昨日から読んでいるのが、帚木蓬生氏の『蠅の帝国』(新潮社)。連続古典教室の会場前にお店を出していた書籍販売コーナーでみつけて、ついつい買ってしまったもの。
副題に「軍医たちの黙示録」とあるとおり、軍医を主人公とした短編集。全編、「私」という一人称で書かれていて、読み始めてみるとぐいぐいと引き込まれる。
もちろん、すべて創作だが、巻末には「主要参考資料」が9ページにわたってあげられていて、そのなかには多くの医師の回想も含まれている。その意味では、本書は「事実に基づいた」小説だといえる。
書名は、2篇目の、被爆直後の広島に入った元軍医(というべきだろう)の話(「蠅の街」)にちなむものだろう。街のいたるところに遺体が残っていて、そのために蠅が大量発生したのだ。先の大震災・津波のあと、被災地ではやはり蠅が大量発生した。そんなことを思いながら読んでいると、こみあげてくるものが押さえがたい。
【書誌情報】
著者:帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)/書名:蠅の帝国 軍医たちの黙示録/出版社:新潮社/発行:2011年7月/定価:本体1,800円+税/ISBN978-4-10-331419-6