いま話題の、京都大学工学部原子工学科卒、日本共産党衆議院議員の吉井英勝さんの最新著『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』(新日本出版社)です。
昨年10月に発行された本ですが、実は、吉井さんがこれまであちこちの雑誌などに書かれた論文集かと思って、こんどの原発事故が起こるまで手にとってみることもしていませんでした。しかし、読んでみたら、全然違っていて、吉井さんが長年暖めていた構想にしたがって全編書き下ろされたもの。原発の危険性だけでなく、地球温暖化対策のエネルギー政策を地域経済の再生と結びつけて、どう具体化していくかが、一つ一つ分かりやすく解き明かされていて、一気に読んでしまいました。
くり返しますが、本書は昨年10月に書かれたもの(上の写真の帯は最新のですが)。ところが、本書を読んでいると、原発事故が起きたあとの現在にそのまま重なる話ばかりでした。たとえば、「はじめに」ではすでに原発トラブルによる電力不足のことが書かれています。東京電力がたびたびくり返してきた事故隠しの問題や、電力会社、原発メーカー、官僚などの「利益共同体」の話も出てきます。核廃棄物の最終処理の問題、廃炉の難しさなども明らかにされていて、つくづく今度の事故が「想定外の津波」でたまたま起こったなんていうものでないことを思い知らされました。
だから、本書を読んでいると、3月以降に起こったことは、なんだか、この本をタネ本にした出来の悪いパロディのように思えるほど。
本の中には、こんな写真が載っていました。9年前に、福島第2原発で事故を起こした制御棒駆動機構を実地に調査する吉井英勝議員です(右側)。こんなところまで入り込んで、現場を調査する国会議員が他にいるでしょうか。
事故が起こると、原発に実際に出かけていって、現場を確かめる。書類のうえだけで安全審査をしている役人さんとは大違いですが、吉井議員の国会質問は、こうした徹底した実地調査のうえに生まれていたのです。あらためて吉井さんが原発問題を国会で取り上げ続けてきたことの値打ちを感じました。
原発事故を収束させたあと、どうやって原発依存のエネルギー政策から抜け出したらいいんだろう? と思い悩んでいるみなさんにぜひお薦めしたい一冊です。
【目次】
はじめに
第1章 環境・原発・エネルギー・地域経済再生――バラバラの問題ではない
第2章 エネルギー政策を考える――自給率の問題から
第3章 原発依存は危なすぎる
第4章 環境・安全優先を基本とする自立したエネルギーへ――温暖化対策、地域経済再生に向けて
あとがき
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吉井英勝『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』:新日本出版社
【書誌情報】
著者:吉井英勝(よしい・ひでかつ)/書名:原発抜き・地域再生の温暖化対策へ/出版社:新日本出版社/発行:2010年10月/定価:本体1,600円+税/ISBN978-4-406-05392-1