「メルトダウン」(炉心溶融)が最悪の事態だと思っていたら、上には上(下には下?)がありました。核燃料は、溶けて圧力容器の底にたまっているのでなくて、圧力容器から外に漏れ出して格納容器内にたまっているのだそうだ。
ところで、政府がIAEAに提出する報告書の内容。東京新聞が要旨を掲載している。
要旨だから不正確かも知れないが、最低でも1つウソがある。「放射性物質の放出に備え原子力災害対策本部長の首相が避難と屋内退避を指示」とある。なるほど原子力緊急事態宣言そのものは3月11日午後4時36分に発令されているが、官房長官が記者会見して3km以内の住民の避難と3〜10kmの住民の屋内退避の指示を発表したのは同日午後7時44分 ((内閣府のホームページ記載の時刻。毎日新聞がインターネットで第一報を掲載したのは同午後8時9分。))。この時点では、すでに放射性物質は外部に漏出していた。
にもかかわらず、記者会見で官房長官がしゃべったのは、「これから申し上げることは予防的措置」「現在のところ、放射性物質による施設の外部への影響は確認されていない」「直ちに特別な行動を起こす必要はない」「あわてて避難を始める必要はない」「原子炉そのものに今問題があるわけではない」というものだった。
先日、保安院が発表した解析では、すでにこの頃にはメルトダウンを起こしており、午後8時頃には圧力容器が破損していた。つまり、この時点で「放射性物質の放出に備え」て避難や退避指示を出していたこと自体が間違っていたのであって、本来ならば、「放射性物質が漏出した可能性があるので」避難や屋内退避を指示すべきだったのだ。
核燃料、圧力容器貫通の可能性…政府が報告へ
[2011年6月7日14時30分 読売新聞]
東京電力福島第一原子力発電所の事故について、政府が国際原子力機関(IAEA)に提出する報告書の全容が7日明らかになった。
報告書は、破損した1〜3号機の原子炉圧力容器の底部から溶融した核燃料が漏れ出し、格納容器内に堆積している可能性を指摘した。
格納容器まで溶けた核燃料が落下する現象は「メルトスルー」(原子炉貫通)と呼ばれ、「メルトダウン」(炉心溶融)を上回る最悪の事象。これまで圧力容器底部で、制御棒の貫通部などが破損し、高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏出したことは明らかになっていたが、政府が公式にメルトスルーの可能性を認めたのは初めて。
また報告書は、原子力安全規制の行政組織が縦割りで、国民の安全を確保する責任が不明確だったと認め、原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会なども含めて、体制を抜本的に見直す方針なども打ち出した。
それにしても、この報告書要旨の「事故の教訓」を平たく言い直してみると、「電源設備が地震や津波に備えていなかった」「配電盤が冠水して使えなくなった」「予備の電池はすぐ切れた」「使用済み燃料プールのことは考えてなかった」「複数炉で同時に事故が発生して混乱した」「原子炉建屋の汚染水がタービン建屋に及ぶとは思ってなかった」「水素爆発なんて考えてなかった」「格納容器のベントシステムが電源が落ちて使えなかった」「放射性物質除去の能力が不足した」「中央制御室や緊急事態対策所があんなに放射線量が高くなるとは思ってもいなかった」「停電で空調や通信、照明などが使えなくなったときのことは考えていなかった」「実効的な訓練をやってなかった」「地震や津波のときは、周辺も被害を受けることを考えていなかった」などなど、子どもの言い訳みたいなものばかり。
要するに、過酷事故が起こるということを考えていなかった、ということにつきる。ということは、なんで過酷事故が起こるということを考えなかったのか、ということを考えないと、予備電源車を配備したり、それこそ堤防をかさ上げしたり、配管のつなぎ目を多少厳重にふさいだり、管理棟を取り囲む鉛を多少分厚くしたりするだけで終わってしまいかねない。
また、「安全上重要な設備や機器に地震による大きな損壊は確認されていない」と書かれているが、すでにこのブログでも紹介したように、津波がくる以前に、冷却系の配管が漏れていた可能性が指摘されている。すべてを津波のせいにするのは性急すぎる。
