18年前に安全委WGが「全電源喪失」の可能性を検討

今朝の「東京新聞」1面トップに載っていたスクープ記事。

18年前に、原子力安全委員会のワーキンググループ(WG)が、全交流電源喪失を想定した調査・検討をおこなっていたという。報告書は、全交流電源喪失が長時間におよぶと「炉心の損傷等の重大な結果に至る可能性が生じる」と、その危険性を認めておきながら、結論としては、全電源喪失の「発生確率は小さい」と結論づけたのだ。

同紙の「解説」記事によると、このワーキンググループには、東京電力や関西電力の技術者も参加していたという。どういう経緯で、全電源喪失の危険性が棚上げされたのか、どうしてワーキンググループの報告書が公開されなかったのか、徹底した検証が必要だろう。

18年前、全電源喪失検討 安全委幻の報告書:東京新聞

18年前、全電源喪失検討 安全委幻の報告書

[東京新聞 2011年7月13日 朝刊]

 福島第一原発事故の要因になった長時間の全交流電源喪失(SBO)について、原子力安全委員会のワーキンググループ(WG)が1993年、炉心損傷を招く可能性があると認めながら、「考慮する必要はない」とした国の安全設計審査指針を追認する報告書を出していたことが分かった。安全委は報告書を公表せず、その後の安全対策にも生かしていなかった。 
 安全委の班目(まだらめ)春樹委員長は「『SBOを考えなくてよい』と書いたのは最悪」と認めた上で「前から安全規制改革をやっていれば事故は防げた」と述べ、経緯を検証する方針を明らかにした。
 WGは原子力施設事故・故障分析評価検討会に設けられ、5人の専門委員と4人の外部協力者が参加。91年10月から93年6月にかけて非公開で12回の会議を重ね、国内外のSBOの規制上の扱いや発生例などを調査・検討した。
 本紙が入手した報告書では「短時間で交流電源が復旧できずSBOが長時間に及ぶ場合には(略)炉心の損傷等の重大な結果に至る可能性が生じる」と指摘。福島第一原発と同様の事故が起きる恐れに言及していた。
 さらに、米原子力規制委員会(NRC)が連邦規則で法的にSBO対策を求めたり、フランスでも危険を減らすため設計上考慮するよう国が求めたりするなど、一部の国で安全対策が講じられていることも指摘した。
 ところが、日本では(1)SBOの例がない(2)全原発に2系統以上の非常用電源がある(3)非常用ディーゼル発電機の起動の失敗率が低い――などとして「SBOの発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な状態に至る可能性は低い」と結論づけていた。
 米国などでは洪水やハリケーンなどを考慮して安全かどうか検討していたが、WGは自然災害を検討対象から除外して、長時間のSBOを考慮する必要がないとした安全指針を追認。報告書を公表することもなく「お蔵入り」させていた。
 第一原発は今回、地震により外部電源を喪失。さらに津波で非常用ディーゼル発電機が水没するなどして、全交流電源を失い、相次ぐ炉心溶融や水素爆発につながった。
 政府は6月に国際原子力機関(IAEA)に出した報告書で、津波などSBOの原因となる自然災害への考慮が不足していたことを認めている。

 全交流電源喪失(SBO) 発電所の外部電源がすべて失われ、さらに非常用ディーゼル発電機が起動できなくなった状態。福島第一原発事故では、1〜5号機でSBOになり、国際評価尺度で最悪のレベル7の事故につながった。原子力安全委員会が決定した「発電用軽水炉型原子炉施設に関する安全設計審査指針」の解説では、長時間のSBOについて「考慮する必要はない」「非常用交流電源設備の信頼度が(略)十分高い場合においては、設計上(略)想定しなくてもよい」としている。

「東京新聞」紙面では、吉岡斉・九州大副学長(原子力史、科学技術史)のコメントが載っている。

 吉岡斉・九州大副学長(原子力史、科学技術史)の話 長時間にわたるSBOは当然考えるべきことで、報告書が審査指針を追認したのは間違いだった。その後もSBOの報告書をあらためてチェックする機会はあったはずなのに、安全委の方向性としてそうならなかったのも失敗だった。日本は米国より地震や津波のリスクが高い。阪神大震災が起きたあとなどに再検討すべきだった。

さらに、紙面には「原発事故取材班」の「解説」が載っている。この解説記事がなかなか大事なポイントを突いている。

【解説】米仏は安全対策規定 本紙指摘で報告書“発見”

