民主党・小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反(虚偽記載)の裁判で、東京地裁は、被告の元秘書3人に有罪の判決を下しました。
まず違法献金という点では、西松建設からの3500万円と水谷建設からの1億円は違法献金であったと認められた。小沢事務所が、地元の公共工事発注で「天の声」を出していたことも認定された。これは、こんどの事件だけにとどまらない重要な点といえるだろう。
また、4億円をめぐる虚偽記載についても、有罪の判決が下された。小沢氏は、この4億円についての説明を二転三転させながら、政治資金規正法違反事件としては、つまるところ、辻褄さえ合っていれば政治資金報告書は問題ないという態度だった。その点について、判決は、政治資金規正の趣旨を損ねるものだと厳しく批判したことは重要だろう。
しかし、そもそも4億円のカネはどこから出たか? という根本問題は、この裁判でも不明のままに残っている。小沢氏は、この点に裏づけをもって答えなければならない。
陸山会事件:元秘書3人有罪 裏献金受領を認定:毎日新聞
陸山会事件、西松建設事件裁判の判決要旨:日本経済新聞
陸山会事件:元秘書3人有罪 裏献金受領を認定
[毎日新聞 2011年9月26日 21時27分(最終更新 9月26日 22時11分)]
小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、元秘書3人が政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた事件の判決で、東京地裁(登石郁朗裁判長)は26日、元同会事務担当者の衆院議員、石川知裕被告(38)に禁錮2年、執行猶予3年(求刑・禁錮2年)を言い渡した。後任の事務担当者、池田光智被告(34)は禁錮1年、執行猶予3年(同・禁錮1年)、「西松建設」からの違法献金事件でも起訴された元会計責任者で元公設第1秘書、大久保隆規被告(50)は禁錮3年、執行猶予5年(同・禁錮3年6月)とした。
判決は「政治資金の流れを明らかにする法の趣旨を踏みにじり、政治不信を増大させた」と刑事責任の重さに言及する一方、執行猶予の理由として「動機・背景をなす小沢事務所と企業との癒着は、被告らが事務所に入る前から存在していた」などと述べた。同事件で強制起訴され、10月6日に初公判を迎える小沢元代表には厳しい情勢となった。石川被告は判決が確定すれば執行猶予期間中の公民権が停止されるが、石川、大久保両被告側は控訴の意向を示した。
陸山会事件について、判決は「元代表から借り入れた4億円の存在を隠す強い意思があった」と、会計処理の違法性を認めた。さらに石川、大久保両被告が土地購入の前後に中堅ゼネコン「水谷建設」から計1億円の裏献金を受領していた事実も併せて認め、「元代表の4億円が公表されればマスコミの取材攻勢に遭い、裏献金も明るみに出る事態を恐れた」という動機があったと述べた。
最も重い量刑となった大久保被告については「東北地方の公共工事での業者選定に小沢事務所の意向が決定的影響力を持っており、(その中で)『天の声』を出す役を担っていた」と指摘。大久保被告側は両事件について「会計責任者は名ばかりだった」「西松からの献金とは認識していなかった」と無罪を訴えたが、「事務所の政治献金の窓口が理解していなかったとは考えられない」などと、ほとんどを退けた。
石川被告は、報告書の借入金欄の「小澤一郎 4億円」の記載を根拠に「正しく元代表からの金を記載した」と主張したが、判決は複数の銀行口座に分散入金したり、土地購入日に陸山会の定期預金を担保に同額の銀行融資を受けた点などを疑問視。「被告は合理的な説明をしておらず、元代表の4億円を載せないための隠蔽(いんぺい)工作」と断じた。【野口由紀、山田奈緒】◇東京地検の八木宏幸次席検事の話
動機を含め当方の主張がほぼ認められたものと受け止めている。
◇小沢一郎元代表の弁護団の話
誠に不当な判決。証拠に基づく事実認定の代わりに、根拠のない推認を積み重ねた判決が控訴審で破棄されることは明らか。小沢氏の早期の無罪判決獲得に全力を尽くす。
◇石川知裕被告・弁護団の話
判決内容は極めて不当で、控訴して高裁の判断を仰ぐしかない。判決は独断的臆測を行って公訴事実を認定したもので、控訴審において必ずや破棄されるものと信じている。
◇判決の主な認定内容
<西松建設事件>
大久保隆規被告は03〜06年、陸山会と民主党岩手県第4区総支部が西松建設から計3500万円を寄付されたのに、両団体の政治資金収支報告書には「未来産業研究会」など2政治団体が寄付したと虚偽の記載をした。<陸山会事件>
(1)大久保、石川知裕両被告は共謀し04年10月、小沢一郎・民主党元代表から4億円を借り入れ土地取得費計約3億5261万円を支払ったのに、陸山会の収支報告書に記載しなかった。