原発事故報告書要旨
[東京新聞 2011年6月7日 21時57分]
政府の原発事故報告書の要旨は次の通り。
【はじめに】
福島の原子力事故は、日本にとって大きな試練。世界の原発の安全性に懸念をもたらしたことを重く受け止め、反省している。世界の人々に放射性物質放出について不安を与えたことを心からおわびする。事故の教訓を世界に伝えることも日本の責任である。
【地震と津波の被害】
3月11日の地震は観測史上最大のマグニチュード(M)9。福島第1原発で外部電源がすべて停止、津波は14?15メートル。
【事故の発生と進展】
運転中の同原発1〜3号機は地震で自動停止。津波で冷却系が機能を失った。1〜3号機で原子炉圧力容器への注水ができない事態が続き、核燃料は水面から露出。炉心溶融に至り、一部は圧力容器下部にたまり、一部は圧力容器に開いた穴から外側の格納容器に落下して堆積する「メルトスルー(溶融貫通)」が起きている可能性も。燃料被覆管が過熱し大量の水素が発生。燃料から圧力容器、原子炉格納容器へ放射性物質を放出。
格納容器圧力が上昇して破損するのを防ぐため蒸気を大気中に逃がすベントを実施。1、3号機で水素爆発が発生して原子炉建屋を破壊。大量の放射性物質を放出した。4号機でも水素が原因とみられる爆発。2号機圧力抑制プール付近でも爆発音。水素爆発の可能性。【災害への対応】
放射性物質の放出に備え原子力災害対策本部長の首相が避難と屋内退避を指示。緊急時対策支援システムと緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は機能せず。放射線監視装置はほとんど使用不能。
汚染水の海洋放出について近隣諸国を含め通報が十分でなかったことを反省。国際評価尺度(INES)暫定評価レベル5から7への引き上げに1カ月が経過。迅速、的確な対応が必要だった。【事故の教訓】
自然災害を契機にしていること、複数の原子炉の事故が同時に起きたことなどスリーマイルアイランド原発事故、チェルノブイリ原発事故と異なる点が多い。電気、通信、交通が壊滅した状況で原発作業や防災活動を行わざるを得なかった。
▽過酷事故防止策
地震で外部電源に被害。現在まで、安全上重要な設備や機器に地震による大きな損壊は確認されていないが、さらに調査が必要。津波に対し、発生頻度や高さの想定が不十分だった。
地震や津波に備えた電源の多様性がなく、配電盤などが冠水に耐えられず、電池の寿命も短かった。使用済み燃料プールのリスクは炉心に比べて小さいとして、代替注水などを考慮しなかった。
複数炉で同時に事故が発生し、設備を共用したり距離が近かったりしたため、事故が隣の原子炉に影響を及ぼした。燃料プールが高い位置にあり対応が困難だった。原子炉建屋の汚染水がタービン建屋に及んだ。▽過酷事故対応策
連続した水素爆発が事故をより重大にした。水素が漏れて爆発する事態を想定していなかった。
格納容器のベントシステムの操作性に問題があった。放射性物質の除去機能が不十分。中央制御室や緊急事態対策所の放射線遮蔽、空調や通信、照明の強化などが必要。
個人線量計が津波で水没し、適切な放射線管理が困難になった。空気中の放射性物質の濃度測定も遅れ、内部被ばくのリスクが増大した。
実効的な訓練が不十分。自衛隊、警察、消防との連携に時間を要したが、的確な訓練によって防止できた可能性がある。
周辺でも地震、津波の被害が発生し、機材やレスキュー部隊の動員を迅速かつ十分に行えなかった。機材の集中管理や同部隊の整備を進める。▽原子力災害対応
大規模な自然災害と原子力事故が同時に発生した場合に備え、通信連絡や物資調達の体制・環境を整備する。
現在、緊急時の環境モニタリングは自治体の役割だが、国が責任を持つ体制を構築する。
事故当初、政府と東電の意思疎通が不十分。原子力災害対策本部などの責任や、役割分担の見直しと明確化を進める。
住民や自治体に適切なタイミングで情報提供できないことがあった。放射線や放射性物質の分かりやすい説明も不十分。▽安全確保の基盤強化
安全規制行政は、事故に俊敏に対応する上で問題があった。原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会や各省も含めて体制の見直しを検討する。
