BBC “マルクスは資本主義については正しかった”

the revolution of capitalism - bbc 3 sep. 2011

ちょいと古い話題ですが、イギリスのBBC放送のA Point of View(視点)という番組で、9月3日に、The revolution of capitalism(資本主義の革命)と題してマルクスの資本主義論が取り上げられました。

中身は、「カール・マルクスは共産主義については間違っていたが、資本主義の大部分については正しかった」、資本主義は自分自身の社会的基盤である中産階級を破壊してきた、というもの。共産主義についはともかく、資本主義論としてはおもしろい議論です。

BBC News – A Point of View: The revolution of capitalism

というわけでヘッポコ訳をしてみました。

A point of view はBBCのRadio4で毎週金曜日に放送される番組。ジョン・グレイは、政治哲学者で『誤った夜明け。グローバル資本主義の誤解』という本の著者とのことです。

視点:資本主義の革命

[BBC 2011年9月3日]

 カール・マルクスは共産主義については間違っていたが、資本主義の大部分については正しかった。ジョン・グレイはこう書いている。

 金融危機の副作用として、ますます多くの人々がカール・マルクスは正しかったと考え始めている。19世紀の偉大なドイツ人哲学者、経済学者であり革命家は、資本主義は根本的に不安定であると信じた。
 資本主義には、より大きなブームと破滅を作り出す傾向がビルトインされており、長期的には自分自身を破壊するにちがいないというのだ。
 マルクスは、資本主義の自滅を歓迎した。彼は、大衆的な革命が起こり、より生産的ではるかに人間的な共産主義システムを実現すると確信していた。
 マルクスは、共産主義については間違っていた。彼が予言的に正しかったのは、資本主義の革命のとらえ方においてだった。彼は、資本主義固有の不安定性を理解しただけではない――もちろん、この点で彼は、当時の、また現在の大多数の経済学者よりも鋭かったのだが。
 もっと深くマルクスが理解したのは、どのようにして資本主義が自分自身の社会的基盤――中産階級 the middle-class の生活様式――を破壊するか、ということだった。ブルジョアジーとプロレタリアというマルクス主義者の用語は古い響きをもっている。
 しかし、資本主義は中産階級を当時の厳しく抑圧された労働者の不安定な存在に似た状態におとしいれるとマルクスが主張するとき、彼は、いまわれわれが格闘しているわれわれの生活様式の変化を予測していたのだ。
 彼は、資本主義を、歴史上もっとも革命的な経済システムとして描き出した。資本主義がそれ以前の経済システムと根本的に違っていることは疑い得ない。
 狩猟・採取民は、何千年もその生活を守り続け、奴隷は長期にわたって耕し、封建社会は何世紀も続いた。反対に、資本主義は、それが触れるものすべてを変化させる。
 資本主義は、絶えず変化するだけではない。企業と産業は、革新の絶えざる流れのなかで創造され破壊され、その一方で、人間関係は解体され新しい形態で再現する。
 資本主義は、創造的破壊のプロセスとして描かれてきた。資本主義が驚くほど生産的であったことは誰も否定できない。実際、現在のイギリスに暮らす誰もが、資本主義が存在しなかった場合に受け取っていたであろう収入よりも多くの収入を得ている。

否定的な帰結

 問題は、プロセスの中で破壊されてきたさまざまなもののなかで、資本主義が過去において依拠した生活様式を破壊してきたことだ。
 資本主義の擁護者たちは、次のように主張する。資本主義はあらゆる人に利益を提供するが、それは、マルクスの時代にはブルジョアジー、資本を所有し、生活において適切な水準の安全と自由を享受した安定した中産階級だけが享受したものだ、と。
 19世紀資本主義においては、大多数の人々は何も持たなかった。彼らは、自分の労働を売って生活した。市場が低迷すると、彼らは厳しい生活に直面した。しかし、資本主義が発展するにつれて、ますます多くの人々がそこから利益を手にすることができるようになるだろう。資本主義擁護者たちはこう言う。
 誇るべきキャリアは、もはや、少数の特権ではなくなるだろう。もはや人々は、毎月毎月、不安定な賃金で苦労して生活することはないだろう。貯蓄、自身が所有する家屋および相当な年金によって保護され、彼らは、懸念なしに生活設計することができるだろう。民主主義および富の拡張とともに、誰かがブルジョア的生活から締め出される必要はなくなる。誰もが中産階級になれるのだ、と。
 実際には、イギリスやアメリカ、その他の先進国では、過去2、30年間にわたって、反対のことが起こっている。仕事の安定は存在しない。過去の職業や専門は、ほとんど消えうせて、生涯にわたるキャリアというものはほとんど記憶でしかない。
 もし人々がなんらかの富をもっているとすれば、それは彼らの家の中にある。しかし、住宅価格はつねに上昇するわけではない。いまのように信用が厳しいときには、彼らは数年間にわたって停滞するだろう。快適に暮らすことのできる年金をあてにできる人はますます少数派になっており、多くは十分な貯蓄を持ってはいない。
 ますます多くの人々が、将来のことをほとんど考えることもなく、その日暮しをしている。中産階級の人々は、彼らの生活が秩序正しく展開すると考えたものだった。しかし、人生を、最後から一つずつ昇っていくステージの連続とみなすことは、もはや不可能だ。
 創造的破壊のプロセスのなかで、梯子は外されてしまい、ますます多くの人たちにとって、中産階級であることは、もはや人生の目標にさえならなくなっている。

