下野竜也×読響×ブルックナー+上岡敏之×東フィル×シューベルト

読売日本交響楽団第4回オペラシティ名曲シリーズ(2011年7月18日)東京フィルハーモニー交響楽団第806回サントリー定期演奏会(2011年7月22日)

先週は2つのコンサートを聴いてきました。

まず18日、下野竜也氏が振る読響のコンサート。ヒンデミット&ブルックナーという意欲的なプログラムでした(こういうのを「名曲コンサート」でやるあたりが下野さんらしい)。

  • ヒンデミット:〈さまよえるオランダ人〉への序曲〜下手くそな宮廷楽団が朝7時に湯治場で初見をした〜(下野竜也編・弦楽合奏版、世界初演)
  • ヒンデミット:管弦楽のための協奏曲 op.38 (日本初演)
  • ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 WAB.104 〈ロマンティック〉(ハース版)

22日は、サントリーで東フィルの定期。ヴッパータール響で活躍中の上岡敏之氏の指揮。

  • シューベルト:交響曲第7番 ロ短調「未完成」 D759
  • シューベルト:交響曲第8番 ハ長調「グレート」D944

まず、下野さんの読響定期から。

会場のオペラシティに着いてみると、ステージ後ろの2階オルガン前席にでかい時計と「読売温泉」と書かれた看板が置かれていて、なんじゃらほい? と思っていたら、開演とともに、はっぴを着たり、上着を着ずにノーネクタイでシャツの襟元をあけて、手ぬぐいやら団扇片手に、読響のみなさんが登場。なるほど、湯治場で午前7時に楽団が集合したということです。よく見ると、ステージ前方には、銭湯でよくみかける黄色い「ケロリン」の風呂桶までご丁寧に積み上がっておりました。(^_^;)

そこに、やはりはっぴ姿で下野氏登場。ぶつくさいうオケ・メンバーに楽譜をくばり、初見での演奏の始まり始まり〜。

で、ヒンデミットのこの曲、タイトルにあるとおり、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」序曲のパロディなんですが、なにせ「下手くそな宮廷楽団」が朝7時に集められて初見で演奏するわけですから、うまくゆくはずもなく、音程は外れっぱなし。それでもところどころで、おっ、ワーグナーじゃんという響きもあったりするんですが、またすぐそれがどこかへ消えていってしまう、という感じ。

ヒンデミットがこの曲を書いたのは1925年。ヒトラーが政権に就くのは1933年だけれども、そのヒトラー、ナチス党がワーグナーを持ち上げたことを考えると、なかなか感慨深いものがあります。当日の演奏は、オリジナルの弦楽四重奏を、下野氏自身が弦楽合奏版に編曲したもの。音程の外れ方は見事でしたが、せっかく管弦合奏版に編曲したのに縦の線がきっちりそろっていて、整然と音程を外しているあたりは、もう少し工夫の余地あり? というところでしょうか。(^_^;)

2曲目、今度はオケの皆さんも下野さんもぴしっと正装して登場。「管弦楽のための協奏曲」はヒンデミットの代表作の1つだと思うのですが、プログラムには「日本初演」の文字。ほんとかいな? と思いつつ、堪能させていただきました。

後半はブルックナー。下野さんは1969年生まれなので、まだ42歳。ブルックナーを振り始めるような歳じゃないでしょ、などと思いつつも、正攻法で正面からがっつり作品にとりくむ下野さんがブルックナーを振ったらどうなるか、期待でもありました。

しかし、この日の演奏は、1曲目の雰囲気を引きずってしまったのか、やや雑駁になったところもあって、ブルックナーの天上から降り注いでくるような、音楽のきらめきを作り上げるには至らなかったようです。

【関連ブログ】
東条碩夫のコンサート日記 7・19(火)下野竜也指揮読売日本交響楽団のヒンデミットとブルックナー

次は、上岡敏之氏が振った東フィル×シューマンのプログラム。

この日は、前日聴いた佐村河内守さんの交響曲第1番〈HIROSHIMA〉の印象が頭の中を駆け巡っているような状態を引きずったまま、コンサート会場に行ったので、そもそも目の前の演奏がなかなか頭に入ってきませんでした。

それでも、「未完成」では、サントリーホールの2階LDで聞こえるか聞こえないかくらいの、非常にかすかなコントラバスから始めたり、「グレート」では最終楽章の最後の最後で、ふっと音を小さくして独特の余韻を作り出したり、上岡さんの繊細な楽曲づくりを随所で楽しませていただきました。とはいえ、後者の「グレート」の最終部のせっかくの演出は、最後の音がまだかすかに響いているあいだに、でかい拍手&ブラボーと叫んだ大馬鹿野郎によって台無しにされてしまったのですが…。

ともかく、オケからあれだけ繊細な演奏を弾き出すあたりは見事。しかし、僕には、細かい芸に走りすぎているように感じられるところもありました。

プログラムノーツよれば、交響曲第8番は1828年の作曲ではなくて1825年だったことがわかり(自筆スコアから、それが判明したのは1978年、わずか33年前のことだそうです)、「死の影どころか、若々しい喜びに満ちた作品と見なければならなくなった」(野本由紀夫氏)とのこと。この日の演奏は、まさにそうした「若々しい」交響曲第8番だったのかもしれませんが、しかし、個人的には、やっぱりバーンスタイン&コンセルトヘボウ響のような演奏の方が好みです。

【演奏会情報】
◆読売日本交響楽団第4回オペラシティ名曲シリーズ
指揮:下野竜也/コンサートマスター:藤原浜雄/会場:東京オペラシティコンサートホール/開演:2011年7月18日 午後7時
◆東京フィルハーモニー交響楽団第806回サントリー定期シリーズ
指揮:上岡敏之/コンサートマスター:青木高志/会場:サントリーホール/開演:2011年7月22日 午後7時

※東フィルの演奏会は、HNK-FM シンフォニーコンサートで放送予定とのことです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください