日弁連(日本弁護士連合会)が政府の除染計画について意見書を発表。
じっくり読んでみると、指摘されるべき点がきっちり指摘されている。とくに、「除染は放射性物質の量を減らすものではなく,その場所を移動させるだけ」「除染による環境浄化には本質的な限界があることを確認すべきである」と指摘されていることは、厳しいが、現実の問題として認めざるを得ない。
日弁連が除染で政府に意見書 環境浄化に限界、賠償に力を:共同通信
1軒の家だけをとってみれば、高圧洗浄や表土除去によって除染することは可能だが、流された放射性物質は側溝、下水、河川などに沈殿することになるので、地域全体で考えれば、放射性物質は決して取り除かれていない。表土除去も、除去したあとの土をどうするのかという問題が解決していないし、8000万平方メートルすべての表土を削るなどということが実行できるものでないことは明らかだ。
そうすると、どうなるのか? 「住み慣れた故郷に帰りたい」という住民の皆さんの気持ちはよく分かるが、意見書が指摘するように、「別の場所にコミュニティを含む生活の場を再建することや事業所を再建する」ことを真剣に考えるべきだろう。
それに責任を持ってあたれるのは政府しかない。ていねいな説明と、はっきりとした展望をしめして、財政面を含めて政府がしっかり支えることを約束して、ことにあたってほしい。
日弁連が除染で政府に意見書 環境浄化に限界、賠償に力を
[2011/10/20 11:39 共同通信]
東京電力福島第1原発事故で拡散した放射性物質の除染をめぐり日弁連は20日、「放射性物質の量は減らず、場所を移動させるにすぎない。環境浄化には限界がある」とする意見書を政府に提出した。
警戒区域や計画的避難区域では避難の長期化が予想されることから、別の場所でのコミュニティー再建や賠償に力を注ぐべきだと指摘している。
意見書は警戒区域や計画的避難区域の追加被ばく線量の目標を年間1ミリシーベルト未満にすべきだとし、達成するまで地域指定を解除しないよう求めた。
日弁連の海渡雄一事務総長は「反対意見もあったが、福島県弁護士会の了承も得てまとめた」と話した。
なお、意見書の全文は、こちら↓のページから、PDFで読むことができます。
日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針骨子案についての意見書
少し前には、こんな記事も出ていた。
特集ワイド:道のり険しい除染 識者に聞く 求められる「安心」水準:毎日新聞
特集ワイド:道のり険しい除染 識者に聞く 求められる「安心」水準
[毎日新聞 2011年10月6日 東京夕刊]
◇高圧洗浄機にも限界が 屋根はふき替えも
福島第1原発事故に伴う「緊急時避難準備区域」が解除されたが、なお放射線量が高い市町村では、にわかに「除染」が焦点となっている。住民が安心して暮らせる環境は取り戻せるのか。福島で除染や線量の測定に関わる識者に聞いた。【大槻英二】
(1)学校のグラウンドの表土をはがす(2)側溝の泥を取り除く(3)高圧洗浄機で屋根を洗い流す――いずれも除染作業の模様を伝えるニュースなどでよく見かける光景だ。(1)は有効とされ、(2)(3)も一定の効果は認められるものの、高圧洗浄機への「過信」については疑問視する向きもある。
「除染作業をしている気にはなるかもしれませんが、高圧洗浄機では屋根そのものに強くこびりついている放射性セシウムを取り除くことには『限界』があるのです。一方、表面の土などは取り除けますが、汚染された水は下水に流れ、一部は川に流れて農作物や魚介類に影響が及ぶ。住宅密集地などで皆が洗浄機を使い始めれば、汚染水の押し付け合いにもなりかねません」
こう指摘するのは、京都精華大の山田国広教授(環境学)。山田教授は5月に福島大や大阪大の教員らと「放射能除染・回復プロジェクト」を結成、福島市内で、住民自らの手でできる除染方法をさぐる実験を重ねている。独自のマニュアルもつくり、代表世話人を務めるエントロピー学会のホームページなどで公開している。
高圧水洗浄は政府や福島県のマニュアルでも紹介されているが、「限界がある」とはどういうことか。
山田教授によると、セシウムは(1)水に溶けた状態(2)コケや木の葉など有機物に緩く結合した状態(3)ケイ酸塩など岩石成分に固く結合した状態――の三つの状態で存在していると考えられるという。つまり、土を取り除いて、高圧洗浄機で流せば、(1)(2)のセシウムは取り除かれるが、屋根などでは(3)が残ってしまうというのだ。
