大銀行は破綻処理したほうが経済は回復する

昨日の「読売新聞」に、「アイスランド、金融危機克服」という記事が出ていた。

中身は、ヨーロッパ経済の先行き不安がいわれるなかで、2008年に深刻な金融危機に見舞われた「アイスランドが着実に経済回復を果たしつつある」というもの。実際、2009年には実質GPDは-6.9%を記録したが、今年1〜3月期には前期比2.0%の伸びを示している。

興味深いのは、その一番の要因が、負債を抱えた大手銀行を救済せずに破綻させたことにある、というのだ。

そもそも金融危機は、ふくれあがったバブル(架空資本)が破裂して引き起こされたもの。このふくれあがった架空資本に始末をつけなければ、経済の本格的回復は望めない。というか、バブルに耐えきれなくなった経済が、本来の回復力を働かせた結果が、金融危機だったのだから、大量の公的資金をつぎ込んで負債を抱えた大銀行を救済すれば、バブルの始末が先延ばしされ、景気回復が遅れるのは当たり前なのだ。

もちろん、それに伴って金融業やIT産業などは海外に逃げ出したが、もともとそうした「繁栄」自体がバブルだったのだから、「バブルは困るが、金融業やIT産業は続けたい」というのは虫がよすぎる話。

振り返ってみれば、リーマン・ショックによる金融危機に、アメリカ政府は、大量の公的資金投入をおこなった。その結果、本来処理されるべき架空資本(過剰流動性)はそのまま温存された。それが、いまは、米国債の格付け引き下げで歴史的な円高を引き起こしている。この過剰流動性を片づけない限り、株価や為替レートの投機に振り回されるカジノ経済はいつまでも続くだけなのだ。

アイスランド金融危機克服 厳しい政策が奏功

[読売新聞 2011年8月29日朝刊]

大手行は破綻 海外投資家に負担

 欧州経済の減速が強まる中、2008年に深刻な金融危機に襲われた人口約32万人の島国、アイスランドが着実に経済回復を果たしつつある。大手銀行を救済?せずに破綻させるなど、大国と一線を画した政策運営が背景にある。(レイキャビクで中沢謙介)

アイスランドの実質経済成長率推移(「読売」8/29付)

アイスランドの実質経済成長率推移

 アイスランドはロンドンから飛行機で北に3時間、北極圏のすぐ南に位置する。
 レイキャビクの目抜き通りで104年の歴史を持つ宝飾店を営むシモンさん(67)は、「だいぶ景気は良くなってきたよ」と笑った。売上高が、安定して前年実績を上回るようになったという。
 アイスランドは、1990年代以降の銀行民営化を機に「金融立国」の道をひた走った。国内の銀行は海外銀行の買収を繰り返し、資産の合計が国内総生産(GDP)の約10倍に達した。購買力平価ベースで、国民1人当たりのGDPは2008年までの8年間で5割増え、人々は高級車や利殖用の住宅購入を競った。

■独自通貨の強み

 ところが、08年秋のリーマン・ショックで市場からの資金調達が難しくなると、身の丈を超えた資産を抱えた大手銀行は軒並み行き詰まった。09年のGDPは前年比6.9%も急落した。
 そこから政府が取った政策は、厳しいものだった。大手銀行を救済せずに破綻させた。イギリスやオランダなどから集まっていた預金については、国民投票の結果を踏まえ、保護することを拒んだ。海外の投資家は、いまだに11兆アイスランド・クローナ(約7兆円)の債権を回収できていない。「海外に負担を押しつけ自国を救った」(国際金融筋)との批判も浴びたが、アイスランド経済は身軽になった。
 通貨「クローナ」相場が急落して輸出競争力が高まるなど、ユーロ圏のギリシャやアイルランドと違って独自通貨を持つことも有利に働いた。

■漁業、観光へ回帰

 この結果、今年1〜3月期のGDPは前期比2.0%増のプラス成長となり、経済回復が鮮明になってきた。政府は通年でも2.5%の成長を予測している。
 金融業に集中していた人材は、漁業、観光など従来型の産業に戻ってきた。洗練された「北欧デザイン」を売りにするメーカーも生まれた。
 一方、高収入を求めて隣国のノルウェーやスウェーデンに移った人も少なくない。タクシー運転手のフロシさん(56)は「1度高い給料を味わった人は元の生活には戻れない。この国には雇用を支える産業がもっと必要だ」と嘆く。
 アイスランド大学のギルフィ・マグヌソン教授は「漁業に加え、エネルギーなど新たな産業を育てることが、アイスランドの進むべき道だ」と指摘している。

財務相「景気の安定達成」

 アイスランド経済について、シグフスソン財務相に聞いた。
 ――現状は。
 「はっきりと改善している。経済は成長し始め、景気の安定を成し遂げた」
 ――早期回復の要因は。
 「1番目は、銀行部門全体を助けなかったことだ。もっとも、資産規模が大き過きて助けられなかったのだが。2番目は、自前の通貨を持っていたことだ。経済危機で価値が切り下がり、輸出競争力が向上した。経済の規模が小さいので、迅速に新しい対応をとれたことも理由だ」
 ――危機の教訓は。
 「危機前、アイスランドはアメリカ的モデル、新自由主義の価値観に傾いていた。多くの市民が財産や仕事を失い、傷ついたことは決して忘れてはならない。伝統的な北欧の福祉社会を再構築したい」
 ――財政問題に揺れるユーロ圏に向けては。
 「一概には言えないが、危機対応を遅らせないこと、個々の国の社会や経済的な状況に合わせた対策を取るべきだということなどは、心に留め置くべきだ」

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