(2)大久保、池田光智両被告は共謀し、05年分収支報告書に土地取得費計約3億5261万円を支出したと虚偽の記載をした。
(3)両被告は共謀し、07年に小沢元代表に4億円を返済したのに収支報告書に記載しなかった。
陸山会事件、西松建設事件裁判の判決要旨
[日本経済新聞 2011/9/26 19:31]
陸山会事件、西松建設事件の判決要旨は次の通り。
【西松建設事件】
新政治問題研究会と未来産業研究会は西松建設が社名を表に出さずに政治献金を行うために設立した政治団体であり、西松建設の隠れみのにすぎず、政治団体としての実体もなかった。献金は西松建設が自ら決定し、両研究会を通じて実行。寄付の主体はまさに西松建設だった。
岩手県や秋田県では、公共工事の談合で小沢事務所の了解がなければ本命業者にはなれない状況。小沢事務所の秘書から発せられる本命業者とすることの了解はゼネコン各社にとって「天の声」と受け止められていた。元公設第1秘書の大久保隆規被告は2002〜03年ごろから天の声を発出する役割を担うようになった。
西松建設は公共工事の談合による受注獲得のために寄付しているのだから、同社としては西松建設による献金と小沢事務所に理解してもらわなければ意味がない。献金の受け入れ窓口だった大久保被告が理解していなかったとは到底考えられない。
加えて、献金総額や献金元、割り振りなどの重要事項は、大久保被告が西松建設経営企画部長とのみ打ち合わせ、献金の減額・終了交渉でも大久保被告は「まあお宅が厳しいのはそうでしょう」と述べた。大久保被告も捜査段階で、両研究会が西松建設の隠れみのと思っていたとの趣旨を供述している。
大久保被告は、両研究会からの献金について、衆院議員の石川知裕被告、元秘書の池田光智被告が収支報告書に両研究会からの寄付だと虚偽の記載をすることを承知していた。大久保被告の故意は優に認められる。
両研究会からの寄付とする外形は装っているが、実体は西松建設から。他人名義による寄付や企業献金を禁止した政治資金規正法の趣旨から外れ、是認されない。【陸山会事件】
04年分収支報告書の「借入先・小沢一郎 4億円、備考・04年10月29日」との記載は、体裁から陸山会が小沢一郎民主党元代表から4億円を借り入れた日とみるのが自然かつ合理的。被告側が主張する「同年10月初め〜同月27日ごろまでに小沢から陸山会が借りた合計4億円」を書いたものとすると、それを担保にする形をとって小沢元代表名義で銀行融資を受け、転貸された4億円を記載しなかったことになり、不自然。
加えて、石川被告が4億円を同年10月13日から28日まで前後12回にわたり5銀行6支店に分散入金したことなどは、4億円を目立たないようにする工作とみるのが合理的。4億円を原資とする土地取得も04年分報告書に載ることを回避しようと隠蔽工作をしたとも推認される。■背景事情
4億円の原資は石川被告らに加え、用立てた小沢元代表自身ですら明快な説明ができていない。原資の説明は困難。
当時の水谷建設社長は胆沢ダム建設工事の受注に絡み、大久保被告の要求に応じて、04年10月に5千万円を石川被告に、05年4月に同額を大久保被告に手渡したと証言したが、ほかの関係者証言や客観的証拠と符合し、信用できる。一切受け取っていないという両被告の供述は信用できない。
陸山会は04年10月ごろ、原資が明らかでない4億円もの巨額の金員を借り入れ、さらに石川被告自ら、水谷建設から5千万円を受領した。小沢事務所は常にマスコミのターゲットになっており、これらのことが明るみに出る可能性があったため、4億円借り入れの事実を隠蔽しようとしたと推認できる。■石川、池田両被告の故意
4億円や土地取得費用など合計3億5261万6788円の不記載について石川被告の故意は明らかに認められる。
石川被告は「司法書士から『本登記を行った時が正式な所有権の移転』と聞いたので本登記の日を支出日にすることが正しいと思った」と述べるが、契約の経緯や内容を前提にすると、司法書士が述べたということ自体甚だ疑わしい。仮に事実でも故意を阻却しない。
池田被告は4億円について「小沢元代表の純然たる個人資産で陸山会を含む関連5団体が預かっており、返済は『借入金返済』に当たらない。寄付合計1億5千万円も4億円の一部で陸山会資産でなく『寄付』には当たらない」と述べ、弁護人も故意がないという。
しかし預かり金と言いながら「預かった理由や返済時期、5団体が分けて預かる理由や金額も分からなかった」などと述べ、著しく不自然、不合理で到底信用できない。
「石川被告から『小沢代議士から4億円を借りている』と聞いた」と述べ、元代表が巨額な個人資産を預ける理由もないことを勘案すると、池田被告は4億円を借入金と認識しながら返済を報告書に記載しなかったと認められる。1億5千万円についての主張も信用できず、故意があった。■大久保被告の故意、共謀