原子力安全や防災にかかる法体系や指針を見直す。高経年化対策の在り方を再評価。既存施設に対する新法令や新知見の位置付けを明確にする。【むすび】
原子力安全対策の根本的な見直しが不可避。原子力発電の安全確保を含めた現実のコストを明らかにし、原子力発電の在り方について国民的な議論が必要。事故収束に向け多大な困難を覚悟しているが、世界の英知と努力を結集して、必ずこの事故を乗り越えることができると確信している。(共同)
【追記】
もう少し詳しい報告書要旨(「28の教訓」とされる部分)が「毎日新聞」に出ていました。
東日本大震災:福島第1原発事故 IAEAに提出した政府報告書の28の教訓(要旨):毎日新聞
東日本大震災:福島第1原発事故 IAEAに提出した政府報告書の28の教訓(要旨)
[毎日新聞 2011年6月8日 東京朝刊]
東京電力福島原子力発電所の事故は、原子力安全に対する国民の信頼を揺るがし、原子力に携わるものの過信を戒めるものとなった。今回の事故から徹底的に教訓をくみ取り、この教訓を踏まえて、我が国の原子力安全対策の根本的な見直しが不可避である。
(1)地震・津波への対策の強化
今回の地震は複数震源の連動による極めて大規模なものだった。地震で外部電源に被害がもたらされた。原子炉施設の安全上重要な設備や機器は現在まで地震による大きな損壊は確認されていないが、詳細はまだ不明で、さらなる調査が必要だ。津波は設計または評価の想定を大幅に超える規模だった。津波で海水ポンプなどの損傷がもたらされ、非常用電源の確保や原子炉冷却機能の確保ができなくなる要因となった。手順書では、津波の浸入は想定されていなかった。津波の発生頻度や規模の想定が不十分で、対応が十分でなかった。地震の想定は複数震源の連動を考慮し、外部電源の耐震性を強化する。津波のリスクを認識し、安全機能を維持できる対策を講じる。
(2)電源の確保
事故の大きな要因は必要な電源が確保されなかったこと。多様な非常用電源の整備、電源車の配備など電源の多様化を図り、緊急時の厳しい状況でも長時間にわたって現場で電源を確保できるようにする。
(3)原子炉及び格納容器の冷却機能の確保
海水ポンプの機能喪失によって最終の熱の逃がし場を失い、注水や原子炉の減圧に手間取った。代替注水機能や水源の多様化などにより、確実な代替冷却機能を確保する。
(4)使用済み核燃料プールの冷却機能の確保
核燃料プールの大事故のリスクは小さいと考えられていた。電源喪失時も冷却を維持できる代替冷却機能を導入し、確実な冷却を確保する。
(5)アクシデントマネジメント(過酷事故へ拡大させない対策)の徹底
アクシデントマネジメントは事業者の自主的取り組みとされ、整備内容に厳格性を欠いていた。国の指針も92年の策定以来、見直されていない。事業者による自主保安の取り組みを改め、法規制上の要求にする。
(6)複数炉立地における課題への対応
複数炉に同時に事故が起き、事故対応に必要な資源が分散したり、炉の間隔が小さかったため、隣接炉の緊急時対応に影響を及ぼした。一つの発電所に炉が複数ある場合、各炉の操作を独立してできるようにし、影響が隣接炉に及ばないようにする。
(7)原発施設の配置の基本設計上の考慮
使用済み核燃料プールが原子炉建屋の高い位置にあったため事故対応が困難になり、汚染水がタービン建屋に及ぶなど汚染水が拡大した。今後は冷却を確実に実施でき、事故の影響の拡大を防ぐ配置を進める。
(8)重要機器施設の水密性(水の浸入防止)の確保
海水ポンプ施設、非常用発電機など多くの重要機器施設が津波で冠水した。設計の想定を超える津波や洪水に襲われた場合も、水密扉の設置などで水密性を確保する。
(9)水素爆発防止対策の強化
1号機の最初の爆発から有効な手だてをとれないまま、連続爆発が発生した。原子炉建屋に水素が漏えいして爆発する事態を想定していなかった。発生した水素を的確に逃がすか減らすため、格納容器の健全性を維持する対策に加え、水素を外に逃がす設備を整備する。
(10)格納容器ベントシステムの強化
格納容器の圧力を下げるために弁を開くベントの操作性に問題があった。放射性物質除去機能も十分ではなく、効果的にベントを活用できなかった。今後、操作性の向上などを図る。