 SBOについて検討した安全委WGの報告書は、2つの大きな問題をはらんでいる。
 1つは、SBOが炉心損傷につながる恐れを認め、米国やフランスでは国が対策を求めていることを確認しながら、日本ではまずありえないとして、対策を講じる必要がないと判断したことだ。
 米国などでは、ハリケーンなども含めて検討していたが、WGは当然起こりうる自然災害を除外して検討し、安全にお墨付きを与えた。日本がたびたび地震に襲われてきた歴史を考えれば、明らかに誤った結論だった。
 もう1つは、報告書が公開されず、その後の対策にも生かされなかったことだ。安全委は報告書の存在すら知らず、本紙の指摘で初めてロッカーから見つける始末だった。
 これでは何のための検討か分からない。
 福島第一原発の事故は、まさにSBOによって引き起こされた。18年前の検討で、長時間のSBOにも耐えられるよう十分な安全対策が求められていれば、今回の惨事は防げた可能性がある。
 WGには5人の委員のほか、東京電力や関西電力の技術者が外部協力者として加わっている。電力会社側がどう影響力を行使したのか。なぜ十分な検討がされず、その後の安全対策に生かされなかったのか。安全委は、詳しく経緯を検証し、公表すべきだ。(原発事故取材班)

さらに、社会面の記事。ワーキンググループ設置の経緯などを紹介している。

全電源喪失報告書 ロッカー奥に「お蔵入り」 再検討の機会なく

[東京新聞 2011年7月13日朝刊]

 福島第一原発事故の大きな要因となった長時間の全交流電源喪失(SBO)が、18年前に原子力安全委員会のワーキンググループ(WG)で議論されていた。「炉心損傷等の重大な結果に至る可能性が生じる」。WGはそう認めながら「安全設計審査指針」の見直しに言及せず、報告は「お蔵入り」となっていた。なぜ安全はおろそかにされたのか。(原発事故取材班)

■段ボール箱に

 東京・霞が関の中央合同庁舎6階の原子力安全委員会事務局。そのロッカーに「過去の資料」としてしまわれた段ボール箱に、報告書は紛れ込んでいた。
 当時の事務局は、科学技術庁原子力安全調査室。保存期間は32年だが、内閣府に移った現安全委は、本紙が指摘するまでその存在を知らなかった。
 WGは、新型転換炉「ふげん」を設計した竹越尹氏(故人)が主査となり1991〜93年に開催された。動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、日本原子力研究所(原研、同)などの専門家が、委員として参加。東京電力などから4人が協力者として加わった。
 協力者だった原研幹部(56)によると、WGは米国でSBO対策が強化されたのを機に、日本でSBOが起きる可能性や安全規制強化の必要性を検討するため設けられた。
 だが、津波などの自然災害のデータは考慮されなかった
 「人的ミスや故障などの内的要因だけで、SBOを引き起こすすべての可能性をチェックできなかった」
 原研幹部はそう話し検討不足を認める。
 委員だった原研の元主任研究員(73.)によると、「日本では絶対大丈夫。運転実績からしてあり得ない」というのが、電力会社や多くの研究者の基本的な認識だったという。
 なぜ「大丈夫と判断したのか。協力者として参加した東京電力の幹部と関西電力の元幹部に取材を申し入れたが、多忙などを理由に応じなかった。

■日本は「安全」

 WGは、海外の事例を調査。米国で外部電源が最長19時間連続で失われたり、非常用発電機の起動に失敗してSBOが起きたりしたことを確認した。さらに米国が連邦規則でSBO対策を義務付け、フランスではSBOになっても3日間炉心を冷却できるよう国の安全規則で定めているごとも示した。
 ところが、日本は発電機の起動失敗率が米国より低く、電源を失っても蓄電池で8時間は給電できると評価。SBOになっても原子炉は5時間以上耐えられ「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。
 報告書は「新たな知見が得られた場合に設計や運転に反映するために努力をする」と記している。だが、再検討の機会がないまま今回の事故に至った。
 原研幹部は「何かできなかったか。じくじたるものがある」と悔いる。折しも震災で職場の棚から落ちたファイルに報告がとじられており、事故の後で読み直したという。
 「後にしっかりと検討された記憶がない。新潟県中越沖地震や阪神大震災の時に、ちゃんとやっていれば…。福島の事故を防げたか分からないが、警鐘は鳴らせたはずだ」

18年前に安全委WGが「全電源喪失」の可能性を検討」への2件のフィードバック

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