リスクを負わされる人

 資本主義が発展するのにつれて、それは大多数の人々を、マルクスの言うプロレタリア階級のような不安定な存在の新しいバージョンへと後戻りさせた。現在の収入ははるかに高いし、ある程度は、戦後の福祉国家の名残によって衝撃から守られてもいる。
 しかし、われわれは自分の人生コースをほとんど効果的にコントロールしてはいない。われわれは不安定さのなかで生活しなければならず、その不安定さは、金融危機に対処するためにとられた政策によって悪化させられている。物価上昇のもとでのゼロ金利は、あなたのカネにマイナスの報酬をもたらし、やがてあなたの資産を腐らせるということだ。
 多くの若者の状況はもっと悪い。必要なスキルを身につけるためには、あなたは、借金を背負わなければならない。いくつかの点から、あなたは貯蓄に努めるように再訓練されなければならないだろう。しかし、もし出発点から借金を背負っていたら、貯蓄は、あなたにできる最後のことだ。何歳であれ、今日、大多数の人々が直面している可能性は、不安定な生活である。
 資本主義は、人々からブルジョア的生活の安全を奪い取るのと同時に、ブルジョア的生活を送ってきたようなタイプの人々を絶滅させてきた。1980年代には、ビクトリア朝的価値観のことがしきりに言われた。そして、自由市場の促進者たちは、それがわれわれを過去の健全な美徳に連れ戻すだろうと主張したものだった。
 多くの人々にとって、たとえば女性や貧困者にとって、これらビクトリア朝的価値観は、彼らの効果においてほとんど無意味なものになっただろう。しかし、より大きな事実は、自由市場がブルジョア的生活を支えた美徳を掘り崩す働きをすることだ。
 貯蓄が融けてなくなってゆくとき、質素倹約は、破滅への道になるかもしれない。たくさん借金をして、破産宣告することを恐れない人こそが生き残り、成功へむかうのだ。
 市場の力によって持続的に変化させられる社会では、伝統的価値観は上手く機能せず、それによって生活しようとする人は誰もがガラクタの山にたどり着く恐れがある。

莫大な富

 市場が人生のすべての曲がり角に浸透した未来を展望して、マルクスは、「共産党宣言」で、「すべての固定したものは消え去る」と書いた。ビクトリア朝初期――「宣言」は1848年に出版された――のイングランドに生活する者にとっては、これは、驚くほど遠くまで見通した観察だった。
 当時、マルクスが生活した社会の周縁部以上に固定的に見えたものはなかった。一世紀半ののち、われわれは、われわれ自身が、彼が予告した世界にいることを発見する。そこは、あらゆる人の生活が暫定的で一時的であり、いつでも突然の破滅が起こりうる世界だ。
 ごくわずかな人々だけが莫大な富を蓄積してきたが、それははかない、たいていは幽霊のような性質をもっている。ビクトリア朝時代には、とてつもない富者は、自分たちのおカネをどう投資するかという点で保守的でありたければ、くつろいでそうすることもできた。ディケンズの小説の主人公たちは、最終的には、遺産を手に入れ、その後は永久に何もしない。
 今日、安息地はどこにも存在しない。市場の急激な変動は、わずか数年後であれ、何が価値を持っているか知ることができないほどだ。
 このような永久に休息することのない状態は、資本主義の永続革命であり、資本主義は、現実的に考えられる限りのどんな未来にわれわれを連れてゆこうとしているのかと私は考えてしまう。
 通貨と政府は、われわれがずっと安全だと思ってきた金融システムのさまざまな部分と一緒に、ほとんど破滅しかかっている。たった3年前に世界経済を凍りつかせる恐れのあったリスクは、手つかずのままだ。リスクは国家にしわ寄せされただけだ。
 政治家たちが、赤字を抑制する必要について何を言っても、負債は返済できないほどのスケールで膨れ上がっている。それらが膨れ上がるプロセスは、多くの人々にとって痛みをともない、多くの人々が貧しくなるプロセスと結びついている。
 結果は、非常に大きなスケールで激動が起こるという以上のものでしかありえない。しかし、 それは世界の終わりではないだろう。あるいは資本主義の終わりでさえないだろう。何が起ころうと、われわれは、依然として、市場がときはなってきた マーキュリー(商業の神様)のエネルギーとともに 生きてゆくしかないだろう。
 資本主義は、革命に導いてきたが、それはマルクスが期待したような革命ではない。燃えるようなドイツ人思想家はブルジョア的生活を嫌い、共産主義がそれを破壊することを期待した。そして、彼が予測したとおり、ブルジョア的世界は破壊された。
 しかし、共産主義に席を譲ったのではない。資本主義がブルジョアジーを殺してしまったのだ。