(11)事故対応環境の強化
中央制御室や原発緊急時対策所の放射線量が高くなり、運転員が入れなくなるなどして事故対応に支障が出た。放射線遮蔽(しゃへい)の強化など、活動が継続できる環境を強化する。
(12)事故時の放射線被ばくの管理体制の強化
多くの個人線量計などが海水につかって使用できず、適切な放射線管理が困難になった。空気中の放射性物質の濃度測定も遅れ、内部被ばくのリスクを拡大させた。事故時の防護用資材を十分に備え、被ばく測定を迅速にできるようにする。
(13)シビアアクシデント(過酷事故)対応の訓練の強化
過酷事故の実効的な訓練が十分されていなかった。発電所と政府の原子力災害対策本部、自衛隊、警察などとの連携確立に時間を要した。事故収束の対応、住民の安全確保に必要な人材参集などを円滑に進めるため訓練を強化する。
(14)原子炉及び格納容器などの計装系(測定計器類)の強化
原子炉と格納容器の計装系が過酷事故の下で十分働かず、炉の水位や圧力、放射性物質の放出量など重要情報が確保できなかった。過酷事故発生時も十分機能する計装系を強化する。
(15)緊急対応用資機材の集中管理とレスキュー部隊の整備
事故当初は原発周辺でも地震・津波の被害が発生し、レスキュー部隊が現場で十分機能しなかった。過酷な環境下でも円滑に支援できるよう資機材の集中管理や部隊の整備を進める。
(16)大規模な自然災害と原子力事故との複合事態への対応
事故が長期化する事態を想定、事故や被災対応に関する各種分野の人員の実効的な動員計画を策定する。
(17)環境モニタリングの強化
緊急時の環境モニタリングは地方自治体の役割としているが、事故当初は機器や設備が地震と津波の損害を受け、適切にできなかった。緊急時は国が責任をもって実施する。
(18)中央と現地の関係機関の役割の明確化
当初は政府と東電、東電本店と原子力発電所、政府内部の役割分担の責任と権限が不明確だった。責任関係や役割分担を見直し、明確化する。
(19)事故に関するコミュニケーションの強化
事故当初の情報提供はリスクを十分示さず、不安を与えた。周辺住民への事故の状況や対応、放射線影響の説明を強化する。事故の進行中は今後のリスクも含めて示す。
(20)各国からの支援への対応や国際社会への情報提供の強化
各国の支援申し出を国内のニーズに結びつける政府の体制が整っておらず情報提供も不十分だった。情報共有体制を強化する。
(21)放射性物質放出の影響の的確な把握・予測
緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の計算結果は当初段階から公開すべきだった。今後は、事故時の放出源情報が確実に得られる計測設備を強化し、効果的な活用計画を立て、当初から公開する。
(22)原子力災害時の広域避難や放射線防護基準の明確化
避難や屋内退避は迅速に行われたが、退避期間は長期化した。事故で設定した防護区域の範囲も防護対策を充実すべき範囲を上回った。このため、原子力災害時の避難の範囲や防護基準の指針を明確化する。
(23)安全規制行政体制の強化
原子力安全確保に関係する行政組織が分かれていることで責任の所在が不明確で俊敏性にも問題があった。原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会や各省も含め規制行政や環境モニタリングの体制を見直す。
(24)法体系や基準・指針類の整備・強化
既存施設の高経年化対策のあり方を再評価し、法体系や基準の見直しを進める。IAEAの基準・指針の強化にも最大限貢献する。
(25)原子力安全や原子力防災に関わる人材の確保
今回のような事故では、過酷事故への対応や放射線医療などの専門家が結集し取り組むことが必要。教育機関や事業者、規制機関で人材育成活動を強化する。
(26)安全系の独立性と多様性の確保
これまで(安全確保のシステムである)安全系の多重性は追求されてきたが、独立性や多様性を強化する。
(27)リスク管理における確率論的安全評価手法(PSA)の効果的利用
原発のリスク低減の取り組みを体系的に検討するうえで、(リスク発生の確率を評価する)PSAは効果的に活用されてこなかった。PSAを積極的に活用し、効果的な安全向上策を構築する。
