日本経済新聞6月17日付「大機小機」が、ふたたび東電問題を取り上げている。
福島第1原子力発電所の事故の被害額は最終的に10兆円規模に達するとみられているとしたうえで、コラム子は、こう述べている。
もしこの賠償費用をすべて負債として認識すれば、東京電力は債務超過になるはずだ。今回の事故は「異常に巨大な天災地変」によるものであり東電は免責されるとの議論もあるが、同じく震災被害にあった東北電力女川原発に事故は起きていない。防災対策の不備は明らかで、東電が責任を免れることは考えがたい。
では、どうするか。コラム子は、会社更生法の適用申請が「最も簡明な方法」だと指摘する。
一般的に、債務超過だが事業維持に社会的価値が認められる企業の破綻処理として最も簡明な方法は、会社更生法の適用申請である。仮に東電について会社更生法が適用されれば、株主、債権者が損失を負担するとともに、経営者も退陣することで明確に責任が問われることになる。
企業を破綻させて、被害補償がうまくいくのか、という問題にたいして、コラム子は、「会社更生法の下で十分な補償がなされなければ、国が責任を引き継ぐのが原子力損害補償法の趣旨に沿った対応である」と述べる。つまり、まず「免責ありき」ではなく、企業として最大限の努力をして、なおかつ破綻処理という事態になって、どうしても補償できないという事態になったとき、初めて原子力損害補償法が適用されるべきだというのだ。「個々の原発の安全点検までしてきた国が、東電とともに補償責任を負うのは当然である」。
それにたいして、政府がつくった「賠償支援スキーム」では、東電の株主や銀行などの債権者が保護されるため、賠償費用は、直接電気代の値上げがなかったとしても、結局は、長期にわたって事実上の国民負担として回収される。それは、株主、債権者が保護された分、当然、破綻処理をして国が損害賠償の責任を引き継いだ場合よりも、国民負担は大きくなる。
問題は、なぜ破綻処理を避けるのか、ということにある。僕も前に指摘したとおり、東京電力を破綻処理させるからといって、関東地方で明日から電気が使えなくなるわけではない。発電や送電、配電の設備は、そっくり新会社に引き継がれるのだから、電力にかんしては何の問題もない。株主も債権者も、「もうかる」と思ったから東電の株を買い、融資をしたのだ。投資である以上、損害は自己負担するのが資本主義の当然のルールというものだ。なぜ破綻処理を避けるのか――問題はそこにつきるだろう。
【大機小機】
東電問題への対応
[日本経済新聞 2011年6月17日付]
福島第1原子力発電所の事故は収束のメドが依然立たず、被害額は最終的に10兆円規模に達するともみられている。もしこの賠償費用をすべて負債として認識すれば、東京電力は債務超過になるはずだ。今回の事故は「異常に巨大な天災地変」によるものであり東電は免責されるとの議論もあるが、同じく震災被害にあった東北電力女川原発に事故は起きていない。防災対策の不備は明らかで、東電が責任を免れることは考え難い。
一般的に、債務超過だが事業維持に社会的価値が認められる企業の破綻処理として最も簡明な方法は、会社更生法の適用申請である。仮に東電について会社更生法が適用されれば、株主、債権者が損失を負担するとともに、経営者も退陣することで明確に責任が問われることになる。
一方で事故被害者への補償が十分になされなくなると危惧する向きもあるが、会社更生法の下で十分な補償がなされなければ、国が責任を引き継ぐのが原子力損害賠償法の趣旨に沿った対応である。国策として原発を推進し、個々の原発の安全点検までしてきた国が、東電とともに補償責任を負うのは当然である。また会社更生法の適用は金融市場の大きな動揺を招くとの懸念も聞かれるが、市場でも既に相当程度、東電の法的処理の可能性が意識されている。
これに対し、政府が策定した「賠償支援スキーム」の下では、東電の株主や債権者は保護される一方、賠償費用は結局、電力料金に転嫁され、事実上の国民負担として長い時間をかけて回収される。回収すべき金額は、東電の精いっぱいの合理化を織り込んでも、株主・債権者が保護されるため、更生法により処理される場合より大きくなる。
しかも、賠償費用を賄うための負担金を払い続ける間、東電は国の管理下に置かれ、設備投資や研究開発、社員の処遇に至るまで厳しく抑圧される。このように技術開発力や人材を集める魅力を欠く企業が、国の中枢である首都圏の電力供給を担う事態は、日本全体にとってベストの対応と言えるだろうか。
会社更生法を適用すれば、法的処理後も残存する賠償費用は基本的に国の負担に帰する一方、首都圏の電力は、その重荷から解放された「新東電」が担う仕組みとすることができる。簡明かつ合理的な法的処理をなぜ採用しないのか、政府にはより明確な説明が求められよう。(誠児)
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