A Point of View: The revolution of capitalism

[BBC News:3 September 2011 Last updated at 23:27 GMT]

Karl Marx may have been wrong about communism but he was right about much of capitalism, John Gray writes.

As a side-effect of the financial crisis, more and more people are starting to think Karl Marx was right. The great 19th Century German philosopher, economist and revolutionary believed that capitalism was radically unstable.

It had a built-in tendency to produce ever larger booms and busts, and over the longer term it was bound to destroy itself.

Marx welcomed capitalism’s self-destruction. He was confident that a popular revolution would occur and bring a communist system into being that would be more productive and far more humane.

Marx was wrong about communism. Where he was prophetically right was in his grasp of the revolution of capitalism. It’s not just capitalism’s endemic instability that he understood, though in this regard he was far more perceptive than most economists in his day and ours.

More profoundly, Marx understood how capitalism destroys its own social base – the middle-class way of life. The Marxist terminology of bourgeois and proletarian has an archaic ring.

But when he argued that capitalism would plunge the middle classes into something like the precarious existence of the hard-pressed workers of his time, Marx anticipated a change in the way we live that we’re only now struggling to cope with.

He viewed capitalism as the most revolutionary economic system in history, and there can be no doubt that it differs radically from those of previous times.

Hunter-gatherers persisted in their way of life for thousands of years, slave cultures for almost as long and feudal societies for many centuries. In contrast, capitalism transforms everything it touches.

It’s not just brands that are constantly changing. Companies and industries are created and destroyed in an incessant stream of innovation, while human relationships are dissolved and reinvented in novel forms.

Capitalism has been described as a process of creative destruction, and no-one can deny that it has been prodigiously productive. Practically anyone who is alive in Britain today has a higher real income than they would have had if capitalism had never existed.

Negative return

The trouble is that among the things that have been destroyed in the process is the way of life on which capitalism in the past depended.

Defenders of capitalism argue that it offers to everyone the benefits that in Marx’s time were enjoyed only by the bourgeoisie, the settled middle class that owned capital and had a reasonable level of security and freedom in their lives.

In 19th Century capitalism most people had nothing. They lived by selling their labour and when markets turned down they faced hard times. But as capitalism evolves, its defenders say, an increasing number of people will be able to benefit from it.

Fulfilling careers will no longer be the prerogative of a few. No more will people struggle from month to month to live on an insecure wage. Protected by savings, a house they own and a decent pension, they will be able to plan their lives without fear. With the growth of democracy and the spread of wealth, no-one need be shut out from the bourgeois life. Everybody can be middle class.

In fact, in Britain, the US and many other developed countries over the past 20 or 30 years, the opposite has been happening. Job security doesn’t exist, the trades and professions of the past have largely gone and life-long careers are barely memories.

If people have any wealth it’s in their houses, but house prices don’t always increase. When credit is tight as it is now, they can be stagnant for years. A dwindling minority can count on a pension on which they could comfortably live, and not many have significant savings.

More and more people live from day to day, with little idea of what the future may bring. Middle-class people used to think their lives unfolded in an orderly progression. But it’s no longer possible to look at life as a succession of stages in which each is a step up from the last.

In the process of creative destruction the ladder has been kicked away and for increasing numbers of people a middle-class existence is no longer even an aspiration.

Risk takers

As capitalism has advanced it has returned most people to a new version of the precarious existence of Marx’s proles. Our incomes are far higher and in some degree we’re cushioned against shocks by what remains of the post-war welfare state.