(28)安全文化の徹底
原子力安全に携わる者が専門的知識の学習を怠らず、安全確保上の弱点はないか、安全性向上の余地はないかの吟味を重ねる姿勢を持つことで、安全文化を徹底する。
ざっと読んだだけですが、たとえば13項で「シビアアクシデント(過酷事故)対応の訓練の強化」が上げられているが、そもそも原子力安全委員会の定めた原発防災マニュアルは過酷事故を想定していない。だから、「過酷事故対応の訓練が十分されていなかった」というのは明らかに間違いで、「過酷事故対応の訓練はなされていなかった」が正しい。
そもそも5項で指摘されているように、「アクシデントマネジメント(過酷事故へ拡大させない対策)」を「事業者の自主的取り組み」に任せていたことが間違い。「法規上の要求にする」と書かれているが、「法規上の要求」にしても事業者がまじめにやらなければ話は同じで、独立した原子力規制機関自身が「アクシデントマネジメント」を実施できなければならない。
22項「避難や屋内退避は迅速に行われた」は、明らかに間違いだろう。避難の過程で、病院に置き去りにされて高齢者がなくなるという信じられない事態も起こったのに、どうして「迅速に行なわれた」と言えるのか? 信じられない。それに、19項では、「周辺住民への自己の状況や対応、放射線影響の説明」が不十分だったと言っているのに、なぜ「避難や屋内退避が迅速だった」と言えるのかもわからない。
この報告書については、「毎日新聞」の社説でも、「分析が不十分な点もある」として「国民に判断材料を示せ」と主張している。そのなかでは、「情報提供の不備により国民はどれほど被ばくなどの不利益を被ったのか」という問題も提起されているが、これはこれからのことにもつながる大事な論点だ。
社説:原発事故検証 国民に判断材料を示せ
[毎日新聞 2011年6月8日 2時30分]
国際原子力機関(IAEA)の会合に向け、日本政府がまとめた福島第1原発事故の報告書が公表された。事故の経緯を述べた上で28項目の「教訓」が列挙されている。
その多くが、専門家やメディアが指摘してきたものの、政府が公式に認めていなかった内容だ。
たとえば、今回のように炉心溶融に至るシビアアクシデント(過酷事故)を想定した対策は、電力会社の自主的取り組みに任されてきた。事故対策の指針は20年近く見直されず、訓練も不十分だった。
事故の確率的なリスク評価も多数実施していたのに活用してこなかった。事故後の放射線モニタリングも、情報提供も不十分だった。放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」も有効に使われなかった。
政府自身がこうした問題を自ら認め、対策強化をうたった点では、報告書は検証に向けた一歩とみていいだろう。ただ、分析が不十分な点もある。
たとえば、初動が遅れた原因は何か。そこからどういう教訓が引き出せるのか。情報提供の不備により国民はどれほど被ばくなどの不利益を被ったのか。
原子力安全・保安院の経済産業省からの独立は当然だが、原子力安全委員会などがどのように役割を果たしたのかも、今後の安全規制体制を考える上で重要だろう。
そもそも、今回の報告書はあくまで政府による暫定的なものだ。その内容は、独立した第三者機関である「事故調査・検証委員会」によって検証されるべきものである。
事故調の初会合では、菅直人首相が「政府がこういう方向でお願いするということは一切言わない。求められたものはすべて出す」と述べている。
事故調は、政府の報告書もひとつの材料とした上で、予断を持たず、完全に独立した検証を公開の場で進めることが大切だ。政府はこれに、100%協力すべきだ。
事故調の畑村洋太郎委員長が「原子力はエネルギー密度が非常に高く危険であり、安全とされてきたことは間違いだと思う」と述べたことにも注目したい。
事故調は、こうした原発の根本に立ち返る厳しい見方を持って、検証作業を進めてほしい。
今回の事故の検証は福島第1原発だけの問題ではない。日本の原発全体、ひいては世界の原発の安全にもかかわる。
日本はこれから、原発政策をどうしていくかの国民的な議論を進めなくてはならない。事故検証はその議論の土台ともなるものであり、事故調は公正な判断材料をしっかり示してほしい。