経済産業省の原子力安全・保安院が、全国の原子力施設の近くに設置しているオフサイトセンターの移転を計画しているというニュース。
オフサイトセンターというのは、事故が起こったときの対策拠点となる施設。福島第一原発付近にあるオフサイトセンターは、5kmしか離れてなかったので、退避命令が出て使えなくなった。浜岡原発のオフサイトセンターは、わずか2.5kmの地点。過酷事故が起これば、やはりここも機能しなくなるだろう。そう考えれば、確かにセンターの立地については再検討が必要かもしれない。
しかし、見直すというなら、現在10km内という原発周辺住民の避難計画から始めるのが当然の順序だろう。その見直しも決まらないうちから、まず自分のところの事務所の移転計画を検討するのは、話が違ってやしませんか?
原発:対策拠点、移転へ…「8割、立地見直し」保安院方針:毎日新聞
原発:対策拠点、移転へ…「8割、立地見直し」保安院方針
[毎日新聞 2011年6月4日 2時37分]
原子力安全・保安院は、東京電力福島第1原発事故などを受け、全国に20カ所ある経済産業省所管のオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)について立地場所や構造を抜本的に見直す方針を固めた。見直しにより、約8割のセンターが移転などを迫られる可能性がある。
センターは、災害時に国と地方自治体、関係機関が集まり、情報を共有し対策を協議する拠点となる。しかし、福島第一原発ではセンターは原子炉から約5キロしか離れておらず、事故4日後に退避命令が出て閉鎖された。
東日本大震災では、東北電力女川原発のオフサイトセンター(宮城県女川町)も被災した。ここは原子炉から約8キロ離れているが、海岸からは最短で約400メートルしかなく、津波で全壊した。
このため、保安院は現在「原子力事業所から20キロ未満」などとしている立地要件の変更を検討。現行のEPZ(防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲)が「原子炉から10キロ」のため、少なくとも10キロ以遠に置くことになる見通しだ。全国20カ所のセンターのうち10キロ以上離れているのは、佐賀県唐津市のオフサイトセンターなど数カ所にとどまるという。
また、海岸からの距離についても、女川町のケースを踏まえて検討。さらに、施設の密閉性向上や換気設備に放射能の除去フィルターを加えるなどの建物構造の見直しも検討課題となっている。
保安院の原子力防災課は「国がEPZを拡大すれば、センターの立地条件もそれに合わせて改めなければならない。移転しなければならないセンターはもっと増える可能性がある」としている。【入江直樹】
前に、このブログに書いた(「日本の原発災害マニュアルはなぜ8〜10km圏の避難しか想定していなかったのか」)けれど、現在の原発災害の避難計画は、最大で半径10km以内となっている。それは、いろんな想定を置いて考えられているのだが、そのなかには、放射性物質の放出は最大で24時間という前提条件もある。つまり、現在の原発防災計画は、無風の晴れた日(しかも昼間)に、何の爆発もなく、ポワンと放射性物質が環境中に放出されたという想定で、そういう場合なら避難は周辺10km以内でいいという話なのだ。
地震や台風、集中豪雨で事故が起こったらどうするのか? 強い風が吹いていたらどうするのか? ((そのために、風向きなどを考慮して、放射性物質の拡散を予測するのがSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)だったのだが、それが肝心の福島原発事故で機能しなかったのはご承知の通り。)) 日本海側などでは、豪雪の場合どうなるのか? そしてなにより、放射性物質が24時間以上連続して放出され続けたらどうするのか? 再検討すべき課題は山のようにある。しかし、そうした問題の再検討は、まだ何も着手されていない。
それにもかかわらず、経済産業省の役人が考えたことといえば、まずオフサイトセンターを原発からより遠くへ離して、自分たちの身の安全を図ること、あるいは、新しいオフサイトセンターの建設計画を作って予算を確保すること。ほんとうに官僚というのは度し難い。