But we have very little effective control over the course of our lives, and the uncertainty in which we must live is being worsened by policies devised to deal with the financial crisis. Zero interest rates alongside rising prices means you’re getting a negative return on your money and over time your capital is being eroded.

The situation of many younger people is even worse. In order to acquire the skills you need, you’ll have to go into debt. Since at some point you’ll have to retrain you should try to save, but if you’re indebted from the start that’s the last thing you’ll be able to do. Whatever their age, the prospect facing most people today is a lifetime of insecurity.

At the same time as it has stripped people of the security of bourgeois life, capitalism has made the type of person that lived the bourgeois life obsolete. In the 1980s there was much talk of Victorian values, and promoters of the free market used to argue that it would bring us back to the wholesome virtues of the past.

For many, women and the poor for example, these Victorian values could be pretty stultifying in their effects. But the larger fact is that the free market works to undermine the virtues that maintain the bourgeois life.

When savings are melting away being thrifty can be the road to ruin. It’s the person who borrows heavily and isn’t afraid to declare bankruptcy that survives and goes on to prosper.

When the labour market is highly mobile it’s not those who stick dutifully to their task that succeed, it’s people who are always ready to try something new that looks more promising.

In a society that is being continuously transformed by market forces, traditional values are dysfunctional and anyone who tries to live by them risks ending up on the scrapheap.

Vast wealth

Looking to a future in which the market permeates every corner of life, Marx wrote in The Communist Manifesto: “Everything that is solid melts into air”. For someone living in early Victorian England – the Manifesto was published in 1848 – it was an astonishingly far-seeing observation.

At the time nothing seemed more solid than the society on the margins of which Marx lived. A century and a half later we find ourselves in the world he anticipated, where everyone’s life is experimental and provisional, and sudden ruin can happen at any time.

A tiny few have accumulated vast wealth but even that has an evanescent, almost ghostly quality. In Victorian times the seriously rich could afford to relax provided they were conservative in how they invested their money. When the heroes of Dickens’ novels finally come into their inheritance, they do nothing forever after.

Today there is no haven of security. The gyrations of the market are such that no-one can know what will have value even a few years ahead.

This state of perpetual unrest is the permanent revolution of capitalism and I think it’s going to be with us in any future that’s realistically imaginable. We’re only part of the way through a financial crisis that will turn many more things upside down.

Currencies and governments are likely to go under, along with parts of the financial system we believed had been made safe. The risks that threatened to freeze the world economy only three years ago haven’t been dealt with. They’ve simply been shifted to states.

Whatever politicians may tell us about the need to curb the deficit, debts on the scale that have been run up can’t be repaid. Almost certainly they will be inflated away – a process that is bound to be painful and impoverishing for many.

The result can only be further upheaval, on an even bigger scale. But it won’t be the end of the world, or even of capitalism. Whatever happens, we’re still going to have to learn to live with the mercurial energy that the market has released.

Capitalism has led to a revolution but not the one that Marx expected. The fiery German thinker hated the bourgeois life and looked to communism to destroy it. And just as he predicted, the bourgeois world has been destroyed.

But it wasn’t communism that did the deed. It’s capitalism that has killed off the bourgeoisie.

この手の話でよく言われることですが、マルクスは共産主義については正しくなかったというのは、マルクスをまったく読んでいない意見です。マルクス自身は、社会主義・共産主義の社会はこんなふうにすればうまくいく、と言った未来社会の青写真づくりを意識的にやらなかったからです。未来社会がどんな社会になるかは未来が決めること。だからマルクスは、未来社会については、生産手段を社会の手に移すこと、そのもとで生産力を高め労働時間を抜本的に短縮し、個々人の能力、可能性を存分にのばせる社会をつくること。そういう基本的な見通しを明らかにしているだけです。

最後に、毎度のくり返しですが、ヘッポコ訳ですので、転載・紹介される場合には、ご自分で英文にあたって訳文をお確かめください。訳文が間違っていても、私は責任を持ちません。なお、とんでもない勘違いをしている場合は、ぜひこっそりとご教授ください。m(_’_)m

BBC “マルクスは資本主義については正しかった”」への1件のフィードバック

  1. 訳文、読ませていただきました。おもしろいですね。一方の側に巨大な富が蓄積し、他方に貧困が蓄積し、その結果、中産階級が没落することをこの論文は、具体的に描き出した上で、それはマルクスの指摘通りだったというものでした。
    共産主義については正しくなかったというのは、GAKUさんのいうとおりです。マルクスのいったことを理解していません。
    「共産主義に席を譲ったのではない。資本主義がブルジョアジーを殺してしまったのだ。」という先、これから先にこそ、社会変革の時期、時代があります。

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