インターネットの日経新聞を眺めていて、こんな記事を見つけました。
デパートとか高級品メーカーの業績や株価が低迷するのにたいして、スーパーや外食チェーンなどの業績や株価は順調というのです。このグラフは見ものです。
「高級品企業」「生活防衛企業」として研究者がえらんだ10社がどこまで普遍的なのか、オイラには確かめる術もありません。しかし、これが日本社会の格差拡大の反映であることは確実。そして、いまの状態がこのまま続いたら、日本経済はほんとにガタガタになってしまうことも間違いないでしょう。
株価が示す「中流意識層」の大没落
[日本経済新聞 2011/10/31 7:00]
日本経済研究センター主任研究員 前田昌孝
野田佳彦首相が内閣発足の翌日に10分で料金1000円の理髪店に行って散髪したことが話題になった。当時は庶民的印象を持ってもらうための独特のパフォーマンスとも受け止められたが、野田内閣がこれまでに打ち出した増税策などを見ると、中堅世帯にとって普通の理髪店に行くのは「ぜいたく」になってしまうかもしれない。株価をみても高級品企業は低迷し、生活防衛企業に資金が集まっている。
厚生労働省の統計によると、理髪店は徐々に減少している。2010年3月末の店舗数は13万4552店と10年前に比べて6769店、率にして4.8%減少した。それでも家計の理髪料支出の減少にはとても追い付いていない。総務省の家計調査によると、2人以上世帯は2010年の1年間に平均5546円の理髪料を支払った。10年前は8069円だったので何と31.3%も少なくなった。ピークだった1993年の9956円と比較すると、44.3%も「カット」された。
家計の苦しさはもっといろいろなところに表れている。ネクタイの年間購入額が10年に710円と92年の2757円の約4分の1になったのは、クールビズの普及も一因だ。しかし、男子用の靴が3649円と90年代前半のピーク時の41.7%減になり、男子用の靴下も1741円と42.2%減になった。スーツに至っては平均で年5853円しか支出していない。ピーク時を69.3%も下回る。だから、株価を見ても、中堅層のちょっとしたぜいたくに応えるような商品やサービスを提供している高級品企業は低迷が続く。百貨店やホテル、高級ブランド商品のメーカーなど10社を抽出し、合計時価総額の推移をみると、米国の住宅バブルが崩壊する前の06年1月には6兆9300億円のピークを記録したが、直近では2兆7800億円と59.9%も減少した。リーマン・ショック後の落ち込みからの回復も鈍い。
米市場ではティファニー、コーチ、ササビーズ、ロイヤル・カリビアン・クルーズなどの株価が大きく上昇し、高級品消費の健在ぶりを示している。しかし、日本では低所得層が目の敵にするような超富裕層が少ないこともあり、高級品企業といっても基本は中堅層相手。その層の家計が余裕を失い、今後もさらに負担増を余儀なくされそうなことが、株式市場での警戒感につながっているように見える。
実際、大和総研の是枝俊悟氏の試算によると、夫婦のうち片方が働き、小学生の子どもが2人いるモデル世帯の場合、世帯年収が1000万円だと2013年の可処分所得は11年を40万円強下回る。世帯年収が1500万円だと44万円強、2000万円だと60万円強下回るという。復興のための臨時増税もさることながら、子ども手当が廃止され、代わりに導入される新児童手当の支給対象にならないことや、厚生年金保険料の引き上げが家計を圧迫する。
さらに野田首相は11月3〜4日にカンヌで開く20カ国・地域(G20)首脳会合で2010年代半ばに消費税率を10%に引き上げる方針を「国際公約」するという。日本の家計の平均消費性向は80%程度だから、学校教育費など非課税項目があるにしても、年収1000万円の世帯ではさらに年30万円を超える負担増になりそうだ。厚生年金の支給開始年齢が68?70歳に引き上げられる可能性なども考慮すれば、よほどの昇給でもない限り、財布のひもを固く締めて備えるしかない。
だからというわけではないが、筆者が選んだ生活防衛企業10社の時価総額はじわじわと高級品企業10社の時価総額と差を縮めている。10年前には前者が後者の30%前後だったが、直近では60%弱にまで高まった。特にリーマン・ショック後にスカイマークの株価が大きく上昇し、ファーストリテイリングや王将フードサービスにも将来性を期待した買いが入っている。業績をみても高級品10社の売り上げは頭打ちなのに対し、生活防衛10社は伸びている。利益面では10年3月期には生活防衛10社の合計経常利益が高級品10社の合計経常利益を初めて上回り、12年3月期にはさらにその差を広げる可能性がある。もともとの低所得者に加えて家計の余裕を失った中堅層が参入し、生活防衛企業はこれからますます栄えるのかもしれない。
米国のように1%の超富裕層に富が集中する社会も健全ではなさそうだが、日本のように勝者がいない社会もさびしい。個人資産を何百億円も持ち、しかも多くの国民から尊敬される日本人はいないのだろうか。