を遅らせた可能性を指摘する。
11日には政府から計画的避難地域が新たに公表された。だがスピーディでは、飛散した放射性物質のほとんどが事故後の数日間に出されたと推測。海外の研究所などからは、事故から1週間程度で「レベル7に相当する可能性がある」との指摘が出ていた。
京都大原子炉実験所の小出裕章助教は「防災はまず最悪から考え、徐々に解除していくのが原則。政府は安全安心を言いたいがため都合のいいデータだけ出して過小評価しようとした」と政府の姿勢を厳しく批判する。
原子力安全委員会が発表した、ヨウ素131とセシウム137の放出送料の推定についてはこちら↓。122KBのPDFファイルが開きます。
福島第一原子力発電所から大気中への放射性核種(ヨウ素131、セシウム137)の放出総量の推定的試算値について(2011.04.12)
原子力安全・保安院の発表はこちら。
東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)の適用について(METI/経済産業省)
ところで、昨日(11日)午後、半径20km圏外についても「計画的避難区域」をもうけ、1カ月を目処に住民を計画的に避難させる方針を政府は明らかにした。
20キロ圏外にも避難区域、飯舘など5市町村
[2011年4月11日16時14分 読売新聞]
枝野官房長官は11日の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所から半径20キロ・メートル圏外の5市町村について、新たに「計画的避難区域」に設定して避難対象にすると発表した。この地域に住み続けると、放射線量の積算線量が1年間で20ミリ・シーベルトに達する可能性があり、健康被害を予防する措置をとったものだ。
計画的避難区域に設定されるのは、福島県葛尾村、浪江町、飯舘村の全域と、川俣町と南相馬市の一部(いずれも20キロ圏内を除く)。5市町村全体の人口は約11万5000人。関係自治体の理解を得られ次第、菅首相が原子力災害対策特別措置法に基づき区域設定を正式に指示し、住民に約1か月以内をめどに避難するよう求める。
政府は事故後、半径20キロ以内の地域に避難を指示。20〜30キロ圏内には屋内退避を指示し、自主的避難を呼びかけている。屋内退避区域のうち、計画的避難区域に該当しない区域については、緊急時に屋内退避や圏外避難ができる準備を常に求める「緊急時避難準備区域」に設定する。具体的には福島県広野町、楢葉町、川内村の全域と、田村市と南相馬市の一部(いずれも20キロ圏内を除く)が該当する。
その「勧告」をとりまとめた原子力安全委員会の議事録が公表されている。
これを読むと、浪江町のある地点で、3月12日から4月5日までの積算(木造家屋の屋内退避による低減効果を考慮済み)で30ミリシーベルトを超えている ((ただし、この地点は3月24日以降しか放射線量の測定はおこなわれておらず、それ以前は別の地点の測定値と同じ変化率だったものとして推定した値。))。
これについて、会議では、「主として15日の朝から夜にかけて、福島第一発電所で様々な事象が発生した。よく知られている事象としては2号機の圧力抑制室損傷の疑い、それに先立つ炉心の水位低下といった事象がありますが、敷地内の測定値等を見ても、この時期に相当量の放射能が放出されたと考えられる。その際に放出された放射性プルームが北西方向に到達していた時点で降雨があったということが、現在問題にしている地域において地表に放射性物質の相当な沈着を生じたのではないか。それがその後のこの地域での空間線量率が比較的高い値で留まっていることの主要な原因であろう」(速記録7ページ、久木田委員の発言)と説明されている。
つまり、主要に問題になる放射性物質は15日の朝から夜にかけて放出されていたのだが、ほとんどの地点の測定は、最も早い浪江町、飯舘村、川内村の4箇所が16日、あとは17日以降というありさまで、要するに、15日にどれだけの放射性物質が放出されて、各地点にどれだけ到達していたかは、ほとんど観測されていない。
原発事故はもちろん合ってはならないことだが、日本は、原発事故が起きたときの放射線を調べる観測体制もないままに、これまで原発を動かしてきたということが分かるだろう。原発「安全神話」は、こういうところにもはっきりと現われているのだ。