■
神戸大大学院の山内知也教授(放射線計測学)は9月14日、地元住民や市民団体の要請を受け、福島市内でも線量が高い地域のひとつとされる渡利地区で線量を計測した。学童保育に使われている建物内を調べたところ、床付近で毎時0・33マイクロシーベルトだったのに対し、はりの位置で0.52マイクロシーベルト、天井の下で0.72マイクロシーベルトと、高い位置ほど線量が高いことがわかった。屋外に出て、コンクリート製の屋根瓦の上を計測したところ、1.74マイクロシーベルトに達した。
山内教授は「屋根は高圧水洗浄をしたということでしたが、それでもこの程度までしか下がらない。屋内の線量を下げるには屋根をふき替えるしかないでしょう。まずは屋内を事故前の0.05マイクロシーベルトまで下げることを目標にするなど、安全地帯をつくっていくことが必要」と話す。
屋根と同様、道路のアスファルト、コンクリート製の側溝、敷石などにもセシウムが強くこびりつき、高圧水洗浄では一定程度までしか落ちないという。
■
「今回の原発事故で放出された放射性物質の総量はウランに換算すると広島原爆20個分」「7万人が自宅を離れてさまよっているときに、国会は一体何をやっているのか」――。
7月27日の衆院厚生労働委員会で政府の対応を厳しく批判し、除染の重要性を世に知らしめた東京大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授。東京都内の日本記者クラブで9月30日に行った講演では、除染とは「環境中の放射性物質を隔離して減衰を待つこと」であり、自らが福島県南相馬市の幼稚園などで行ってきた除染は「(放射線の影響を受けやすい)子どもや妊婦を守るための緊急避難的な除染であって、本当の除染ではない」と説明した。そのうえで「恒久的な除染は専門家や企業の知識や技術を結集する必要があり、膨大なコストがかかる。利権がらみの公共事業にしてはならない」と指摘した。
児玉教授によると、南相馬市のある幼稚園では除染前、屋根の上で33マイクロシーベルト、滑り台の下で5?10マイクロシーベルトなど、ところどころにミニホットスポットが見つかった。1回の除染で50%程度までは低減できるが、屋根などを0・5マイクロシーベルト以下にするのは難しいという。「屋根の材質によって、表面を削るか、全面的にふき替えるか、次のステップではノウハウをもつハウスメーカーなどの協力が必要になる」と話す。
一方、ふき替えでは大量の廃棄物が出るとして、山田教授らのプロジェクトでは、メーカーと提携し、屋根に接着剤を付けた布を貼って、表面をはがし取る製品の共同開発を進めている。
政府の原子力災害対策本部が8月26日に発表した「除染に関する緊急実施基本方針」では、今後2年間の暫定目標について「年間被ばく線量を約50%減少させる(子どもは約60%減少)」と掲げた。その内訳は、放射性物質の物理的減衰や風雨などの自然要因による減衰(ウェザリング効果)によって2年で約40%減少すると想定し、除染で残りの約10%(子どもは約20%)を削減するとした。
これに対し、山田教授は「住民が求めているのは、線量を半分にすることではなく、安心して暮らせる水準に戻すこと。放射性物質が大量にまき散らされた今回の原発事故では、風雨による減衰は期待できない。拡散するばかりか、新たに濃縮する場所をつくってしまう可能性もある。放射性セシウム137の半減期は約30年だが、セシウム134は約2年。政府の目標は本格的な除染には取り組みませんと言っているのに等しい」と批判する。
そして、山田、山内両教授はこうも訴える。避難対象とはなっていないものの、福島市や郡山市などの線量が高い地域では子どもや妊婦をいったん避難させて、その間に除染を徹底して行うべきだと。児玉教授も「年間被ばく線量1ミリシーベルト以上の地域で、避難を希望する住民には、政府と東京電力が全面的に支援すべきだ」としている。
<われわれは、祖国の土壌という、先祖から預かり子どもに伝えるかけがえのない財産を汚染してしまった。しかし、人が汚したものなら、人がきれいにできないわけがない>。児玉教授は著書「内部被曝(ひばく)の真実」(幻冬舎新書)をこう結んでいる。
除去後の汚染された土などの仮置き場や中間貯蔵施設をどこにつくるかなどの難問も抱え、本格的な除染への道のりは険しい。