少し古い記事だが、ロイターがおこなった企業調査の結果がウェブに出ていた。
記事では「電力不足問題、製造業の海外シフト要因に」となっているが、調査結果をみると、「中期的な電力不足や電力コスト上昇は、業務拠点を海外にシフトさせる要因となるか?」の質問に、「なる」と答えたのは13%だけ、50%は「ならない」と答えている。製造業に限っても、「なる」は25%にたいして「ならない」は38%だ。
海外需要にかんしても、「震災前を下回る」と答えているのは全体の23%、製造業では15%しかない。それにたいして、内需については、全体の42%、製造業の46%が「震災前を下回る」と回答している。むしろ問題なのは、内需の落ち込みなのだ。
ロイター企業調査:電力不足問題、製造業の海外シフト要因に:Reuters
ところで、「電力不足が続くと、企業が海外に出て行ってしまう」という議論にたいし、今日の「しんぶん赤旗」日刊紙がおもしろい話を紹介している。
電力不足 財界「海外移転」いうが/アジア 日本より深刻:しんぶん赤旗
経済同友会の代表幹事・長谷川閑史氏が、定例記者会見で「それほど簡単に海外に出ることができるのか。工場を移転するにしても、人員の確保にも、ある程度の時間がかかるし、受け入れ国の電力供給が確保できるかという懸念もあると思うが」という記者の質問に、「ご指摘の点はごもっとも」と答えているのだ。
中国やベトナムの電力不足は深刻で、突然の停電や輪番停電などがやられている。そんなところへ、電力不足を理由に生産拠点をシフトさせる企業があるとしたら、そうとうぼんくらな企業だろう。
「電力不足が続くなら、企業が海外へ出て行ってしまう」というのは、原発の早期再開を求める財界の「脅し」でしかない。
ロイター企業調査:電力不足問題、製造業の海外シフト要因に
[ロイター 2011年 07月 14日 13:15 JST]
[東京 14日 ロイター] 現在停止している原子力発電所の再稼動問題についてロイターがまとめた企業調査によると、原発停止が企業活動にとってかなりの制約になるとの回答が製造業で4割弱に上ることが明らかとなった。
中長期的な電力不足やコスト上昇が海外シフト要因になると回答した企業は製造業の25%を占め、「わからない」と回答した「様子見組」を将来的な海外シフト予備群として含めると50%に達し、電力問題が製造業の空洞化につながる可能性が浮き彫りとなった。
今回の調査期間中の6日、菅直人首相は原子力発電所に新たなストレステストを導入することを発表している。調査期間は6月27日から7月11日まで。調査対象は400社、回答社数は267社程度。<原発再稼働は製造業への影響大きく>
各地の停止中の原子力発電所の再稼働が難しい状況になっているが、今後1、2年を見通して「企業活動の制約になる可能性がある」との回答は製造業で38%を占めた。非製造業では9%。どちらも「さほど大きな制約にはならない」との回答の方が多いが、今後の影響について「わからない」との回答も含め、5割程度の企業が不安や制約を感じている姿が示された。
<電力不足でが海外シフトは予備軍含め50%、電機は積極的>
停止中の原子力発電所の再稼働が遅れたり、火力や再生可能エネルギーへの転換が進む場合でも、その過程で中期的に電力不足や電力コスト上昇の可能性があるが、こうした事態を業務拠点の海外シフト要因と捉えているのは、製造業で25%となった。「わからない」との回答も25%にのぼり、将来的に海外シフトを選択する可能性もある。合わせて5割の企業が海外シフトする可能性もありそうだ。
特に電力の安定供給が生産活動に欠かせない「電機」は、この問題で海外シフトが避けられないとみている。海外シフト要因に「なる」との回答が50%、「わからない」を含めると79%にのぼった。石油・窯業も38%、「わからない」を含めると51%、輸送用機器は27%、「わからない」を含めると47%となった。
企業の間では「大震災や電力不足が海外進出の背中を押している」(電機)との厳しい見方がある。「自動車メーカーの海外生産移転が促進される見通しのため」(輸送用機器)など、取引先の移転に伴い自社も移転する意向を示す声も寄せられた。<国内設備投資は震災前より抑制する企業が1割>
設備投資計画について、大震災の影響を調査したところ、「震災前と変わらない」との回答が全体の86%となった。震災後も企業の投資計画が大きく変化していないことがうかがえる。
一方で、国内投資に絞って聞いたところ、震災前より抑制するとの回答が10%を占め、中でも、鉄鋼・非鉄や輸送用機器などは20%以上を占めた。電機や金属・機械も10%以上に上った。非製造業でも小売りが10%、サービス・その他で13%となった。国内投資については「売り上げが伸び悩む中、積極的な設備投資へのかじ切りは難しい状況」(サービス・その他)との声もあり、「海外投資活発化が雪崩を打って発生する予兆があり、海外投資を加速するのは自然」(電機)とのコメントが寄せられている。
国内投資を「増やす」との回答には「節電対策」や「国内分散生産の推進」といった内容が目立った。<供給より需要回復出遅れ、受注水準は4割が震災前を下回る>
大震災後の供給・需要の回復度合いを聞いたところ、震災前を下回るとの回答が生産やサービスの供給体制については全体の10%の企業だったのに対し、需要水準については39%にのぼった。特に内需の戻りが鈍く42%を占めたほか、外需でも23%が下回っていると回答した。(ロイターニュース 中川泉;編集 宮崎亜巳)
