牛肉からセシウム検出

福島県南相馬市の牛肉から、1kg500ベクレルの基準値を上回る放射性セシウムが検出されました。

福島の畜産家のみなさんにはショックでしょうが、たくさんの放射性物質が放出され、それが地面に降り積もったわけですから、牧草などを通じて牛の体内に取り込まれることは、ある意味、事故当初から予想できたことです。スイスでは、チェルノブイリ原発事故のとき、汚染された州の家畜には汚染されていない干し草を食べさせ、その間に汚染されなかった州に移送して、家畜を保護したそうです。

全11頭から規制値超える放射性物質検出 福島県産牛肉:日本経済新聞
南相馬の肉用牛、他の10頭からもセシウム検出 都発表:朝日新聞
セシウム検出の福島牛・農家から「6頭」が市場に流通:Bloomberg.co.jp

放射性ヨウ素は半減期8日間なので、3月12日、15日の爆発後、外部に放出されていないのであれば、放射線量は1万分の1以上に減少しているはずです。しかし、放射性セシウムは半減期が30年。つまり、1000分の1のレベルに下がるのに300年かかる計算になります。だから、除染作業をしなければ、これからも同じように家畜から放射性物質が検出される可能性は十分ある、ということです。

また、食物や水を通じて体内に取り込まれているわけですから、体表調査では検出されず、と殺処理したあとの肉になったときに検出されるという可能性も十分あります。

政府は、これまで詳細な汚染調査をしてきませんでした。その結果、これからいろいろな形で食品の放射能汚染が検出される可能性があります。いますぐ詳細な汚染調査をおこなって、放射能汚染の被害がどこにどれだけ広がっているか、まずそれを明らかにしなければ、出荷規制だけでは根本的な対策にはなりません。

全11頭から規制値超える放射性物質検出 福島県産牛肉

[日本経済新聞 2011/7/9 13:57]

 福島県南相馬市の緊急時避難準備区域内から東京都中央卸売市場に出荷された肉牛から暫定規制値を超える放射性物質が検出された問題で都は9日、残り10頭の肉からも食品衛生法の暫定規制値の1キログラムあたり500ベクレルを上回る同1530〜3200ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。肉はいずれも市場内に保管されており、流通していない。
 福島県は計画的避難区域などから出荷される食肉用の家畜全頭を対象に表面の放射線量の検査を実施していたが、この検査をすり抜けたことになる。「検査していたのに放射性物質が検出されたことに驚いている」とし、出荷対応を検討している。
 都は8日、南相馬市の緊急時避難準備区域内から出荷された肉牛1頭の肉から暫定規制値を超える放射性セシウムを検出したと発表。残りの10頭も検査していた。

南相馬の肉用牛、他の10頭からもセシウム検出 都発表

[asahi.com 2011年7月9日13時20分]

 福島県南相馬市内の畜産家が出荷した牛1頭の肉から、国の基準(1キログラムあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが東京都の検査でみつかった問題で、検査を続けていた残りの10頭すべてで基準値を超える放射性セシウムが検出されたと9日、都が発表した。市場には流通していない。
 都によると、最も高い肉で1キログラム当たり3200ベクレル、最も低くても1530ベクレルが検出された。11頭はすべて、福島第一原発事故の緊急時避難準備区域内にある畜産家1軒から出荷されたもので、黒毛和牛という。
 東京都港区の都芝浦と場で8日に食肉処理され、厚生労働省からの要請で調査していた。今回、放射性セシウムが検出された牛はいずれも7月7日に出荷されたという。都によると、同じ畜産家の黒毛和牛は、5月30日に2頭、6月30日に3頭が芝浦と場で処理されていて、いずれも市場に流通しているという。
 芝浦と場では、農水省の指示で、福島第一原発から20〜30キロ圏内から出荷された牛でも、他地域の牛と同様、放射性物質についての特別な調査はしていない。ただし、厚労省からの指示が今回をのぞいてこれまでに5回あり、その際に行った検査ではいずれも基準値を下回っていたという。

セシウム検出の福島牛・農家から「6頭」が市場に流通

[Bloomberg.co.jp 更新日時: 2011/07/09 20:03 JST]

7月9日(ブルームバーグ):食品衛生法の暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された牛を所有していた福島県南相馬市の農家から6月末までの1カ月間に6頭の牛が出荷されていたことが明らかになった。東京都や厚生労働省などの関係者が9日、ブルムバーグ・ニュースの取材に答えた。当局は問題の牛肉の最終経路について追跡調査している。
 東京電力・福島第一原子力発電所の事故に伴う牛の放射能汚染をめぐっては、東京都福祉保健局が厚労省から検査依頼を受けた南相馬市内の緊急時避難準備区域の牛11頭すべてに高い放射性のセシウムが確認された。検出値の低い牛肉でも1キログラム当たり1530ベクレルと規制値(1キログラム当り500ベクレル)の3倍を記録したほか、高いものでは6倍超の3200ベクレルが測定された。
 発表資料では、検査した11頭の枝肉等をすべて保管しており、市場には一切流通していないとしている。福祉保健局によると、国内の牛肉から規制値を超えた放射性物質が検出されたのは初めて。
 福祉保健局の食品安全課の担当者は、同じ農家が5月30日から6月30日の間に出荷した別の6頭の牛について、福島県で体表検査を受けていたと説明している。厚労省からの要請で追跡調査をしている同局は現段階で、問題の肉が都内食肉市場から各地に流れたことを把握しているが、最終経路については調査中という。

体表調査

 福島県の農林水産部畜産課は、ブルームバーグ・ニュースの取材に対して、計画的避難区域と緊急時避難準備区域から出る牛については、すべて検査しており、今回問題となった牛は規制値を超えていなかったとしている。
 セシウム137の濃度は、1000分の1に薄まるのに300年かかるとされる。大気から地面に降り落ち浸み込むと、その地域を長い間汚染し続けることになるため、牧草で長期的に放牧されている牛への放射能汚染を懸念する専門家もいる。

NHKのこのニュース↓によれば、餌として与えていたのは去年刈り取った稲わらと輸入品の配合飼料だそうです。だとすると、地下水の汚染の可能性もあります。本当に徹底した原因調査が必要です。

牛出荷の農家“原因調査を”:NHKニュース

牛出荷の農家“原因調査を”

[NHKニュース 7月9日 17時16分]

 放射性セシウムが検出された肉牛11頭を出荷した福島県南相馬市の畜産農家の男性は、NHKの取材に対し、「とても驚いている。しっかり原因を調べてほしい」と話しています。
 この畜産農家の牛舎は、東京電力福島第一原発からおよそ30キロ離れた「緊急時避難準備区域」にあり、栃木県の企業から飼育を依頼された150頭余りの肉牛を飼育しています。農家によりますと、餌として与えていたのは去年近くで刈り取り保管していた稲のわらと、飼育を依頼されている企業から購入した輸入品の配合飼料だったということです。飼育用の水は深さ10メートルほどからくみ上げた地下水を使い、自分たちも飲んでいたということです。出荷の際には県の家畜保健衛生所の職員2人が牛舎に来て、スクリーニング検査を行い、問題はなかったということです。畜産農家の男性は「けさ、県から連絡を受けて放射性セシウムが検出されたと聞き、驚きました。原因が分からずとても不安です。水や餌なども含めしっかりと原因を調べてほしい」と話していました。

【追記】
その後の調査で、当該農家が、エサが足りないことから、屋外にあった干草を飼料として牛に与えていたことが判明した。しかし、これを当該農家だけの責任にしてはならないだろう。そもそも、屋外の牧草の刈り取り、飼料としての利用を禁止しただけでは、事故から4カ月もたって、どの畜産農家も飼料不足、あるいは飼料を買う経費の負担に悩んでいるはずだ。そこに行政が手を打たずに、ただ「屋外の牧草は飼料に使うな」と言っているだけでは、福島の農家はとても畜産を続けることはできない。

スイスでは、汚染された地域から家畜をすべて非汚染地域に移動(移動するまでの期間は、配合飼料などを食べさせた)させることで、畜産業の被害を防いだという。日本政府にもそれだけの覚悟と取り組みがあれば、今回のような事態は未然に防ぐことができたことは明らかだ。

政府は、食肉用の牛の全頭検査をやるといっているが、検査に時間がかかること、検査機器の台数が限られていること、牛肉だけでなく、その他の食品も検査しなければならないことなどを考えると、現実的ではない。農地、牧場等の放射能汚染の実態をできるだけすみやかに全面的に調査して、食肉の放射能汚染を未然に防ぐ手立てをとらなければならない。

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