土地の本登記を05年に繰り延べるため、仲介業者との交渉をした際、大久保被告らは購入原資を既に確保し、当初の契約内容通り04年10月29日に残代金を完済し、所有権移転登記を受けることができた。完済後も仮登記にとどめるのは契約の経緯として極めて異例。
当時の大久保被告は小沢事務所の資金確保を図る立場だった。大久保被告も石川被告と同様、4億円借り入れがマスコミの関心の対象になることを危惧していた。
明示的にせよ黙示的にせよ、石川、大久保両被告が意思を通じていたことが強く推認され、そうでなくても石川被告が大久保被告に登記の繰り延べ交渉を依頼した際、隠蔽の一環として、その必要性と対応を説明し、認識を共有したとみるのが自然かつ合理的。大久保被告が異例の交渉をしていることが証左。
池田被告も石川被告から引き継ぎを受けるなどし、4億円を報告書に記載しないこと、仮装のため設定した定期預金担保融資にかかる借入金4億円や転貸金4億円は返済も含め記載しても構わないことなど、隠蔽について石川被告の意図と方法の説明を受け、認識を共通にしたことが認められる。大久保被告は池田被告との間でも意思を通じ合ったといえる。
大久保被告が報告書の提出に関し、法的義務を負う会計責任者だったこと、小沢事務所での役割や立場を考えれば、大久保被告は4億円借り入れを隠蔽する多大な利害関係があった。石川、池田両被告による報告書の虚偽記入や不記載は大久保被告にとっても自らの犯罪と評価されるべきものといえる。大久保被告に概括的な故意が認められ、共同正犯としての責任も肯定できる。
04年分報告書の4億円や土地取得費用などの不記載、05年分報告書における土地取得費用などの虚偽記入、07年分報告書の4億円返済の不記載、これに関わるつじつま合わせのための虚偽記入や不記載も大久保被告の故意、石川、池田両被告との共謀が認められる。
07年分報告書の架空寄付合計7千万円については池田被告が前記認識に基づき計上したと認めるに足る証拠はなく、池田被告から大久保被告に報告があったとも認められない。大久保被告の故意や共謀を認定するにはなお合理的な疑いが残る。【量刑理由】
西松建設事件での報告書の虚偽記入は、03〜06年までの4年分、額は陸山会の報告書では計2100万円、民主党岩手県第4区総支部については計1400万円に上る。
小沢事務所は談合を前提とする公共工事の本命業者の選定に強い影響力があり、影響力を背景に公共工事の受注を希望する企業に多額の献金を行わせていた。規正法の規制の下で、引き続き企業からの多額の献金を得るため、他人名義の寄付を受け、報告書上、明らかにならないよう虚偽記入した。
陸山会事件では、04年分報告書の不記載総額は8億9700万円余り、05年分と07年分では5億5千万円、虚偽記入の総額は3億7千万円(大久保被告については3億円)に上っている。
陸山会は原資を明快に説明するのが難しい4億円を小沢元代表から借りて本件土地を購入。取得時期が、談合を前提とした公共工事の本命業者の選定に対する影響力を背景に、小沢事務所が胆沢ダム建設工事の下請け受注に関し、水谷建設から5千万円を受領した時期と重なっていた。
そのような時期に原資不明な4億円もの資金を使って高額な不動産を取得したことが明るみに出れば、社会の注目を集め、報道機関に追及され、5千万円の授受や、小沢事務所が長年にわたり企業との癒着の下に資金を集めていた実態が明るみに出る可能性があった。本件は、これを避けようと敢行された。
規正法は、政治団体による政治活動が国民の不断の監視と批判の下に公明かつ公正に行われるようにするため、政治資金の収支の公開制度を設けている。
それなのに本件は、現職衆院議員が代表者を務める政治団体に関し、数年間にわたり、企業が隠れみのとしてつくった政治団体の名義による多額の寄付を受け、あるいは4億円の存在が発覚しないように種々画策し、報告書に多額の不記載や虚偽記入をしたものである。規正法の趣旨にもとる悪質な犯行だ。
しかも、いずれの事件も長年にわたる公共工事をめぐる小沢事務所と企業との癒着を背景とするもので、法の規制を免れて引き続き多額の企業献金を得るため、あるいは、癒着の発覚を免れるため、国民による政治活動の批判と監視のよりどころとなる報告書に意図的に数多くの虚偽記入などをした。
法の趣旨を踏みにじり、政治活動や政治資金の流れに対する国民の不信感を増大させ、社会的影響を見過ごすことはできない。被告らは不合理な弁解を弄して責任をかたくなに否認し、反省の姿勢を全く示していない。
大久保被告は、自らいわゆる天の声を発する役を担当し、企業との癒着に基づいた小沢事務所の資金集めに深く関わっていた。犯情は他の被告に比べて相当に重い。石川被告が果たした役割は非常に重要で責任は大きい。池田被告が果たした役割も重要である。
他方、小沢事務所と企業との癒着は、被告らが事務所に入る前から存在し、被告らがつくり出したのではないなどの事情も認められ、刑の執行を猶予するのが相当だ。〔共同〕