ロイター企業調査:東日本大震災の影響
Q.3月11日の東日本大震災前と比べて、貴社の現在の新規受注量や販売量の水準はどの程度ですか。(ひとつだけ)
震災前を上回る 震災前と同程度 震災前を下回る 全体 11 49 39 製造業 10 50 40 非製造業 13 48 39 Q.内需に限定した、貴社の現在の新規受注量や販売量の水準はどの程度ですか。(ひとつだけ)
震災前を上回る 震災前と同程度 震災前を下回る 全体 12 47 42 製造業 9 45 46 非製造業 14 48 38 Q.外需に限定した、貴社の現在の新規受注量や販売量の水準はどの程度ですか。(ひとつだけ)
震災前を上回る 震災前と同程度 震災前を下回る 全体 10 67 23 製造業 14 71 15 非製造業 7 61 32 Q.各地の原子力発電所の再稼動が問題となっていますが、貴社では先行き1、2年を見通して、企業活動の制約になる可能性についてどう予想していますか。(ひとつだけ)
かなりの制約となる可能性がある さほど大きな制約にはならない わからない 全体 28 51 21 製造業 38 47 15 非製造業 13 48 39 Q.各地の原子力発電所の稼動状況次第では、この先1、2年電力が不足する事態に陥ったり、電力料金が上昇する可能性があります。こうした中期的な電力不足や電力コスト上昇は、貴社の業務拠点を海外にシフトさせる要因となりますか。(ひとつだけ)
なる ならない 海外シフトはできない わからない 全体 13 50 18 20 製造業 25 38 12 25 非製造業 2 61 23 15 東日本大震災後の貴社の国内設備投資への方針は、何か変化がありますか。(ひとつだけ)
震災前と変わらない 国内投資は震災前計画より増やす 国内投資は震災前計画に比べて抑制 全体 86 4 10 製造業 81 5 14 非製造業 90 3 7 *四捨五入のため、合計値が100%にならない場合がある(2011年7月12日作成)
電力不足 財界「海外移転」いうが アジア、日本より深刻
[2011年7月27日 しんぶん赤旗]
大企業、財界は電力不足が続くと工場を海外に移さざるをえなくなると、またもや「空洞化」の大合唱です。しかし、アジア途上国の電力不足は日本以上に深刻です。
「ごもっとも」
「それほど簡単に海外に出ることができるのか。工場を移転するにしても、人員の確保にも、ある程度の時間がかかるし、受け入れ国の電力供給が確保できるかという懸念もあると思うが」
20日、経済同友会・長谷川閑史代表幹事の定例記者会見で記者からこんな質問が出ました。長谷川氏の答えは「ご指摘の点はごもっとも」。「そう簡単に海外移転ができるわけではない」と認めました。急速な経済成長が続くアジアの途上国では深刻な電力不足が慢性化しています。
第一生命経済研究所が2日に発表した「定例経済指標リポート」は中国について、「電力不足の深刻化により、一部地域で輪番停電が実施されるなど生産への下押し圧力が高まっている」と分析しました。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、中国で最も多くの外国企業が集まる生産集積地、広東省など華南地域に電力を供給する南方電網が2011年と12年は例年にない電力不足に陥ると予想していると伝えています。
ジェトロが昨年10月に発表した「2010年度在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」は各国の電力事情について次のように述べています。リスクだらけ
「インドネシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム等では需給がタイトであり、短期的、局所的に価格高騰のリスクがある。現にフィリピンやインドネシアでは送電制約から、地域により既に供給不安が顕在化している」
また、アジア開発途上国の場合、設備の故障や劣化などのため、「発電設備でも設備定格出力まで出力が出せないケースが多い」と報告しています。
長谷川・経済同友会代表幹事の発言要旨はこちら↓から。
長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨 | 経済同友会
「未定稿」とされているので、関連部分だけここに貼り付けておく。
Q: 円高進行の深刻さや原発被害(や電力不足)による海外への生産シフトについては他の経済団体のトップも言及されているが、それほど簡単に海外に出ることができるのか。工場を移転するにしても人員の確保にもある程度の時間がかかるし、受入国の電力供給が確保できるかという懸念もあると思うが。
長谷川: ご指摘の点はごもっともである。先述の通り、来年は(安全性を確保した上で原発を)再稼動してでも、今年よりは電力供給を改善することを政府として明確にしていただければ、そう簡単に海外移転ができるわけではないので、抑制のファクターになると思う。ただ、それがないままに(電力不足が)何年続くか分からないという状況が長引けば長引くほど、数年がかりでも海外にシフトしていこうという判断を促進する材料になる。日本の状況を見て、電力の安定供給はもちろんのこと、法人税も数年間は大幅に割り引くなど(他国からの)具体的勧誘があると聞いている。国際競争の環境下に晒されていることを政府はよく認識した上でお考えいただきたい。